表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/43

第24話 Good END:推しが笑って暮らせる未来のために②

 街を壊したのは魔竜だ。でもその魔竜はあたしが倒して、もういない。

 災害みたいなものだから、誰かに責任を問うこともない。それでも、街の惨状を見ればどうしても心は痛む。


 特に、あたしが大立ち回りをした中心街は、ひどい有様だった。


 カテドラル前―――


 広場には、魔竜が暴れた痕跡が痛々しく残っていた。

 ブレスで焼かれた石畳、爆発で壊れた建物、叩き潰されて砕けた瓦礫。


 あたしと魔竜の激戦は、想像以上に周囲に被害を振り撒いていたらしい。

 胃がきゅっと、誰かに捻られたような気がした。


「あ、カノン! こちらです!!」


 広場に姿を現すと、遠くで復旧作業を手伝っていたリーネがあたしを見つけ、手を振ってくる。

 ……いた。よかった。


 安堵の息をつきながら駆け寄ると、リーネは何も言わずにあたしの手を握った。


 ドクン、と、心臓が脈を打つ。

 やめろ。こっちは推し活のつもりで誤魔化してんだよ。

 ナチュラル無意識にあたしを落としにくるの、やめてくれませんかね。


「おはようございます、カノン。身体の具合はどうですか?」

「あたしはへーき。リーネは?」

「おかげさまで、無傷です。直接見て確かめますか? ちょっと待っててください、今―――」

「ちょいちょいちょい! いらん! 公衆の面前で脱ごうとするな!」


 自分のシャツのボタンに手をかけ始めたものだから、首を全力で横に振る。


 いくら何でも大胆すぎるだろ。あたし以外の人間見えてないのか!?

 いや、二人きりだったらいいわけじゃないんだけどさ。


 あたしのそんな焦った様子に、リーネは悪戯っぽく笑った。


「冗談です。元気、出ましたか?」

「なっ―――」


 そっか、あたしがあまりにも思い詰めた顔をしているから、リーネなりに気遣ってくれたのかな。


 その優しさに気付いた瞬間、顔がどんどん熱を帯びていく。

 あたしの推し、未来の記憶と別世界の自分の感情手に入れて、パッシブスキルのカノン特効がSランクからSSSランクに進化してる。

 心臓に悪すぎるだろ、あまりにもさ。


「リーネフォルテ。カノンが来たならさっききみが言ってた例のソードビット、出して」


 ふと、リーネの奥から冷たく鋭いナイフのような声がした。

 魔力はすっかり回復したようで、ノアが魔法で瓦礫を持ち上げ、ゴーレムと共同で運搬作業をしている。


 ……って今、ソードビットって言った?


「わかりました。カノン、聖剣を」

「え、あ、うん」


 言われるままにルクスを取り出すと、リーネがいつものように鞘に触れる。

 少し魔力を込めて引き抜くと、純白の鞘が光を帯びて変形し、五本の剣になってリーネの周囲を飛び回る。


「お待たせしました。私は、どうすればいいでしょうか?」

「そこの瓦礫、運んで」

「はい」


 ノアの指示を受けて、リーネはビットを使って器用に瓦礫を運んでいく。

 下に滑り込ませて持ち上げたり、重い瓦礫は、突き刺して鎖を巻いて引き上げたり。


 いや、便利グッズだなそれ。

 と思わず突っ込みそうになった。


 でもそうだね……なんか、上手く言えないんだけどさ。

 誰かを傷つけ、命を奪うような武器が復旧作業の道具になっているっていう、ちょっと不思議な光景がさ。

 平和に戻ったって感じがして。


 ……って、しみじみしてる場合じゃなかった。


「カノン、ぼーっとしないで、瓦礫運んで」

「はいはい、よい……しょっ!!」


 ……ん? あれ?

 力、全然入らないな。

 いやいやそんなことないって、あたし、魔法適性はゴミだけど身体能力のパラーメーターは異常値なんだよ? 二周目に能力値引き継いだみたいなキャラ性能してんだよ?


 人間サイズの瓦礫くらい、軽々と―――


「うぉ、ぉぉ……! ッ、重っ!」

「無理なら言ってください。ペンタルクスで運びます」

「ちがう! 今は、あたしのチート能力を披露して盛り上がる展開……でしょっ!!」


 謎の意地を張りながら、瓦礫を持ち上げる。

 膝が笑う、腰が死ぬ、腕が悲鳴を上げてる!!

 あれか? ドーンブレイカーってステータスが一時的に下がるデメリット付きなのか!?


 あ、ムリだこれ。

 ちょっとよろけた瞬間、すっと、手が添えられた。

 リーネの手、あったかい。


「一緒に持ちましょう」

「だ、大丈夫! うぉぉぉぉファイトぉぉぉぉいっぱぁぁぁぁつ!!」


 疲労でバッキバキな全身が「ムリだよ」って言ってる。

 わかってるよ。あたしにだって超えられない限界弁える脳みそくらいあるよ。


 リーネが困ったように笑って、結局ビットで瓦礫を持ち上げた。

 鎖が巻きついて、軽々と引き上げられる。

 あたしの筋力アピール、秒で敗北。


「……便利すぎるだろ、その鞘」

「鞘ではありません。ソードビット・ペンタルクスです」

「鞘じゃん」

「ペンタルクスです」

「こだわり強っ!?」


 多分、五芒星を意味するペンタグラムと、レーヴァ=ルクスをかけ合わせた名前だと思うんだけど……そんなこだわるほどの名前か??

 ネーミングセンスが中二的で、なんか……恥ずかしい。


 ドン引きしているのが伝わったのか、リーネはどこか可哀想なものでも見るような笑みをあたしに向ける。

 嫌な予感がした。


「だって、この機能を考えてくれたのはカノンですから」

「なんとなくそんな気がしたよ!!」


 未来―――いや別世界のあたし何やってんだよ!!

