第12話 息抜きくらいさせてくれ!
思い返せば、今日はそう……激動の一日だった。
どこから今日と定義していいかはわからないけど、あたしの体感じゃ、一日が四十八時間くらいあったような、そんな感覚。
リーネの代わりに聖剣抜いちゃって、ストレスで胃がマッハな状態でソルファリオと戦って、十年結晶の中でリーネと寝てて―――目が覚めたら世界がほぼ滅びかけ。
なんやかんやで、あたしたちの立場もはっきりして……
……いや、ほんとに重い一日だな、マジで。
烽火院の屋敷内、案内された部屋に通されて扉を閉じた瞬間、全身にドッと疲れが押し寄せてきた。
部屋の内装は立派なお屋敷の客間って感じ、ボキャ貧で頭回らないから、あんまうまい表現が見つからない。
疲労感の度合いとしては、二徹でゲームした後と同じくらい。
今すぐベッドに倒れ込みたい、二日くらい寝たい。
疲労困憊の満身創痍でベッドに向けて歩いていると、ふと、天使の声があたしを呼んだ。
「お疲れ様です、カノン」
声のした方を見れば、椅子に腰をかけて、窓の外を眺める天使の姿があった。
え? 何故にリーネがここに?
「幻覚でも見えてんのかな」
「本物ですよ」
そっか本物か、やっぱ本物のリーネは可愛いなぁ。
サラサラな長い銀色の髪も、光り輝く琥珀の瞳も、あたしの好みド真ん中。本物はさ、精巧な人形みたいで触れたら壊れてしまいそうな儚さもあって―――ん?
本物ぉ!?
「な、なんで……リーネが? あたし、部屋間違えたっけ!?」
心臓が一拍、遅れて鳴った。
「いいえ、間違えてはいませんよ」
「じゃ、じゃあどうしてリーネがあたしの部屋に!?」
推しがプライベートエリアにいるという非現実的な事象に狼狽えるあたしを見て、リーネはふふっ、と少し噴き出すように笑った。
「気付きませんか?」
そう言って、リーネは視線であたしの目を誘導させて、部屋の内装を改めて確認させる。
机でしょ、ベッドでしょ、衣装棚に、あと壁にかけられたよくわかんない絵画。あれ……まさか。
家具、二つある。
え、二人部屋って……こと?
「無理を言って同じ部屋にしてもらったんです。表向き、カノンは剣の聖女の付き人で、護衛ということになるようなので」
「あ、あー……なるほどぉ。付き人、ね」
リーネはこれから、世界の希望の旗印になる。
それを良く思わない連中が刺客を差し向けて暗殺される―――っていう可能性もゼロじゃないもんね。護衛であるあたしが同室な方が、確かに安全ではあるけど。
「で、でも、リーネはそれでいいの? 四六時中あたしと一緒って……なんか、気、遣わない? 無理しなくてもいいんだよ?」
「どうして?」
リーネはまるで、あたしの言っている意味がわからないとでも言いたげに首を傾げる。
「常にカノンが傍にいるわけですから、安心じゃないですか」
「そういう問題じゃなくてさ! もっとこう、あるでしょ。プライベートの時間なくなるんだよ!? リーネくらいの年頃の子にとってはさ、一人の時間ってとっても貴重じゃん!!」
「同い年なのに、大人みたいなことを言うんですね」
そりゃあたしの精神年齢はリーネよりも十歳上の二十五歳ですからね!
