表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/39

第13話 サブクエ発生:囚われの聖剣を回収せよ!

 まだ胸の高鳴りは収まらない。

 緊張っていうよりも、どちらかというとわくわくに近いこれは、きっとあたしがまだどこか、この世界をゲームか何かだと認識しているからだと思う。


 最低だな、って思うよ。

 この世界に生きる人たちにとっては、この世界こそが唯一なんだ。

 だから、口には出さないし、あたしもなるべく早くこの意識を切り替えたいと思ってる。


 まぁでも一旦、反省はあと、今は現実を走れ。

 ―――あの効率厨、どこだよ。


「……なんでルクスもないの!?」


 ノアの研究室に足を運んでみるも、表にも裏にも、あの青髪の姿はなかった。

 もちろん、解析のために預けていた聖剣───レーヴァ=ルクスも消えている。


 まさか盗まれた? いや、ない。あの子はそんなことする人間じゃない。

 他人に説明するのがめんどいとか、思い立ったら即行動みたいな、不器用な人間ってだけ。


 だからってさ、誰も知らないなんてことある!?

 探し回っても情報ゼロ。最後の希望は……アルミリア。


「ノアなら、ギーザのもとに行くと言っていたな」

「マジっすか!?」


 なんだよこのサブクエ、無駄に体力使っただけじゃんか。って、またゲーム脳だ。ダメって言ったじゃんか。

 部屋という部屋をあたって、色んな人に居場所を聞いて、それでゼロ。午前中が丸ごと溶けたってのに、灯台下暗しってのはこういうことか。


 最初からアルミリアに聞けばよかった。

 いつもこうなんだよな。後で最適解を知って後悔する、あたしの悪い癖。


「ノアに用があるなら、私から伝えておこう。君はすぐに訓練を―――」

「いや絶対にダメ!!」


 あたしは両腕をクロスさせ、大袈裟に首を振る。

 昨日とは大違いのあたしの態度に、アルミリアは少し戸惑っている様子だったけど、今それを気にしていられる状況じゃない。


「何やらのっぴきならない事情があるようだな」

「それがさ、聖剣の解析するって言うから貸してたのに、朝研究室に行ったらいなくて! せめて持ち主であるあたしに一言くらいあるだろ普通! ねぇ!? どう思うアルミリア!!」


 別に同意を求めてたわけじゃないけど、アルミリアは腕を組んで真面目に考え出す。

 うんうんと唸りながら数十秒、ようやく結論を出したのか、目を開けてこう言った。


「すまないカノン、同意したい気持ちは山々だが、私もよくやるからノアを悪く言えない」

「えぇぇぇ……」


 そうだったよ。アルミリアもド天然のクソボケだった。

 腹立つけど、あたしはこのギャップにやられてんだよなぁ、チクショウ!


