第七話 『試験開始』
――――年に一度行われている『聖鳳軍入隊試験』
その試験に今、一人の青年が挑戦しようとしていた。
今年の受験者は三十一名。
受験資格は十二歳以上。
試験は、担当する試験官が決定した方法により実力を図る流れとなっている。
合格率や合格者数は担当者によってまちまち。
極端な話、一人も合格者が出ない年もある。
会場はもちろん、聖鳳軍本部にて行われる。
翔英は現在、脳内リハーサルをしながら本部へと歩いているところだ。
もし魔法の試験が来たら終わりかもしれないが、もう運と勢いに任せて臨むつもりだ。
「……えっと……ここか……」
無事会場に着いた翔英は、まず全体の説明が行われる部屋へと入っていった。
教室二つ分程度の広さで、教卓のような机が一つ以外になにも置いていないあっさりとした場所だ。
受験者のほとんどは既に入っていたようで、話していたり目をつぶってじっとしていたりと、各々のやり方で待機している。
受験者は翔英と同い年くらいが多く、中には小中学生程度に見える者もいる。
会場の雰囲気に影響され、ますます緊張を覚えた翔英は部屋の時計を確認した。
「(……後五分か……)」
説明が始まるのは十時。現在時刻は九時五十五分だ。
翔英は父から授かった宝物であり、あの時に戦う力をくれたネックレスの宝石に祈るようにして、時が過ぎるのを待った。
――――五分後。
部屋のドアが開き、書類を手にした男が入ってきた。
男は百八十以上はあるかという長身で、白髪を長髪にしている。
そして、黒一色の衣装に包まれ、首に白いマフラーを巻いているのが特徴的だ。
――――彼の登場により、何人かの受験生の顔色が一変した。
「――――受験生の諸君。私が今年の試験官を務める、ガロト・クラーニクだ。よろしく」
思わず気圧されるような重く低い声色で、淡々と話し始めたガロトと名乗った男。
彼の登場により、受験生たちの緊張感が高まり、それぞれの緊張が伝播していく。
「――――早速だが、私の試験について軽い説明をしておこう。既に私が担当した試験を受けたことのある者もいるかもしれないが、全員聞いてくれ。私の試験は面接と実技の二つにより行われる」
「よ、よし……!!」と、魔法の科目がなかったことに、心の喜びを爆発させる翔英。
『ワンチャンあるかもしれない』
そんな期待を寄せ、試験官の彼に感謝した。
彼は続ける。
「まず、面接についてだが。私は面接で落としたことは一度もない。人間性に問題があったとしても、我が軍にはそれぞれに適した活躍の場があると考えているからだ。
――――ではなぜ面接をするのか。それは、君たちの『覚悟』を見たいからだ」
ざわつく会場。
何人かは彼の言葉で盛り上がり、また何人かは下をうつむいている者もいる。
「次に実技の説明をするが、私との模擬戦闘を予定している。詳細は試験の際に説明する。そして最後に、私はこれまで合格者を出したことは――――ない。以上だ」
会場に沈黙が走った。
「(は……? 何て言ったんだこの人?)」
周りの受験生の顔を見渡した時、翔英はガロトの言葉の意味をようやく理解した。
「(まじかよ……あの人が入って来た時、様子が変だった人がいたのはこういうことか……)」
「――――面接は三分後から始める。受験番号順にアナウンスするから、呼ばれた者は隣の部屋に来てくれ」
部屋を後にするガロトの後ろ姿を見ながら、翔英はがっくりと肩を落とした。
「多分落ちたな、これ……」
待機の三分の間に、翔英はあることに気づく。
受験者を数えてみると、自分の受験番号の数と一致したのだ。
「(あっ俺一番最後じゃん……何から何までついてねえ……)」
締め切りギリギリにエントリーしたこともあり、翔英の受験番号は最後尾の三十一番だった。
<一番の者、来てくれ>
ついに、第一の試験が始まった。
面接は一人一分程度のようで、さくさく進んでいく。
半分以上が終わった後、面接から帰ってきた男に声を掛けられた。
坊主頭に大柄な体格だが丸メガネを掛けており、パワータイプか頭脳タイプかよくわからない人だ。
「なあおいおい、俺たちも運がねえよな。ガロトさんに当たっちまうなんて」
多分パワータイプだ。
「ああ……やっぱあれ、ホントなんすね……俺初めて受けたんすけどまあ、次があると思って気楽に行きます……ちなみに、あの人がハズレってのは分かったんすけど受かりやすい人とかいるんすか?」
「……そうだなあ、マーノさんとかティローナさんは、比較的受かりやすいって聞くな。……まあ俺は、その二人にも落とされてるけど」