と、口に出す気にはなれず、あたしは「うぐっ」と喉を鳴らすしかなかった。
「あたしと同室ってことはさ、つまり寝るまで起きてから全部、あたしと一緒ってことなんだよ!? 寝顔も見られるわけだしさ!」
そんなあたしの反応が面白かったのか、リーネはまた口元を押さえて小さく笑う。
「私は、カノンの寝顔を何度も見ていますよ」
「うっそだろ何してんだよあたし!」
「とっても可愛いです。小さな子供みたいで」
それが何だか勝ち誇っているようにも見えて、表情があまりにもリーネらしくない。
王女とは違う、年頃の女の子の笑顔に、あたしの心臓がドクンと激しく鼓動する。
あぁ、だめだ。なんだよそのギャップ。
「いや、そういう問題じゃっ、ないと思うんだ!!」
「では、どういう問題、なんですか?」
「あー、えっと……あたし自身の気持ちの問題っていうかさ。あたしがムリっていうか……」
この際ぶっちゃけるけど、あたしの胃と心臓がもたないんだよ。
推しの友達に転生したと思えば、短期間でルームメイトまでランクアップとか、一体どんな爆速エスカレーターに乗せられたんだって話。
「そう……ですか……」
いつもの笑顔を浮かべたリーネの眉が、僅かに下がっていた。
あ、やばい、これ完全にあたしのミスだ。
ムリとか死ぬとか、オタクのノリでよく使うけど……これ、拒絶じゃん。
「やっぱり、迷惑……ですよね」
女神のような微笑みが、徐々に曇りがかっていく。
あたしが否定的な反応をしていたせいで、リーネは残念そうに目を伏せてしまった。
「カノンにも、一人の時間が必要ですよね」
「ちがっ、違うよ、リーネ。今のは別に、そういうわけじゃ」
「いいんです。今すぐ部屋を分けてもらうように伝えてきます」
リーネは椅子を立ち上がって、とぼとぼと扉に向かう。
その小さな背中に、胸の奥がぐしゃりと握り潰された。
何やってんだよ、あたし。推しにそんな顔させんな、バカ。
「ま、ってよっ!」
一つ息を吐いて、リーネの手を掴んで彼女を引き止めた。
指先がすごく冷たい。細くて、驚くほど軽かった。
「嫌、とは……言ってないじゃん」
「カノン……」
「リーネがいいなら、あたしも大丈夫。だからさ、そんな悲しい顔、しないでよ」
「カノン……っ!」
あたしの手を、リーネは両手で握り返す。
雲は綺麗に晴れて、満面の笑みがめっちゃ眩しい。
一瞬だけ、息を忘れていた。
やらかした……完全にやらかした。
いや、リーネと同室とかムリだよ。あたしの理性ブレーキ、そんな強くないって。推しがすぐ傍で寝てるとか、そんなの想像しただけで胃がねじ切れそうになるもん。
あぁ……だめだ、完全にあたし、今ストレスで死にかけてる。
推しが同じ空間に存在してるって事実で、胃がキュってなるんだよ。
特に呼吸音。あれね、脳がフリーズするの。
でもまぁ、いいか。リーネが笑顔なら、それで。
ふとリーネの様子を見ると、あたしの手を握ったまま耳の先まで顔を真っ赤に染めていた。
まるで、自分がどれだけ大胆な行動を取っていたのかを思い返し、羞恥心が爆散しているみたいに。
「あ、えっと……ごめんなさいっ! 私、疲れて変なことを!!」
リーネはあたしの手から両手を離して、そのまま顔を覆った。
うぅぅぅ……と小さく唸りながら、ベッドに顔を埋める。
は? 何その反応、可愛すぎでは??