 目の前のアホと、それに見事に惚れてしまった自分に呆れ、あたしはため息をついた。


「ギーザって……?」

「工房の長―――紅鉄廠こうてつしょうの鍛冶師だ。挨拶も兼ねて会ってくるといい。ノアもそこにいるだろう」


 アルミリアはそう言って、一通りの訓練を終えて休憩中のリーネを呼ぶ。

 駆け寄ってきたリーネは、汗こそかいていないけど少し息が上がっていた。


 訓練場の方を見れば、数体のゴーレムがダメージを受けて機能を停止している。あれをリーネがやったとするなら、あたしの推しはやっぱり、ゲーム通りポテンシャルの塊だ。


「お呼びですか、アルミリア様」

「カノンと共に、使いを頼まれてくれないか?」

「え、でも、訓練は」

「午前で終いにしよう。君はとてもセンスが良い。既に約十日分の結果を得ているだろう」


 アルミリアは倒れているゴーレムに視線を向けて、ほら、と小さく言った。

 やっぱりあれやったの、リーネなんだ……魔法かな。

 だとしたらあたしなんて、あっという間に抜かれちゃう。

 そうならないよう、あたしも頑張らないとね。


「私も、午後は議会に用事があってね。せっかくだから、ギーザを紹介しておこう。二人共、構わないかな」

「え、あ、あたしは全然、おっけーなんすけど」


 リーネも、大丈夫ですと言ってこくりと頷く。

 それを確認して、アルミリアは懐から一枚の封筒をあたしに手渡した。


「ちょうど、愛槍の修復を依頼していたんだ。紅鉄廠にて私の槍を受け取った後、大熾堂カテドラルのイルセナリアにこれを」

「うっす」


 紅鉄廠こうてつしょう―――聖都防衛の武装の製造を担う、残火守専用の工房。


 大熾堂フレア・カテドラル―――祈の聖女イルセナリアが座す、聖都の中心。


 瞬間、あたしの脳裏には聖都フレアリスの全体マップが浮かび、アルミリアの依頼に関係ある施設を線で結び、最短ルートが形成される。

 ゲームで散々歩き回ったマップだ。目を瞑ってたって歩けるよ。


「では、頼んだ」

「「はい」」


 あたしとリーネ、タイミングピッタリで返事をする。

 ―――アルミリアの依頼を受注しました。

 なんてテロップが出たような気がして、あたしは少しだけ、心が弾んだ。



     ◇



 残火の聖都【フレアリス】

 深淵領域アビスに覆われた世界の中で、唯一人々の希望として反逆の狼煙を上げている最後の砦。


 最後の楽園とかなんとか言われてるけど、街には活気が満ちていて、壁の外の滅亡の空気をちっとも感じない。


 あたしは、そんなこの街が大好きだ。


「カノン、何か嬉しいことでもありましたか?」

「えっ、ごめん、あたしもしかしてにやけてた?」

「はい、それはもう、とっても」


 故郷に帰ってきたみたいな気分だけど、それを表に出しちゃダメだ。

 リーネの隣を歩きながら、あたしは頬を両手でぐいぐい押して、無理やり表情筋を矯正する。


 大通りに出ると、石畳の上を行き交う人の数が一気に増えた。

 子供が走って、荷車が軋んで、遠くの広場では誰かが笑っている。パンの焼ける香ばしい匂いまで漂ってきて―――平和すぎて、気が緩む。


 世界が滅びかけているなんて、嘘みたいだ。


「人が多いですね」

「中心街はこんな感じ。といっても、路地を一本入っちゃうと、一気に人気がなくなるんだけどね」


 そう返して、ハッとして咳払い。

 これは……知っている側の発言だ。昨日この街に来たばかりのあたしがするのは、あまりに違和感が強すぎる。


「あー……昨日、ちらっと車の中から見えたんだよね」

「そうですか。カノンは……とても詳しいんですね。頼もしいです」


 でもリーネは、あたしの失言を問い詰めるでもなく、ただ穏やかに街を見回していた。


 白い礼装のリーネは、正直目立つ。

 絵画から抜け出してきたような清廉さで、通りすがりの人が二度見、三度見するくらい。


 で、その隣を歩くあたしは―――桃髪のちびっこ。


 いや違う、自分で言うな。


「……なんだか、とても視線を感じます」

「リーネが綺麗だからだよ。この世界、美男美女揃いだけどリーネは特別可愛いからね」

「そうですか? ありがとうございます、カノン」


 まただ、いい加減脊髄で会話すんのやめろよ。

 それでもリーネは気にすることなく小さく笑う。

 その笑顔に、あたしの胃がキュっとなる。


 っと、そろそろかな。


「リーネ、こっち」

「えっ、カノン、そっちは違いますよ?」

「いいからいいから、あたしについてきなって」


 リーネの手を引きながらメインストリートを外れて、路地に入る。

 活気に満ちた中心街の喧騒が遠くから聞こえてくるだけで、入り組んだ路地は随分と静か。


 確か、記憶通りならこの路地を真っ直ぐ進んで、十字路を右、で流れに沿ってほいほいほい、っと。


 よし、読み通り。最短ルートを通って、紅鉄廠のあるエリア、緋鋼街ひこうがいに到着っ!!