「そうなんですね。マーノさん、ティローナさんか…………あっヒナノさんはどうなんですか?」
「あーあの人は、だいたい魔法重視の内容だから、魔法得意な人にはやりやすいんじゃないか?」
「なるほど……」
翔英は思った。やっぱりヒナノの試験は絶対無理だと。
〈次、三十一番〉
――――ついに、翔英の番が来たようだ。
「あっ呼ばれたんで、俺行きますね」
「おう、気楽にがんばれよ」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――失礼します……」
「ああ、そこでいい。面接と言っても、私がする質問は一つだけだ」
面接の基本を思い出し、吐くほど緊張しながら入室した翔英。
待ち受けていた彼の言葉を受け立ち止まり、ゆっくりと唾を飲み込んだ。
「――――君はなぜ、聖鳳軍に入りたいと思ったのか」
数秒間考えた後、翔英はガロトの鋭い目を見ながら質問に答えた。
「……聖鳳軍に僕を助けてくれた人がいます。僕が途方に暮れていたところ、手を差し伸べてくれた人が。僕はその人と一緒に戦いたい。その人が守ろうとしているものを僕も守りたい。そう思ったのが、聖鳳軍に入ろうと思った理由です……」
ガロトもまた、翔英の目を真っすぐ見ながら口を開く。
「なるほど。『他者のため』……か。悪くない答えだ。……例えそれが本心では無かったとしても。質問は一つと言ってしまったからね、その人物についてはなにも聞かないでおこう。……以上で、面接は終了だ」
「あっはい、ありがとうございました……」
時間にして四十秒弱。
面接と呼ぶには短すぎる問答は、何事もなく終了した。
翔英は急ぎ足で元の部屋へと帰っていく。
「悪くない」って言ってもらえたし、体感的にはそこまでダメじゃさなそうだ。
だが、問題はここからだろう。
「――――これで全員の面接が終了した。三十分後に実技試験の説明をするから、それまでにはこの部屋に戻ってきてくれ。では、一旦解散だ」
休憩時間。
翔英は外で風を浴びながら時間が過ぎるのを待つことにした。
「(まだ絶対無理だと決まった訳じゃないんだ……!やれるだけやってみるしかない……!!)」
翔英はまだ、希望を捨ててはいない。
昨日まで、かつてないほど身体を動かしていた。
初日の夜には、筋肉痛で眠れなくなるほどには。
『好きな人のためなら、苦痛なんてなんでもない』
そしてあっという間に三十分後がやってきた。
「――――時間になったので、実技試験についての説明を始めよう。まず試験場所についてだが、この部屋を出て奥にある闘技場で一人ずつ行う。
合格条件は私の顔面に一撃食らわせることだ。制限時間は五分。
武器の使用は禁止だが、魔法は使っても構わない。
それから、私はその場から一歩も動かないが、必要に応じて反撃させてもらう。
なお、不合格だった者は、終わり次第帰宅して構わない。以上だ。
――――特に質問はないか?…………ないようなので、早速始めよう。
面接の時と同じように受験番号順に行うが、その次の者は闘技場内で待機してもらう。
各々準備を怠らないように。
――――では一番、二番から」
ついに、鬼門となる実技試験が始まった。
現在時刻は十二時。順当に行けば、三時前には試験が始まり終わっているだろう。
バキバキに緊張した状態で二時間以上も過ごさなくてはならないことに戦慄する翔英。
やがて、試験に向け今、できることはないかと考え始めた。
「(……あの人の顔面に一撃か……なにか弱点とか特徴が知れればいいんだけど……)」
十分後、試験が終わった受験生が戻ってきた。
彼は悔しそうな表情を浮かべながら、荷物をまとめている。
どうやら今年最初の不合格者となったようだ。
その後も一人、また一人と姿を消していき、ガロトへの対策は当然何も思いつかないまま時間は過ぎていった。
「(――――今行った人が二十九番……次の次の次か……)」
二十七名の試験が終了したが、残った者は未だ一人もいなかった。
二十八番も戻ってきて早々、帰宅の準備に取り掛かり始める。
「(つ……次で移動か……まじで一人も合格してねえ…………三十番の人のを見てなんか作戦立てようと思ってたけど……こいつはやばいな……)」
二十九番が戻ってきた。様子を見るまでもなく、不合格のようだ。
「(よ、よし……行くか……!)」
覚悟を決めるのは生涯二度目。
翔英は運命の闘技場へと歩き始めた。




