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第五話 『家を探して』

 ――――アビテルム。

 この国の中央都市であり、聖鳳軍本部もこのアビテルムに置かれている。

 この国では、「王」の存在は無く、政治面は十人の首長によって動かされている。

 

 そんなアビテルムへとはるばるやってきた翔英はまず、この世界の文明に目を向けた。

 町の入り口から見ても店が立ち並び、食べ物やら衣服やらを売っている。

 店は人で賑わい、どこも繁盛している。

 

 そんな町を少し歩くと、同行している者たちへ声が掛かり始めた。

 

 「ヒナノさん! うちで仕入れた野菜持っていってよ!」


 「やあ、ミネカちゃん! うちに寄っていかないかい!?」


 そう、彼女たちは国が誇る英雄なのだ。当然、国民からの人気は高い。

 ルンベはあまり注目されていないようだったが、そんなことは全く気にしていないようだ。

 

 ヒナノは軽くだが返事をしている。

 ミネカは声を掛けられる度に、頭を下げていた。

 

 さらに少し歩いたころ、一行は中央都市の中央にある聖鳳軍本部の門前へと到着した。

 見るからに時間と費用が掛かってそうな荘厳な建物であり、海外の観光スポットの宮殿のような印象を受ける。

 海外旅行に行ったことのない翔英は、その建物に圧倒されている。

 

 「――――じゃあ、私はこれで失礼するわ。またね、みんな」と、ヒナノはフワっと浮かび上がり門を飛び越え、建物の中へと吸い込まれるように入っていった。


 「では、僕も。色々ありがとうございました。部屋、見つかるといいですね」

 

 「おう! ルンベも元気でな!!」


 「本日はありがとうございました」 


 ルンべの方はちゃんと門を開け、正規のルートから本部へ。

 

 翔英とミネカは戦友と恩人を手を振って見送った。


 二人が見えなくなったところで、ミネカが話を切り出す。


 「――――では、先ほどお話した場所についてご案内致しますわ。ここから少し歩いたところにございます」


 そう、彼はミネカに都市へ戻ったら住める宿について紹介してもらうという約束をしていたのだ。

 その場所は、現在地から東の方角に二十分ほど歩いた先にあるようで、翔英は再び歩を進め始めた。

 

 歩き始めてすぐに、女性と、しかもこんな美人と二人きりで歩くことに少しばかりの緊張を覚える。


 久しぶりだ。この感覚は。 

 

 ずっと建物が並んている代わり映えしない景色だったが、気分は上々だ。

 とはいえ、ずっと無言はさすがにきつい。

 せっかくの二人きりの機会だ。

 ミネカとの親交をより深めたいと思い、彼はできるだけ平然を装いながら口を開いた。


 「それにしてもさ、ミネカの魔法凄かったよな。あんな化物の攻撃弾くし傷も治しちゃうし。ヒナノさんに鍛えてもらったって言ってたけど、どんな感じだったの?」


 「……そうですわね、五年ほど前にヒナノさんに助けて頂いてから一年近く付き添いで稽古をつけて頂きました。私には、攻撃の才能がありませんでしたので、回復魔法と防御魔法を習わせていただいて。それで、その力を、私にできることを世のために活かしたいと思い、聖鳳軍に入りましたわ」


 「めちゃくちゃ偉いな……! っていうか、あの防御魔法も回復魔法も俺からすれば、超すごいけど。あっそういえば俺にも魔法って使えるのかな? 昔から使ってみたかったんだよ、魔法」


 「ええ。この地に満ちている大気の力と体内に巡っている魔力を組み合わせれば使えると思いますわ。お試しになりますか?」


 そう提案された青年は一応試してみることにした。

 道中にあった無人の小さな公園に立ち寄り、二人は向かい合う。

 いざ、魔法の力を試す時。


 「――――では、お手を私の方に。ショウエイさんの魔力を拝見致しますわ」


 言われたように右手をミネカに差し出し、内に秘める素質を確認してもらう。

 こんな美少女に手を触れられてしまってのは、変に力が入ってしまう。

 そんな翔英に対して、ミネカは突然驚きの声を上げた。


 「………これは……! 素晴らしい魔力の量ですわ! 二軍……もしかしたら、一軍の方々に及ぶかもしれません……!!!」


 「――――えっ? ええっ!!? まじで!!?」


 「はい! これなら強力な魔法を放てるかもしれませんわ! まずは簡単な魔法から教えますわね! 一応私も攻撃魔法を習ったことはありますので、その時に教わったことをお伝えしますわ」