いや待て、落ち着け、耐えろ、理性。
「リーネも疲れたんでしょ。今日一日、大変だったもんね」
「……はい。そういうことにしてください」
……息を呑む。
鏡を見たらとんでもない顔してんだろうな、あたし。
キモくてぶん殴りたくなるから、絶対に鏡は見ないけど。
ひとまず、メンタルを落ち着かせよう。
こういう時、あたしはいつもゲームばかりしていた。
でもこの世界にはゲームはないし……そうだなぁ、子供の頃、よく空を見てたっけ。
窓の向こうには雲一つない満天の星空が広がっている。
深淵領域の中のそれとは違って、満月が星の海を揺蕩う。
本当に……大変な一日だった。
「あぁぁー……疲れたぁ~」
二つ並んだうちの窓側のベッドに腰を下ろす。
ポスッという間抜けな音と一緒に、あたしの身体が柔らかいクッションに沈んだ。もうこれだけでわかる、お高いやつ使ってんなと。
ふと、いつの間にか起き上がったリーネが、あたしの隣に座った。
特に何も言わない。それが、リーネの信頼の表れ、なんだと思う。
でも……その信頼はカノンに向けられたものであって、あたしじゃない。
それに気付いているからこそ、あたしは、自分自身に少し妬いた。
「リーネ、どうしたの?」
「えっと、その……」
リーネが何かを言いかけて、言葉を飲み込む。
そして黙ったまま―――
すとん、と。
何の前触れもなく、上半身がこちらに倒れてきた。
「ちょっ、ちょちょちょ、リーネ? 何してんの!?」
反射で受け止めた瞬間、全身が固まる。心臓が変に跳ねて、汗がどっと噴き出る。
リーネの頭が、あたしの肩の上にある。
髪が頬に触れてくすぐったい。あったかい……いや、熱い、体温が近すぎるって。
リーネは目を閉じたまま、何も言わない。
いや、言え。せめて説明してくれ。こっちは脳内大炎上中で大変なのに。
「リーネ、大丈夫? 具合悪い? どこか痛い?」
矢継ぎ早に聞くと、リーネの喉が小さく動いた。
「……少しだけ」
声が、いつもの凛とした鈴の音のそれじゃない。
掠れてて、柔らかくて、消え入りそうなほどに弱い。
するりと、リーネの身体が、あたしの膝の上に落ちる。
「少しだけ、このままでいさせてください」
そう言って、リーネは顔をあたしの膝に軽く擦りつけた。
「ここにいていい?」って、訊くみたいに。
「せめて今だけは忘れていたいんです。王女の、私を」
それは多分、建前ではなかったんだと思う。
あぁもう、ダメだ。
あたしの推し、パッシブであたし特効ついてるわ。
「……ずる」
思わず漏れた呟きは、あたし自身にしか聞こえないくらい小さかった。
両手が宙に迷う。
触っていいのか、抱き締めていいのか、髪を撫でていいのか。
許可を取るのも野暮だし、取らずに踏み込むのも怖い。
あたしが迷っていると、リーネの指先が服を掴んだ。
すごく弱く。それなのに、絶対に離さない、って力で。
呼吸が浅い。吐く息だけが、子供みたいに頼りない。
リーネの小さな手が、小刻みに震えている。
怯えているような、何かに縋っているような。
そっか……怖かったんだよね、やっぱり。
あたしは息を吐いて、リーネの髪にそっと触れた。
梳くみたいに撫でる。
泣きそうなこの子に、画面越しに触れたあの時のように。
すると、リーネの肩がふわっと落ちた。
それだけで、彼女の呼吸が整っていく。
……無理しすぎだよ、リーネ。
「……お疲れ様、リーネ。ありがとね」
起きたら十年経ってて、国が滅んで、気持ちも整理する間もなくあんな怖い人相手にしてさ……疲れるに、決まってるじゃん。
膝の上のリーネが、ぎゅっとあたしの服を掴み直す。
子供みたいにしがみつくんじゃなくて、落ちないように、縋るように。
ただ、崩れないための支えを今だけ借りている。
それが、苦しいくらい愛おしい。
「……リーネはすごく強い子だよ。でも、そうやって背負いすぎるのは、ちょっとやめて欲しいな」
何言ってんだろ、あたし。
疲れて頭が回ってないせいで、思考がダイレクトに口から漏れる。
「ううん、違うな。あたしがリーネに背負わせてばかりなんだ。あたしがもっと強ければ、ちゃんとしていれば、リーネが苦しむこともないんだよね」
