第六十話 『禁忌の再生』
途方もない悲しみに感情を爆ぜるミネカ。
しかし、高まっていくのは感情だけではなかった。
圧倒的な『力』。
「――――なんだ……!? ……この『魔力』は……!! ……あの子が出しているのか……!? ……世界が揺れているようなこの感覚……」
「……坊ちゃん……こいつは……こいつは……まるで……!!!」
言葉の続きを飲み込むデゼスポ。
ロジェも同じことを思っていただろう。
彼もまた、それを口に出すことを恐れた。
『神のようだ』
そう言おうとした。
ロジェとデゼスポ。
彼らにとって、もっとも強大な魔力を持っているのは『魔王』という認識だった。
魔王以上の力を彼らは知らない。
それ以上の力をあえて言葉で表すとすれば、『神』しかない。
つまり彼らは、数十年の戦いで体験したことのある中で、もっとも強い力。
世界を轟かすような力を、死に掛けの少女から感じたのだった。
「……こいつはまずいですよ、坊ちゃん!!! この空気は普通じゃあねえ!!! 早く、早くあの女を殺さねえと!!!!」
「……いや、今彼女を攻撃するのはかえってまずいかもしれない。あの力をまともに受けたら、いくら僕たちでもどうなるか分からない。……それに、これから何が起きるのか、僕はとっても興味をひかれているよ……」
「…………分かりやしたよ……」
冷や汗をかきながらも、この場から離れないことを決めるロジェ。
長年ロジェと共にしてきたデゼスポは、彼の意思に絶対服従だ。
二体の魔物が見つめる中、次第に強まる魔力のオーラは、空気の壁のような目に見えるほどのものとなり、ミネカとその周りを包み始めた。
その異様な状況が続くこと―――― 一分。
「……ようやく黙りやがったか……随分、奇妙なことしてくれるじゃあねえか……」
「……だが、あの強大な魔力はまだ残っている……おそらく、あそこに……」
ミネカは叫び疲れたのか、己の使命を果たしたのか、こと切れたように頭から倒れた。
しかし、ロジェの言うように普通じゃない気配は消えていない。
まだ、何かが起ころうとしている。
「……坊ちゃん、あいつの近く、なんか変じゃないですかい……? あそこだけ、空気が歪んでいるように見える……」
「……ああ……目が回りそうだ。見ているだけで、気持ち悪くなってくる……」
どんどんその歪みが強くなっていく。
もはや恐怖を感じるほどに。
そしてとうとう、景色を確認できないほどの歪みとなった。
ミネカのすぐ近くだけが、他の場所から遮断されているようだ。
二人とも一歩も動けないまま、さらに一分近く経過した。
「魔力が完全に消えた……妙な感じだった……一体何が起こったんだ……」
「……見なよ、デゼスポ。あそこに何かある……!!」
やがて歪みは消え始め、元の景色に戻っていく。
そこには、彼らの信じられない光景があった。
「な、なんだと……!! な、なんで、てめえがそこにいやがる!? 確かに、死んだはずだろうが!!!」
「まさか……どうして君が………」
ロジェは自身の目を疑い始める。
その最期を目の当たりしたのだ。
デゼスポも信じられないといった様子だ。
自身の手で、確かに爆殺したのだから。
「――――な、何が……何が起きたんだ…………俺は確か…………」
突如、二体の魔物の目の前に立った青年が口を開いた。
デゼスポの魔能によって黒焦げになっていたその姿は、まるで戦いが始まる前のようにきれいに戻っている。
ショウエイ・キスギ。
殺されたはずの男が、そこにはいた。
だが彼はまだ、自分の状況を飲み込めていない。
動揺しているのは、二人の魔物も同様だ。
「…………そうだ、ロジェに負けて……ぶっ壊れた鍵を渡して………」
そこからのことは、何も覚えていなかった。
当然と言えば当然だ、鍵を渡した直後に、翔英は死んだのだから。
しかし、肉体の方は、記憶以前の状態に戻っている。
翔英本人を含めて、ここにいる誰もが驚きを隠せない。
その光景に頭を痛めるデゼスポを他所に、『ロジェは』現状について考察する。
ショウエイ・キスギの復活。
その原因は間違いなく『この女』だと。
普通ならばありえない。
死者を復活させる力など聞いたことがない。
そんな力が実在しているのならば、長年前線で戦い続けてきた自分の耳には入っているはずだ、
だが、実際に『起きている』
先刻、彼女が見せていた恐怖すら感じるほどの力を考えてみれば、頷くこともできる。
あの圧倒的な力の向かった先は、ショウエイだったのだ。
――――ロジェは笑った。
二度と話せないと思っていた男が再び立ち上がったこと。
常識外れの力を目の当たりにできたこと。
そして――――ミネカ・ベルギアに対して。
ミネカ・ベルギアという人間。
彼女の力は、これから先の戦いに大きく関係するだろう。
――――ロジェは決めた。
魔王を越える力への興味は深い。
その力をもっと知りたい。
ロジェは、ミネカを捕らえることにする。
ミネカを野放しにすること。
それは避けねばならないと、先程の力と現象を目の当たりにしたロジェは確信した。




