二十話 冒険に向けての覚悟を問うオッサン
信雄が「ただいま〜!」と玄関を上がると、家の中が一気に華やいだ。広子を先頭に、三人の女子高生たちが弾むような足取りで出迎える。
しかし、一歩踏み出した彼女たちの動きが、信雄の姿を目にした瞬間にピタリと止まった。
「信雄さん、おかえりなさい!……って、えっ? それが今の『正装』なんですか!?」
「おじさんおかえり! ちょっと、どうしたのそのボロボロな格好!」
「おじさん、おかえり……何、そのコスプレみたいな服……」
「信雄さん、おかえりなさいませ。……少し、お疲れのご様子ですが?」
四者四様の反応に、信雄が苦笑いでお茶を濁そうとしたその時。
広子の鋭い視線が、信雄の陰陽服の袖口にこびりついた「紅い跡」を捉えた。彼女の顔から、さっと血の気が引いていく。
「信雄さん。随分と帰りが遅かったようですが……国府で、一体『何』があったのですか?」
その静かな、けれど逃げ場を許さないトーンに、信雄は露骨に目を逸らした。
広子の纏う空気が一変する。
「……『旦那様』? 何か、私に隠し事をしていらっしゃいますね?」
呼び名が「旦那様」に変わった。それは、彼女が本気で詰め寄る時の、逃走不可のサインだ。
信雄は慌てて、国府でせしめてきた豪華な調度品や艶やかな反物、さらには山のような米俵を次々と取り出してみせた。
「ほら、見てくれ! こんなに凄いお宝を……!」
場を誤魔化そうと必死にまくしたてる信雄だったが、広子の目は騙せない。広子は差し出された宝物には目もくれず、確信に満ちた眼差しで信雄の心の奥底を覗き込んでいた。
その静かな威圧感に、信雄の嘘は脆くも崩れ去ります。
「……分かった、話すよ」
ついに根負けし、重い口を開いた信雄。語られたのは、凄惨を極めた国府の防衛戦の真実でした。死線を越えてきた男の告白を聞き終えた瞬間、広子は耐えきれなくなったように信雄の胸に顔を埋め、堰を切ったように泣き崩れました。その震える肩、嗚咽の熱さに、信雄は激しく狼狽した。
「おい、頼むよ、誰か……!」
助けを求めるように、信雄は傍らにいた女子高生たちへ縋るような視線を向けたが、しかし、彼女たちは驚くほど冷徹に、あるいは空気を読んでか、手際よく米俵を猫車に積み込んだ。
「これ、村に届けてくるから。昼も向こうで済ませちゃうね!」と、弾んだ声とは裏腹な足早さで、彼女たちはあっという間に背を向けて去っていきました。
あとに残されたのは、遠ざかる車輪の音と、胸の中で泣き続ける一人の少女。
逃げ場をすべて断たれた信雄は、吹き抜ける風の中で、人生最大の「難題」にたった一人で向き合うことになった。
「……旦那様ッ、私がどれほど、どれほど心配したか……っ! その御心、微塵も解っておられないのですか!」
そう叫び、信雄に馬乗りになって激しく詰め広子。最強の陰陽師が、広子の愛の説教に為す術なく萎縮する様は、滑稽ですらある。
その狂騒が過ぎ去った後、JK(女子高生)たちが目撃したのは、驚くべき光景だった。
さきほどの激昂が嘘のように、艶やかで生命力に溢れ、満足げに腹を撫でる広子。そして、その横で完全に精気を吸い尽くされたように萎び、魂が抜けたかのような信雄の姿。
その後、この出来事について問われた信雄が、口を濁し、決して真実を語ることはなかった。
あの二人の間に何が起きたのか――。
それを知るのは、天なる神のみである。
信雄の精神が磨り減り、ようやく長い一日が暮れようとしていた頃。夕闇が迫る村に、久方ぶりに弥助一家や喜一郎、そして浄泉ら数人の男たちが姿を現した。彼らの眼差しには、隠しきれない不安と、一縷の望みが混在している。
「信雄様、例の国司様との件……首尾はいかがでしたか?」
重い沈黙を破る問いに、信雄は深く息を吐き、静かに、だが確信に満ちた声で口を開いた。
「案ずるな。長家様の病をこの手で癒やし、正式に約定を交わしてきた。今年の年貢は……『二公八民』だ。もちろん、不当な労役もすべて免除される。」
その瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、弥助も晴子も、喜一郎までもが深く胸を撫で下ろした。男たちの瞳には光が戻り、言葉にならない感謝の念が、さざ波のように信雄へと注がれる。
そんな安堵の空気の中、浄泉がふと真剣な面持ちで身を乗り出した。JK(女子高生)たちから漏れ聞いたのか、彼の口から出たのは「国府で起きた化け物との死闘」についてだった。
「……あれは昨日のこと。国府の長家様へ酒の献上品を届けに上がった際、長家様が病で臥せっておられることを知った。
即座に私の術と物資を用いて治療を施したが、それが禍の引き金となったようだ。
どうやら八十禍津日神の眷属の怒りに触れたらしい。奴等は悪鬼の軍勢をぞろぞろと引き連れ、破滅を撒き散らしながら押し寄せてきたのだ!」
男は一息つき、再び熱を帯びた声で語り出す。
「奴等がすぐそこまで迫る中、長家様は皆に『逃げよ』と命じ、ご自身は『義務である』と残る決意を固められた。
命を賭したあの漢の覚悟……あんな悲壮な姿を見せられて、はいサヨナラと背を向けられる奴がどこにいる!?あれほどの人望あるお方、ここはひとつお節介を焼いて参戦し、決死の開戦となったわけだ!」
男たちの力強い頷きが波のように広がり、その場の空気は信雄が放つ熱量に当てられ、じりじりと焦げ付くような熱を帯びていた。
一方、晴子と広子の親子は、「また始まったよ、この男は……」と言わんばかりの冷ややかなジト目を揃って信雄に突き刺す。
その鏡合わせのような反応に、信雄は「やはりこの二人は親子だな」と内心で苦笑しつつも、言葉の翼をさらに広げていった。
「敵軍の総数、およそ一万。対する我らは、わずか二百五十……。常識に照らせば、塵ひとつ残さず蹂躙され、歴史の藻屑と消えるのが関の山でしょう。だが、その絶望の淵には『彼』がいた。そう、この私――陰陽師、楠木信雄がね!」
信雄の宣言に、男たちは自らがその絶望的な戦場に立たされた光景を幻視し、身震いした。恐怖ではない。それは、圧倒的な逆境に立ち向かう者だけが味わう武者震いだった。
「いざ戦端が開かれようとしたその時です。奴らは人の道を踏み外した、悍ましき挑発を仕掛けてきました。捕らえた無辜の民――男、女、そして幼き子供たちの首を袋に詰め、嘲笑と共に国府内へと投げ入れてきたのです。城内の兵たちはその惨状に腰を抜かし、魂を凍りつかせました。……しかし、化け物らは致命的な過ちを犯した。この私を、本気で怒らせてしまったことだ!」
信雄の瞳に、当時の激情を宿した鋭い光が宿る。
「逆巻く怒りに身を任せ、私は全霊の術を解き放った。天地を揺るがす一撃が戦場を薙ぎ払い、刹那、一万の軍勢の六割が消滅したのです!」
その瞬間、村の男たちはもちろん、弥助、喜一郎、そして一郎、二郎の兄弟までもが、身を乗り出さんばかりの勢いで話に釘付けになった。泰然自若を貫いていた浄泉でさえ、男としての血が騒ぐのか、数珠を握る手にじっとりと汗を滲ませ、固唾を呑んで信雄を見つめていた。
一方女性陣は杉崎以外はその様子に呆れており、非難の視線を向けてきた。
首の話は飯の前にする話ではないという圧を感じ平謝りし後を続けた。
「そうして、しばらく膠着状態が続いたのですが、奴等は小賢しくも兵に間隔をあけ散兵で攻め寄せて来ました、それでも総数四千程残っていたので近接戦など無謀です、国府側の射撃の為にと、国府への延焼を防止するため用意した堀の前に炎の壁を出し、錯乱した様に見せ掛け軍勢の四方に火を付け布石を打ちました。」
男連中はあまりの話に興奮しながら促す。
「奴等はもうこちらに余力がないとたかを括ったのか総攻めを開始しました、国府側の弓の迎撃力が低かったので騙されて突撃してきましたよ、私の罠とも知らずにね・・・私は、風の術を使い、奴等の進路と退路を業火で塞ぎ、四方から突風を送り青い業火で残りの奴等も焼き払いました、その後、奴等の親玉達が逃げようとしていたので、刀で仕留め今回の戦いは終わったのです!」