 ついに、自分にも強力な力が発現したという異世界ものらしい展開に心を弾ませ、早速魔法の準備に取り掛かろうとする。

 まずは、狙ったところに魔法を放ってみることにした。

 ミネカから魔力の練り方や大気中のエネルギーの感じ方を教わりながら、イメージを固めていく翔英。

 生前からこのようなシチュエーションは想定して想像を膨らませたが、まさか本当にできる日が来るとは。

 そんなことを思いながら、いざ、魔法を繰り出してみた。



 ――――だが、出ない。何も起こらない。

 完全に教わった通りのことをやったが何一つ起こりはしなかった。


 続いて、ミネカが専門とする回復魔法や防御魔法も試してみたが、同じく何も起こりはしなかった。


 「――――な、なんで? 俺ひょっとして魔法の才能全くないの? 魔力凄いのに?」


 「………いえ、どんなに魔法が不得意な方でも、何も起きないということはないはずです……ほんの少しでも、魔力の流動は感じられるはず……ましてやこれほどまでの魔力を秘めているのなら尚更ですわ。……一体どういうことなのでしょう……」


 「なんにも使えない」はさすがにあんまりだ。

 

 「だいたいこういうのって、めちゃめちゃ弱い魔法でも、なんか一つ位は習得できるものじゃないの?」と思いながら、翔英はがっくりと肩を落とす。


 「……とりあえず、俺に魔法は無理っぽいことが分かったわ。……せっかく教えてくれたのに、ごめん」


 「……いえ、こちらこそお力になれず申し訳ありません」


 嬉しそうだった数分前の翔英の顔を思い出しながら、ミネカも残念そうな表情を浮かべた。

 少しばかり空気が重くなってしまい、翔英は本題に戻ろうとする。


 「――――ミネカが謝ることはなにもないよ。それより行こうぜ。なんか脱線しちゃったし」


 「そうですわね。もうすぐですので」


 再び、翔英とミネカは彼の住み処を探しに歩を進め始めた。

 

 そして、五分ほど歩いたころ、二人は目的地へとたどり着いたのだった。

 その場所は、少し古さを感じるが、どこか懐かしさを覚えるような雰囲気を持った、いわゆる「アパート」だった。

 建物は二階建てであり、部屋は八部屋あるようだ。


 「こちらが私もお世話になった、スエリア荘ですわ。大家さんもこちらに住んでますので、今お呼び致します」


 少し経つと部屋から茶髪のショートヘアーに明るい色のニットを着用した女性が現れた。

 その女性は若々しい見た目で、優し気な表情が印象的だ。

 三十くらいだろうか。 

 

 「お久しぶりですわクーレさん。お元気そうでなによりです」


 「――――ミネカ! 久しぶりねー、一年ぶりぐらいかな? いやもっとか」


 どうやら二人は親しい間柄らしい。それはまるで、親戚同士の会話のようだ。


 「――――クーレさんにお願いがあるのですが、こちらの、ショウエイさんにお部屋を貸して頂くことはできないでしょうか?」


 「ああ、僕、来生……じゃなかった。ショウエイ・キスギと言います。家を探してて、ぜひお借りしたいのですが」


 「あー入居の話ね。いいわよ、ちょうど一部屋空いてるし」


 「おお、ありがとうございます! ミネカもありがとう!!」


 ほっとした表情で顔を合わせる二人。

 しかもちゃんとしたところだ。

 もしかしたら、公園の遊具暮らしとかになるんじゃとかも考えたが、杞憂に終わったようだ。

 

 でもでも、これはこれで別の問題が生まれそうな気がする。


 「じゃあ、早速だけど契約の話をしようか。家賃は一月あたり代々五万くらいかな。それから―――」


 来た。

 翔英は言いづらそうに話しを遮った。


 「――――あ、あの、実は俺一文無しなんでした」


 「えっ!?」と、女性陣二人は同時に声を上げる。

 見たことないドン引き顔をしているため、ミネカを直視することができないまま、ぼそぼそと謝る翔英。


 「……ミネカの友達とはいえ、それじゃあねえ……」


 「――――じゃあ、どこか就職先見つけてその後、今までの分をお支払いします。できるだけ早く」


 「クーレさん。私からもお願いしますわ。私、この方に助けて頂きましたので」


 「…………しょうがない。分かったわ。ミネカの頼みもあるし、今回は特別に良しにしたげる」


 「や……!! ありがとうございます……!」


 ミネカのおかげもあり、なんとか無事住めることになった翔英。

 世話になりっぱなしで、申し訳なさを感じまくる。

 

 『まあこれも、縁かな』

  

 入居決定。

 部屋についてや生活する上でのルールを聞かされる前に、いよいよ別れの時が。


 「――――では、ショウエイさん。短い間ですがありがとうございました。また、いつかお会いしましょう」 


 「うん、ミネカにはまじで感謝してる。何から何まで、ホントありがとう! 今度また、この借り何倍にもして返す!!」


 ミネカはニコリと微笑むと後ろを振り返り、優美な姿勢でこの場をあとにした。

 翔英も目一杯の笑顔で、彼女を見送った。


 「――――よし……!!」


 今日この日より、彼の「第二の人生」は幕を開ける。

 


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