 金属を叩く乾いた音。熱気。煤の匂い。

 そして、建物の中から時々薄ら聞こえてくる怒号みたいな声。


 路地をちょっと進んで、目当ての建物に一直線。

 門の上に掲げられた鉄の看板に、赤い火の紋章。

 間違いない。残火守の武装を造っている工房―――紅鉄廠だ。


 入口には残火守の礼装を着た番兵が二人、やけに機械的でガチャガチャした雰囲気の槍を手に直立していた。

 あたしとリーネを見るなり、彼らは耳飾りに触れてどこかに連絡をし、その後、片膝をついてあたしらを迎えた。


「お待ちしておりました、リーネフォルテ様」

「お仕事中失礼します。アルミリア様の槍の修復が完了したと聞きまして」

「話は既に伺っております。中へどうぞ」


 どうやら、アルミリアが既に話を済ませていたらしい。

 あの耳飾り……もしかすると、遠距離の通信手段か何かなのかな。え、何それ、めっちゃ欲しいんですけど。


 案内された廊下を進む。

 壁際には、刃こぼれした剣や、修復待ちの盾、分解された鎧。

 奥から聞こえる炉の唸りと、鉄を打つ振動が腹の底に響いてくる。


 あぁ、これこれ。

 ゲームで寄った時は装備の強化施設ってだけの認識だったけど、こうして匂いと熱があるだけで、一気に現実になる。


 案内役が立ち止まり、重そうな扉を開く。

 ぶわっと、熱気が押し寄せた。

 空気が焼けるみたいに熱い。


 工房の中枢。

 奥の作業台に立っている大柄な男。全身をフルプレートで包んでいるのが、紅鉄廠の主―――ギーザ・グレンフォージ。


 その隣で、例の青髪が腕を組んで、何かの機械をじっと見ている。

 あれは……プレス機というか、粉砕機?

 そこに―――


「あーーーーー!! あたしのルクス!!」


 台座の上に置かれたレーヴァ=ルクスが、今にも破壊されそうだった。


 あたしの声に気付いて、ノアが振り返る。

 げ、来たのか。とでも言いたげなほど、顔を歪ませていた。


「ちょっとノア! なに勝手にルクス持ち出してんの!? それ、あたしのなんですけど!!」

「うるさい。今、大事なところ」

「こんの最適解主義者! せめて持ち主であるあたしに一言あるだろ!!」


 青髪の効率厨―――ノアが、冷たい目でこちらを見た。

 そして、すごくどうでもよさそうに言う。


「元々、用が済んだら返すつもりだった」

「いやせめて一言言ってくれないかな!?」


 リーネがあわあわと慌てながら、あたしとノアを交互に見ていたのが横目に見えたけど、今はそれどころじゃないんだ、ごめんね。


「一応あれ、あたしらの切り札!」

「切り札なら、敵に壊されないように強度を確かめるべきでしょ。まさか、それも把握せずに戦場に出る気?」


 くそっ、正論だから言い返せない……っ。


「それはっ……そう、なんだけどさ。でも今やらなくてよくない!?」


 舌打ち未満の息を吐き、ノアは心底面倒臭そうにしながら、隣に立つ大男に「やって」と短く指示を飛ばす。

 鎧の大男はこくりと頷き、一切の躊躇いなく機械のスイッチを入れた。


 ちょっと待て! 壊れない保証がどこにあるんだよバカ!!


「ちょっ、待って! 何してんのそれ!?」

「いいから黙って見てて」

「愛するルクスたんが破壊される様黙って見てるとかムリなんですけど!!」


 あ、だめだ、もうスイッチ押されたから止められない。

 旧文明のロボットアームに握られた金属製の巨大な槌が、台座の上の黄金の剣に向けて振り下ろされる。


 ギーザの手元、あたしがこんなに騒いでんのに止める気配が一切ない。

 冗談じゃなくて、本気だ。


 もう止められない、ごめんルクスっ!!


 見ていられなくて、目を閉じた。

 ガキンッ!……直後、大きく空気が震えて、鼓膜の奥がきんと鳴った。

 ムリだよ。この目、開けられないよ。粉々に砕け散った相棒の無残な姿なんて―――


「予想通りだ……防衛プログラムが作動した」


 鎧の奥から聞こえてくる機械音にも似た低く唸るような声に、もしやと思って目を開けた。


 レーヴァ=ルクスが、淡い光のドームのようなものに守られていた。


「検証終わり。直接的な破壊は物理的・魔法的両方の手段を用いても不可」


 ノアは淡々とそう言って、懐から取り出した手帳に何かを記録する。


 って、そうじゃなくて!!


「え、なんですか? なに、破壊可能かチェックしようとしてたってこと?」


 あたしが問い詰めると、ノアはそんなこともいちいち言わなきゃならない? とでも言いたげに深いため息をついた。


「そうだけど」

「無断でか!? あたしのメンタルも考えてくれ!!」

「だっていちいち許可取るの面倒じゃん」

「こいつぅ……!!」


 マジでムカつく。

 ムカつくのに愛おしいって思う自分がいるのが、なおのこと腹立つ。


 あまりにいい加減なノアの態度に、堪忍袋の緒が切れないよう耐えていると、フルプレートの足音があたしらに近付いてきた。


 大男……ギーザ・グレンフォージは、ほぼ真上からあたしを見下ろす。

 フルフェイスのヘルムの奥から、鋭い眼光に睨まれる。

 胴体の金属プレートが壁みたいに迫ってきて、視界が全部鋼色だった。


「……新入りか」

「ひぃぃっ!?」


 ダメダメダメダメムリムリムリムリ!!

 カノンの身体になって余計小さくなったせいで、威圧感通り越して恐怖覚えるレベルだよ、これ!!


