表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渋柿探偵 高峰修二  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

第6話 真夜中のカフェオレ

深夜零時をまわった。

 街の喧騒がやっと静まるころ、

 駅裏の小さなカフェ〈ミッドナイト・ロッジ〉の灯りだけがまだともっていた。


 高峰修二は、いつものようにコートの襟を立ててカウンターに座る。

 「ブラックで」

 そう言いかけた瞬間、マスターが微笑んで言った。

 「今日はカフェオレにしときな。顔が疲れてる」


 「……探偵の顔、見抜かれるとはな」

 「そりゃ、十年も常連ですから」


 カップに注がれる温かなミルクの香り。

 そこへ、ドアのベルが鳴った。


 「遅れてすみません!」

 息を切らせて入ってきたのは、若き刑事・長谷川蓮。

 先日、正式に“渋柿探偵”との共闘を申し出た青年だった。


 「いいんだ。俺も今、甘いものが必要だったところだ」

 「探偵さんが“甘い”って言葉を口にするなんて、天変地異ですね」

 「……煮詰まってるんだよ」


店の片隅から、小さな声がした。

 「……探偵さんですか?」


 顔を上げると、カフェの店員――若い女性・由衣が立っていた。

 「ここ数日、誰かに見張られてる気がして……」


 話を聞くと、

 ・閉店後に残ると、外に影が立っている

 ・ポストに「戻ってこい」という手紙が毎晩届く

 ・けれど差出人は不明

 とのことだった。


 高峰はカップを回しながら言った。

 「警察には?」

 「言いました。でも“いたずらだろう”って」


 長谷川が腕を組む。

 「じゃあ、俺たちで見張りましょう。今日の夜、閉店後に」


深夜一時。

 照明が落ち、カフェは静まり返る。

 窓の外に雪がちらつき、街灯の光が白く滲んでいた。


 店の奥で、由衣は震えながらレジを閉めていた。

 高峰と長谷川はカウンターの影に隠れている。


 「なあ、探偵さん」

 「なんだ」

 「こういうとき、やっぱりワクワクしません?」

 「しねえよ。俺は寒いだけだ」


 そのとき――カラン、とドアの鈴が鳴った。

 ドアの外には、黒い影。

 雪を踏む足音が近づき、窓越しに何かを置いて去っていった。


 長谷川が飛び出そうとするのを高峰が止める。

 「待て。焦るな。こういう奴は“見られている”と気づいたときが一番危ない」


 彼は慎重に外へ出て、置かれた封筒を拾い上げた。

 中には、白黒の古い写真。

 そこに写っていたのは――由衣と、年上の男性。


 裏に、ひとこと。

 『帰っておいで 由衣』


翌日、由衣は涙ながらに話した。

 「……この人、父なんです。ずっと会っていませんでした」

 彼女は高校時代に家を飛び出し、今は一人暮らし。

 写真は、父が昔撮った最後の家族写真だった。


 「父は数年前に脳梗塞で倒れて……会う勇気がなかったんです」

 「なるほどな」

 高峰は煙草に火をつけかけ、しかしやめた。

 「“戻ってこい”って手紙、父親が出してたんじゃないか?」

 「でも……手は不自由なはずで……」


 長谷川が調べを進めると、すぐに真相が見えた。

 父の介護をしていた近所の老婦人が、由衣の父に代わって手紙を出していたのだ。

 「由衣ちゃんが戻れば、お父さんも元気になるかもしれないって」


由衣は小さく泣いた。

 「どうして……父は何も言わなかったんだろう」

 高峰はそっと答えた。

 「人はな、“帰ってこい”の一言を言うほうが、待つよりずっと勇気がいる。

 だから、言えないまま見守る奴のほうが多いんだ」


 長谷川は静かに笑った。

 「渋いこと言いますね」

 「渋柿探偵だからな」


 翌朝。

 由衣は一枚のメモを残して店を出た。


 『ありがとう。今から、父に会いに行きます。

 帰ったら、またカフェオレをいれますね』


 店のカウンターには三つのカップ。

 冷めかけたカフェオレが、ゆっくりと湯気を立てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