どうしてかな。リーネを見ていると、胸の奥からどうしようもない失意と後悔が溢れ出て、感情がぐっちゃぐちゃになる。
こんなに小さいのに、まだ子供なのに……どうして、この子が世界を背負わなきゃいけないんだろう。
なんで……この子だけが、あの平和で美しい未来に行けないんだろう。
あの急に流し込まれる記憶がやけに鮮明なせいで、今度こそ守らなきゃって、強く決意させてくるんだ。
あぁ、くそ……涙出てきた。
せめて泣いてる顔は見せないようにしないと、そう思って、あたしは天井を仰ぐ。
「ごめんね……リーネ。次は絶対、あたしが守ってあげるから」
それは、誰に聞かせようとした言葉なんだろう。
あたしの膝に顔を埋めるリーネ? それとも、この無力でちっぽけなカノンかな。
あぁもう、だめだだめだ。らしくないぞ、あたし。
あたしはちょっと馬鹿で、感情的で、真っ直ぐぶつかることしかできない不器用なやつで……そうだよ。泣いている暇があるなら、やれることやれよ。
首を振って、この雑念を強引に掻き消す。
このままだと泣く。泣く前に、楽しい話題に切り替えよう。
あぁ、そうだ……聖剣の秘密、リーネにも共有した方がいいかな。
「そうだリーネ。ノアが……あ、ノアって、あの青い髪の子ね。あの子がルクスを見てくれたんだけど―――」
って……なんだよ。
相当疲れが溜まっていたのか、リーネはあたしの膝の上で眠っていた。
すぅ、すぅ、と繰り返される小さな寝息が可愛らしくて、あたしは思わず笑ってしまった。
「明日にするか……おやすみ、リーネ」
一言だけそう告げて、あたしはリーネの髪にまたそっと触れる。
ほんっとうにサラサラなんだよ、この子の髪。枝毛とか存在しないんじゃないかってレベルでさ、癖っ毛のあたしからすれば羨ましいったらありゃしない。
まぁでも……そっか。
こうしてみると、リーネも普通の女の子なんだな。
なら、そんな子が世界背負っちゃわないように頑張るのが、あたしの使命ってやつだよね。
そう決意を新たに固めて―――
◇
あの、眠れたらよかったんですけど……ね?
「すみませんっ! 私としたことが、あのまま本当に寝てしまって!!」
リーネが涙目になりながら、あたしに何度も頭を下げる。
窓の外を見れば、朝焼けが空に広がっていた。
「気にしなくていいよ。リーネ、疲れてたもんね。大丈夫、あたしの膝だったらこれからいくらでも貸すし!」
脚……めっっっっちゃ痺れてる。
両脚が、自分のものじゃないみたい。
別にリーネは悪くないけどさ。まぁ、怒るとするなら、あのままリーネをベッドに移動させなかったあたしだ。
だからさ……さすがに次からは、起こしてでもベッドに移動させような。
いやあのさ、推しが膝の上で寝てんだよ。動いて安眠妨害するだけの勇気、あたしにあると思います?
あるわけないんだよね。だから、緊張で一睡もできなかった。
膝の上でスヤスヤと眠るリーネを起こさないように細心の注意を払って、朝までそのまま。おかげさまで、あたしの目の下には薄い隈ができていた。
「脚……大丈夫ですか?」
リーネが心配そうにあたしの脚の様子を窺ってくる。
床に正座していたわけじゃなかったし、ちょっとピリピリと違和感が残るくらいだから、セーフセーフ。
「うん、平気。もうしばらくすれば完全回復すると思う」
「なら、よかったです。このまま、カノンの脚が動かなくなったらどうしようかと」
「サラッと怖いこと言わないでくれるかなぁ?」
「冗談、です。すみません、少し、ふざけました」
冗談きついって。
まぁあたしも、間近でリーネの寝顔を堪能させてもらったからね。
とは本人に言えるはずがなく、この記憶は厳重に保管するべきだと、あたしの脳内円卓会議が全会一致の結論を出した。
ので……記憶の奥底に眠っていてもらおう。正直、恥ずかしいからすぐ思い出せるような場所に置きたくない。
「着替え、手伝いましょうか?」
「あたしは老人か。へーきへーき、大丈夫だから、リーネも着替えちゃいな」
「はい、わかりました」
まだ痺れの残る脚で立ち上がり、衣装棚を開ける。