一連の戦いを聞いていた男連中は自分の事の様に喜び、杉崎は頬を赤くしているが、他の女性陣は仕方ない人だなみたいな、顔をしていた。
その後、集まった者だけで、信雄の帰還祝いの宴会をやり、その日は皆朝まで飲み食いし、次の日には朝飯も食わず帰って行った。
その日は、信雄の家の住人達も昼まで眠り、昼食後から農作業を始め、約三時間程で終了し、広子も含めた魔法の練習を行い、夜になった。
その夜、信雄は居間にJK達と広子を集め言った。
「皆、まずは座ってくれ!」
信雄のその言葉に、居間の畳に各自座った。
「良い知らせと悪い知らせどちらから聞きたい?」
「「「良い話から!」」」
信雄のその言葉に皆はそう返す。
「良い知らせは君達の帰還の道筋が見つかった。」
「本当ですか?!まさかこんな早くなんて!」
「さすが、おじさん!」
「おじさん、凄い!」
「さすがです、旦那様!それと、おめでとうございます!お三方!」
「「「それで、悪い知らせは?」」」
「転移先が時間以外はランダム転移であると言う話かな、もちろん転移後はその世界の座標がわかるから行き来出来る様になるけどね、幾つの世界を巡る事になるやら・・」
「そ、そうですか、残念ですね!」
「うっうん残念だね!おじさん」
「そっそだね~ドンマイおじさん!」
信雄の話を聞いた三人はガッカリよりも、少しホッとしている感じがするのは何故だろうか?
「まあ、だからこれから、君達の内の誰かと一緒に巡る事になる、何故なら君達しか違いが判別出来る者が居ないからだ、どうだ、志願者はいるか?」
その言葉を言い終わるか、終わらないかのタイミングで皆が手を上げた。
「おいおい全員かよ、よく考えてから手を上げているか?!何が待っているか、本当に分からないんだぞ!」
信雄のその話を聞いた皆は信雄の目を確り見据え思い思いの気持ちを伝えてきた。
「信雄さん、私達は、貴方に助けてもらってばかりで、自分達の帰る方法まで貴方に助けてもらい、場所の特定まで頼ったら、胸を張って自分の家に帰れないですよ、だから私も貴方と共に行きます!」
「そうだよ、おじさん!全部背負うのは、おじさんの悪い癖だよ!だから、私も参加ね!」
「うんうん、そうだよ、背負いすぎだよ!だから私も絶対参加ね!」
そんな事をJK三人組、いや、杉崎、木崎、小日向が言ってくる、其を聞き頷いた後、広子を見て信雄は言った。
「広子は残ってくれ!」
「嫌です!」
「聞き分けが悪いことを」
「嫌です!!旦那様は見てないと無茶していなくなっちゃいそうで、心配で私は頭がおかしくなっちゃいそうなんです!!」
そう言い、広子は信雄に抱きついてきた、信雄は其を受け止め、頭を撫でながら宥める。
「わかった!覚悟は受け取ったよ、広子の力も貸してくれ!」
「はっはい!旦那様・・・////」
二人はJK三人がいることも忘れ二人の世界を展開しキスしようとしたところで、止めが入った。
「「「私達の存在を忘れないで!!」」」
その声に、信雄と広子は正気に戻り、取り繕った。
「あ、すまん!」
「わっ私、皆さんの前でなんてはしたない事を・・・////」
JK達は目の前でおっぱじまるのを阻止する事に成功した。
その日は、夕食を食べ、皆早々に寝てしまった。
次の日、信雄は広子と行った川に用事があると言い一人で向かい、夕方に何事も無く、魚を土産に帰ってきたが、血の匂いがした広子は信雄にそれを聞くが話を逸らされ、怪我をしたのかと体を見ても何もない、不思議な事が発生したが、怪我も無かったので皆の記憶から、その話は忘れられてしまった。
信雄が一体何をしていたかは、誰もそしてこれからも、知る必要な無いと思う信雄であった。
その次の日、信雄は、平行世界調査の為の、準備と資金稼ぎに、信雄のいた時代に転移するのだった。