 あたしは思わずギーザの目の前から逃げ出して、リーネの背中に隠れた。


「その上から覗くの、相手に悪印象だからアルミリアにやめろって言われてなかったっけ」

「指摘は、助かる……物覚えが悪くて、すまない……」


 どの口が言ってんだとツッコみそうな指摘をノアにされて、ギーザは深く頭を下げる。

 あ、あれ……思ったよりも、メンタルやわい人?


 ゲームだと、工房のNPCは名前だけでその人となりがわからなかったから、結構新鮮かも。


 ギーザは台座からレーヴァ=ルクスを外すと、両手でそっと持ち上げながらあたしのもとにやってきた。

 ガチャ……ガチャ……と、鈍重なのに、足音がやけに慎重で、律儀。

 なんか、ちょっとかわいいな。


「お前のものとは知らず、無理をさせた。すまない……」

「あ、えっと……いや、いいんすよ、ルクスも無事だし」


 ギーザからレーヴァ=ルクスを受け取る。

 剣特有のずっしりとした重みはなくて、やっぱり羽のように軽い。

 傷一つついていない。さっきの防衛プログラムとやらのおかげか。


「その剣、ルクスというのか」

「レーヴァ=ルクス……って、言うんすけど」

「知らない名だ」


 ヘルムの内側から、唸り声が聞こえてくる。

 クレストリアって意外と国としての規模は大したことないし、小国の伝承に記された聖剣だ。聖都の民である彼が知らないのは当然だろう。


「だが、良い剣だ」

「え、いや、鞘から抜けないんすよ、これ?」

「優れた武具には、魂が宿る。その剣からは、主を必ず守る、という強い意志を感じる」


 レーヴァ=ルクスが、掌の上で心臓の鼓動みたいにとくん、と返事をした……ような気がした。

 そっか、あたしを守ろうとしてくれているんだ。


 ありがとね、ルクス。と心の中で感謝を終えると、ギーザが思い出したようにあたしの隣に顔を向けた。


「見ない顔が、二つ」


 あたしは威圧されて震え上がっていたのに、リーネは怯むことなく右手を差し出した。


「リーネフォルテ・エル・クレストリアと申します」


 ギーザはリーネの手を掴もうとして自分の掌を見つめる。

 首を小さく振りながら握り拳をつくり、軽く会釈した。


「ギーザ・グレンフォージだ。よろしく頼む」


 リーネの隣から見ていたあたしにはわかった。

 握手を拒んだのは、彼の手が油と煤で汚れていたからだ。


 それだけのことなのに、なんか、すごく胸が痛い。


 あたしが勝手に「怖い人」って決めつけて、怯えて。

 でもこの人は、そういう当たり前の気遣いを鎧の中にちゃんと持ってる。


「アルミリアの槍、今、用意する。少し待て」


 ギーザが振り返ると、左手の手甲を端末のように操作する。

 すると、どこからともなく一機のドローンが現れて、あたしたちの前で止まった。


 腹のアームに、拳大程度の腕輪が握られている。

 あたしが両手を差し出すと、ドローンはちょうどそこに腕輪を投下した。


「……これが、槍?」

「どう見ても腕輪、ですよね」


 槍と聞いて、これを想像できる人間なんていないんじゃないか。

 黄金の腕輪……完全な円ではなく、三本の独立したパーツがゆるい螺旋を描いて巻かれている。

 その隙間からは赤い光が淡く漏れ出ていて、裏側には焼け跡みたいな細かい黒金の刻印が。


 ……槍、じゃないよね、これ。


「ちょ、ギーザさん。これ、槍じゃないんですけど!」

「問題ない。俺とアルミリア以外には使えないだけだ」

「はいぃ?」


 要するに、これが槍に変形するってこと?

