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渋柿探偵 高峰修二  作者:


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11/12

第11話 冬晴れの肖像ー前編ー

一月初旬――。

 高峰探偵事務所に、白い息を吐きながら長谷川が駆け込んできた。


 「高峰さん、急ぎの案件です。署に奇妙な依頼が来たんですよ!」


 高峰はこたつの中で動かない。

 例によって渋柿をかじりながら、


 「奇妙ってのはだいたい碌なもんじゃねぇぞ……内容は?」


 長谷川は一枚の封筒を差し出した。


 封筒の宛名には、震える字でこう書いてある。


 『渋柿探偵 高峰修二 様へ』


 高峰は眉を動かす。


 「……俺宛てか」


 中の手紙には、たった三行だけ。


 “助けてください。

 私は三年前に殺されました。

 犯人は、まだ私の家にいる”


 署では悪戯扱いになっていたが、長谷川は続けた。


 「この筆跡、三年前に死亡届が出た“杉山美帆”って女性の、日記と一致したんです」


 高峰は渋柿を置き、低く呟いた。


 「……死者からの依頼ってわけか」


杉山美帆が亡くなったとされる事故現場は、冬の曇り空のように寂しい住宅街の一角。


 高峰と長谷川は杉山家を訪れた。


 ドアを開けたのは、美帆の妹・杉山弥生。


 彼女はやせ細った手で二人を迎えながら、ぎこちない笑みを浮かべた。


 「姉の事故から……三年経つんですね」


 長谷川が丁寧に訊く。


 「ご家族は、美帆さんの死に不審な点があったとは?」


 弥生はかすかに視線をそらした。


 「事故です。みんな……そう思っています」


 彼女が言葉を濁した瞬間。


 廊下の奥にいた老人――美帆の父・杉山正巳が杖を突いて現れた。


 「不審も何もない……あれは、娘の不注意だ」


 強い語気。

 一切余計な説明をさせまいとする壁のようだ。


 だが高峰は、その瞬間すでに気づいていた。


 “この家には、まだ何か生きている影がある”


写真の多い居間を調べる中。

 高峰の目に、一枚のポートレートが引っかかった。


 美帆が冬の日差しの中で微笑んでいる。


 しかし――その肖像の裏に、小さな紙片が挟まれていた。


 高峰がそっと広げると、弥生が息を呑む。


 紙には、美帆の筆跡でこう書いてあった。


 “誰か私を殺す。

 冬が終わる前に、真相を残さなきゃ”


 長谷川は絶句した。


 「高峰さん……自殺予告じゃない。これは――」


 「殺害の予告だな。しかも自分で書いている」


 高峰は静かに続けた。


 「つまり美帆は、**自分が“殺されるのを分かっていた”**ということだ」


 弥生が震える声で言う。


 「姉は……誰かに狙われていたんですか?」


 高峰は返さない。

 その代わり、ポートレートの“ある一点”を見つめていた。


 写真の端。

 わずかに写り込んだ“影”。


 それは、手紙に書かれた“犯人”と同じ存在か――


調査を進める中で、不可解なことが起きた。


 美帆の部屋のクローゼットが、突然“内側から”ガタガタと揺れたのだ。


 長谷川が叫ぶ。


 「中に誰かいるぞ!」


 だが開けてみると、そこには誰もいない。


 ただ、床に“雪の跡”が三つほど。


 高峰は跡を見て、口元をわずかに歪ませた。


 「……冬に雪の残り跡か。嫌な予感がする」


 弥生は震えながら言う。


 「高峰さん……うちには、誰も隠れてなんて……」


 「いや。いる。

  この家には――生きたまま三年間、姿を見せていない誰かがいる」


 長谷川は背筋を凍らせた。


 「まさか……」


夜。杉山家を後にしようとしたとき。


 道路の向こうから一人の女性が走ってきた。


 フードを深く被り、涙を浮かべている。


 「あなたが……高峰修二さんですか?」


 「そうだが」


 彼女は震える声で言った。


 「お願いです。

 私……死んだはずの姉を見たんです」


 長谷川が息を呑む。


 「生きている……?」


 女性は首を振った。


 「いいえ。違うんです。

 生きているんじゃなくて――“動いていた”んです」


 冬の風が吹き抜け、高峰のコートの裾が揺れた。


 高峰は静かに、しかし確信を持って言った。


 「……やっぱり、この家の真相は“まだ終わってねぇ”」

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