 いやかっこいいけどさ!


「だから……ペンタルクスです」


 笑顔のはずなのに、リーネはどこか悲しそうだった。

 そうか……その名付け親であるあたしも、他のあたしと同じように自分を捧げたのか。そりゃぁ、こだわるか。


「あぁぁぁぁもう、複雑すぎるぅぅぅ……」


 胸の奥が、ズキリと痛んだ。

 わかってる、これは嫉妬だ。

 この世界のリーネにとってのカノンはあたしなのに、リーネが口にする「カノン」って名前の先にはあたしはいない。


 それが……なんか、嫌だ。


 視界の端で、ノアがこっちを見ていた。

 いつもの、氷点下に晒した鋭利な刃物みたいな目。

 でも、今はちょっとだけ柔らかい。いや、気のせいかな。


「カノン。さっきから顔がうるさい」

「顔がうるさいって何だよ!!」

「うるさいカノンも、私は好きですよ」

「リーネは一旦黙ってて!」


 むすっと頬を膨らますと、リーネはあたしから顔を逸らす。

 無言のまま、ただ作業のようにビットを操作して、瓦礫の撤去に戻った。


 リーネと入れ替わるようにいつの間にか隣に来ていたノアが、瓦礫を浮かせながらサラっと言う。


「……ぼくが魔力切れで寝ていた間、何が起きたかはアルミリアに聞いた」


 リーネに聞こえないくらいの小声。誰にも聞かれたくない話らしい。


「面倒なことしてくれたね。ソードビットに大剣……解析結果を更新する必要がある」

「ごめん。あたしもあんな機能あるなんて知らなかった」

「だろうね。あったら最初から使ってる」


 それはご尤もです。

 あたしも、最初から使えたらあんな苦戦しなかったと思う。


「予想外だよ、ほんとに」


 ノアは少しだけ、嬉しそうに口元を緩めた。


「特にあの大剣―――」

「ドーンブレイカー」

「あの大剣から放出されたまりょ―――」

「ドーンブレイカーね」

「うるさい」

「あだっ!?」


 どこかから飛来した氷の塊が、あたしの額に直撃した。


「いいじゃんかドーンブレイカー! かっこいいじゃんか!!」

「きみも大概こだわりが強いね。リーネフォルテのこと言えないでしょ」

「うぐっ……」


 額を押さえながら、あたしはノアを睨みつけた。


「氷投げんな! 石じゃんそれ! せめて雪玉にしてよ!!」

「……あまりにもきみがうるさいから」

「うるさくてごめんね!?」


 ノアは肩を竦め、宙に浮かせた瓦礫を器用に積み直す。

 ゴーレムが運ぶのを見届けながら、視線だけであたしを呼んだ。


「……ドーンブレイカーから放出された魔力が大きすぎて、聖都の防壁の一部が崩れた」

「は?」


 ……それ、さらっとカミングアウトすることじゃなくない?

 魔法か、旧文明の技術か、ノアは空中にディスプレイを表示して、あたしに画面を見せてきた。


 空中から撮影されたドローンの映像……旧市街の壁から、聖都の外壁にかけて巨大なバーナーで焼き切られたような跡がある。

 そのそばで、カテドラルの兵士たちが忙しなく作業をしていた。


「おぅ……なんじゃこりゃ」

「派手にやってくれたね。今頃ギーザたちは大忙しだよ」


 画面の向こうで、アルミリアとセナリアが何かを喋っている。

 アルミリアは眉間を摘まんで、ため息をついていた。

 多分……リアルタイムの映像だな、これ。


「一応聞いておくんだけど、これをやったのは……」

「きみ以外に誰がいるの?」

「ですよね、あたしっすよね、はは……」


 抜き身のままなんとか剣帯に固定したレーヴァ=ルクスが、弱々しく光る。ごめんね、って言ってるみたいに。


「……ドーンブレイカーは封印だな、うん」


 で、あたしは……乾いた笑いしか出てこない。

 まぁ、胃がねじ切れそうではあるんだけど。


「ま、聖剣の解析は追々進めていく。今はさっさとこの街を直しちゃおう」

「……うん、わかった」


 会話はそれで終わり。

 作業に戻ったノアは、無言のまま魔法で瓦礫を撤去している。


 戻ってきたんだ……あたし。

 まだこの世界に来て三日―――三日!?

 うっそだろ、イベントが濃すぎて時間感覚がバグってるよ。

 寝て起きたらボス戦でした見たいな、そんなスピード感じゃん、生き急ぎすぎ。


 でも……うん。

 まだ三日しか経ってない。

 だけどあたしのこの世界での生活は、もっと先に続いていく。

 そう、続いていくんだ、ずっと。


 あたしはリーネのもとに駆け寄って、抱えていた瓦礫に手を添えた。


「手伝うよ」

「ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて」


 そう笑って、リーネはビットを操作しながら、あたしの隣を並んで歩く。


「ねぇ、カノン」

「ん?」


 リーネが、穏やかに笑う。

 それがあのトラウマラストシーンと重なって、少し心臓が跳ねた。


 一瞬目を逸らし、何かを決意するように胸に手を当てて、リーネはこう言った。


「これからも私の運命、ぶっ壊してくださいねっ!」


 やっぱあたしの推し、最高に可愛い。

 可愛いし、賢いし、強いし―――いやもう完璧かよ。


「もちろん!!」


 そのリーネの笑顔をきっかけにして、ようやく、あたしの肩に乗っていた重荷が―――失意と後悔の亡霊が、消えてくれた気がした。


 そうだ……続けていくんだ、どこまでも。


 推しが笑って暮らせる、平和な未来を掴み取るために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