 どこがどう組み替えられて槍になるんだよ。それらしいモールドはどこにも見当たらないんですけど。


「アルミリアに伝えろ。次は絶対に折れない、と」


 ギーザの言葉が、妙に重い。

 次は折れない―――どうしてだろう。職人の自信みたいな言葉なのに、彼の後悔と覚悟が伝わってくる。


「それと、これをお前たち二人に、渡しておく」


 続けて、ギーザの操作するドローンはあたしたちに一つずつ、耳飾りを渡してきた。

 燃える炎のような意匠が施されたイヤーカフ型の耳飾り……どこかで見たような。


 あ、思い出した。番兵の二人がつけてたやつだ。


「通信魔道具だ。相手を念じて魔力を通せば、声が伝わる」

「……とても便利な道具ですね」


 旧文明の技術をふんだんに使用したトンデモアイテムの応酬に、リーネは驚いて口をぽかんと開けていた。


 わかるよ、リーネ。

 あたしも本格ファンタジーだと思って進めてたら「こんなアイテムまであるのかよ!」って何度驚かされたことか。


「カノン……これ、どう使えば……」


 耳飾りを軽く握るリーネの手が小刻み震えていた。

 そっか……クレストリアが滅んだ原因は断界機ソルファリオ。耳飾りやドローンと同じ、旧文明の技術だ。

 国を滅ぼした技術だもんね……そりゃ、躊躇うか。


「大丈夫だよ、リーネ」


 あたしは震えるリーネの手にそっと自分の片手を添えて、もう片方の手で彼女の左耳に耳飾りを引っかける。


「ほら、全然怖くないっしょ」


 リーネの手の中からもういっこの耳飾りを取って、自分の耳にも装着。


 にっこりと笑ったあたしを見て、リーネはゆっくりいつもの微笑みを取り戻していった。

 お揃いって……なんか嬉しいな。いやこれ、リーネとあたしだけの限定装備じゃないけどさ。


「……そう、ですね」


 あ、今のリーネ、すごくいいな。頭に一枚絵が浮かんでくる。


 耳飾りもかっこよくて、それとなく普段使いできそうなデザインだよね。

 イヤーカフ型だから、ピアス穴とか開けなくて大丈夫だし。現実にあったら絶対買ってる。


 何言ってんだ、今のあたしにはこの世界こそが現実だろうが。


「ギーザさん。ありがとうございます」

「礼は、要らない。必要だから、渡した、それだけだ」


 ギーザはそう言って、視線をどこか斜め下に逸らした。

 感謝されるのに慣れてない人の反応だ。鎧の中、ちょっと照れてるだろ、これ。


 ノアは相変わらず、興味があるもの以外はどうでもよさそうにしている。

 いや、どうでもよさそうっていうか、実際どうでもいいんだろうな。


「そうですカノン。試しにアルミリア様に報告してみましょう」

「え、いや、忙しいと思うよ……」

「問題は、ない。慣れたやつは、頭の中で、会話する」


 頭の中で会話……だと。

 あたしの脳内は煩悩と雑念と下心だらけだから、絶対ムリだ。


「さぁカノン、やってみましょう!」

「え、えぇ……あたしが? そういうのはリーネの方が―――」


 言いかけて、あたしは少し前のリーネの様子を思い出す。

 そうだ。国を滅ぼしたやつと同じ技術なんだ。リーネはできる限り使いたくないはずだ。


「よし、やるよ」


 あたしは自分の耳飾りにそっと触れて、こくりと頷く。

 頭の中でアルミリアの名前を思い浮かべた瞬間、耳飾りがひやりと冷たくなった。

 魔力の操作はエンチャントでコツ掴んだから、お茶の子さいさい。


 ―――と、次の瞬間。


『カノンか。どうした?』


 耳のすぐ内側から、アルミリアの声が聞こえてきた。

 近い、近すぎる、脳内直通ってレベルの近さ。


「うわぁぁぁぁぁぁ! 聞こえた! 聞こえたけど! ちょっと待って、今のなし!!」

『具合が悪いのか? イルセナリアのもとへは後日使いを送ろう。君はそのまま帰還して―――』

「戻らない! 元気! 超元気!! 例の耳飾り貰ったから、槍ちゃんと受け取ったよって報告!!」

『そうか。ならいい、気を付けて以後も頼む』

「あ、うっす!!」


 ぶつ、と声が途切れる。


 あたしは両手で耳飾りを押さえたまま、膝から崩れ落ちた。


「やっば……これ、やばい……」

「……何やってるの」


 そんなあたしを、ノアが呆れた表情で見下ろす。


「初めての感覚だったんだよ! こう、鼓膜がぞわぁぁぁって。うわ、まだなんか、アルミリアの声が残ってる感じがする……」

「使う魔力の量が雑。慎重に絞らないとだめ」


 雑とか慎重とか、お前にだけは言われたくない。


「で、用が済んだならもう帰って」

「言われなくても帰るよ!」


 リーネの手を引いて、あたしたちは紅鉄廠を後にする。


「ギーザさん、ありがと! また来るね!!」

「いつでも……来い」


 もちろん、ギーザへの感謝は忘れずにね。


 ルクスは無事回収できたし、アルミリアのお使いも第一段階クリア。

 便利な耳飾りも貰ったし、それじゃあ次の目的地は―――大熾堂フレア・カテドラルだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