白を基調とした残火守の礼装が五着ほど用意されていた。何がやばいって、そのサイズがあたしたちにピッタリ。
その中の一着に手を伸ばしたところで、あたしの手は固まった。
背後から聞こえてくる、衣擦れの音。
すぐそこで、リーネが着替えてる。急に心臓と胃が……。
振り返るな、だめ、絶対だめだからな。
結晶から目覚めた時に裸は見ちゃったけど、さすがに推しの着替えをまじまじと見れる勇気はあたしにはない。
いやでも、意識しないようにするとかえって音が鮮明に聞こえる。
「落ち着け、カノン。平常心、平常心だぞ……」
そう自分に言い聞かせるように呟いて、用意された残火守の礼装に袖を通す。
白を基調として、金色のラインがあしらわれた礼装の生地はしっかりしていて、ちょっと高いスーツみたい。恐ろしいことに、昨日も着ていたんじゃないかってくらいの抜群のフィット感。
なんていうか、身が引き締まる思い、って言えばいいかな。
「……これ、ゲームで主人公に支給されるやつか」
グレーのインナーと、丈の短いアウタージャケット。
動きやすい短めのスカートと、柔らかい黒のミドルブーツ。
ちゃっかり剣帯まであるし、利き手の右手だけフィンガーレスになってるグローブをはめたら……変身完了、完璧。
目を瞑って姿見の前に立ち、深呼吸をひとつ。
以前は鏡が嫌いだった。映る自分が、他人みたいで。
「うん、ぴったり。我ながら可愛いな」
でも、今、鏡の前には小柄な二次元美少女。
モノクロの衣装に桃色の髪が見事に映えてる。
カノン……顔、強すぎだろ。
鏡の前でにっこり笑って、ふくれっ面を浮かべる。
おぉ、すげぇ。鏡の中のあたしも全く同じ動きしやがる。当然だけど。
「……何やってんだ、あたしは」
冷静に考えて、我に返った。
忙しすぎて全然意識できなかったけど、この身体は木島夏音じゃなくて、カノンのものなんだよね。いつか、返さないとな。
でもごめん。リーネを笑顔であの明るい未来に送り届けるまでは、もうちょっとだけ身体貸して!
カノンごめん……絶対返すからね。
心の中で深々と頭を下げ、振り返る。
ちょうど着替えが終わったみたいで、礼装姿のリーネがそこにいた。
「おぉ……」
と思わず声が漏れた。
白を基調として、金のライン。これは共通なんだけど、あたしとは違って全体的に神秘的で、荘厳さがある。
グレーのシャツ。膝下までのコート。白い革のロングブーツ。胸に琥珀のブローチ。腰の後ろから伸びた長い飾り布が、動きに合わせてヒラヒラと揺れる。
「どう……ですか?」
「最高に可愛い」
ゲームとは違う、推しの新しい礼装姿に言葉を失う。
そっか、あっちでは剣士だったから、剣を振りやすいように邪魔なものは削られてたんだ。新ビジュもいいな。カメラがないのが悔やまれる。
「ありがとうございます。カノンも、とても似合っていますよ」
「そ、っか……ありがと」
心臓がうるさい。
リーネもめっちゃ似合ってる。全体的にリーネのカラーって白っぽいから、純白の衣装がピッタリなんだよね。神聖さと儚さを兼ね備えてて、この世のものじゃないみたいな神秘が漂っている。
何より―――前が開いたコートの隙間から覗く白い太ももがさ。
……いや違う。そこじゃない、そこじゃないんだけど、そこも大事。
これが神秘の中に「ちゃんと生きてる」を置いてくる感じ、ずるい。
これいる? って聞かれたら「絶対にいる!」って即答する。
あぁくそ、スクショ撮りてぇ……ノアに頼んだらカメラくらい用意してくれないかな。すぐ壊しそうな予感、するけどさ。
「では、そろそろ向かいましょうか。今日からみっちり訓練だと、アルミリア様が言っていました」
「うん。あ……でもあたし、一旦ノアのところに寄ってルクスたん回収しないとだから、先行ってて」
カメラはないから、リーネの姿は網膜に焼きつける。
「ではまた、後で合流しましょう」
「うん。がんばろーね、リーネ」
「はいっ」
リーネはそのまま訓練場に、あたしは聖剣を回収するためにノアの研究室に。
彼女の背中が廊下の角に消えるまで見つめて、あたしはようやく歩き出した。
今日から始まるんだ。
あたしの、リーネを救うための戦いが。
よし……やってるぞ。




