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第五十八話 『完敗の行方』

 倒れている翔英を発見し、身体を引きずりながら走るミネカ。

 翔英のすぐ側には、もう一人の魔物、ロジェが立っている。

 

 ――――ミネカは走りながら考える。


 「まだ翔英を治す魔力が残っているか」と。

 先の攻防で、もう魔力はほとんど使い切ってしまっている。

 

 だが、やるしかない。

 急いで、翔英の元へ。 


 ――――しかし、走るのに夢中になっているミネカは、後ろに気づくのが遅れてしまった。


 不意に後ろから張り手を食らってしまい、吹き飛ばされるミネカ。

 張り手を繰り出したのは、ミネカのカウンターを食らったことで倒れていたデゼスポだった。


 「…………危なかったぜ。今のはよう……!! まさか、そんな技を隠していたとはな……ガキの癖にすげえことやってくれるじゃねえか……!!」


 超火力の爆撃が直撃したのにもかかわらず、再び立ち上がったデゼスポ。

 彼の身体に生えていた体毛は半分以上消し飛び、胸にはやけどのような跡がある状態とはいえ、まだ戦えるといった感じだ。


 「そ……そんな………当たっていた……はずなのに……」


 倒れながら絶望の表情を浮かべるミネカ。

 もう自分の命は助からないかもしれない。

 ミネカはそう思った。


 「ははははは!! 残念だったなあ。あれは確かにヤバかったが、俺に直撃はしなかった。お前のあれがぶつかる直前に、とっさにもう一度爆発を起こしたからな!!」


 デゼスポ自身、先のミネカの攻撃が自分の力が跳ね返されたものだということには、気が付いてはいなかった。

 

 しかし、デゼスポは数十年以上も王の元で戦い続けてきた魔物の一人。

 本能的な直感により、咄嗟に身体を動かした。

 もう一度爆発を起こし、全く同じものをぶつけて相殺したのだった。

 

 「――――どうやら、今ので限界のようだな。勝負ありだ。できれば、鍵を出してから死んでほしいんだが、叶いそうか?」


 「………………い……いえ………」


 「……そうか。じゃあ、こっちで探させてもらうぜ。――――ん? おお、ありゃあ、坊ちゃんじゃねえか。……向こうも決着が着いているみたいだな。あのガキが倒れてやがる」


 向かい合う先には、うつ伏せに倒れる翔英と、翔英を見降ろしているロジェの姿。 


 「――――どうやらそろそろ、向こうも終わりそうだね……」


 その様子を見ていたロジェは呟き、翔英を置いてミネカの方へと歩き始めた。


 「……運のいいやつだぜ。坊ちゃんがこっちに来ているからな。トドメはささないでおいてやるよ」


 合流するロジェとデゼスポ。

 デゼスポは、ロジェに状況を説明した。


 「――――へー、この子にそんな力がねえ。お前をそんなに焦らせるとは。どうやら、お互いこの子たちを侮っていたようだね。僕も随分と追い詰められた」


 「まさか、あんな奴が坊ちゃんをそんなんにしちまうとは、驚きましたよ。……さあ、さっさと鍵を奪って、ずらかりやしょう!!! そろそろあいつが帰ってくるだろうし」


 ロジェは頷くと、ミネカの目の前に近づいた。


 翔英とミネカはお互い意識は保ちながらも、そこから動けずにいる。

 だが、二人の考えていることは全く一緒だった。

 自分ではなく、『相手』が助かる道という。

 

 翔英はなんとか首を動かし、視線をミネカ達の方へと向けた。

 視線の先では、今にもロジェがミネカへと手を伸ばしている。


 「……!! ミネカ……!! く……ロジェっ!! こっちだっっ!!!!」


 ふらふらになりながら身体を起こす翔英。

 決死の叫びで、ロジェの視線を自分へと移した。


 「これ……だろ……!! お前らの狙いは……!! それ以上ミネカに近づいたら、こいつは渡さねえぞ……!!」


 胸元にしまっていた鍛錬場の鍵を掲げ、ロジェとデゼスポを誘導する。

 

 庭に飛ばされる直前、翔英はもしものときのためと、ミネカから鍵を受け取っていたのだ。 

  

 「……なるほど。鍵を持っていたのは、ショウエイの方だったのか」


 「ちくしょうっ!! お前だったか!!」


 当然、魔物二人は倒れている翔英の元へ向かう。

 

 動くことすらできないミネカは、考えることと祈ることしかできなかった。

 翔英の元へ帰って来たロジェは、


 「さあ、早く鍵を渡してくれ。君たちにはもう、選択肢はそれしかない」

 

 と、手を差し出した。

 

 「……わかった……!! 鍵は渡す……!! その代わりに一つ、こっちの望みを聞いてくれないか……!!」


 地面に這いつくばりながら、条件を提示する翔英。

 その姿は、不遜か大胆か、二人の魔物の目には別々に映った。


 「ああ!? 何言ってんだガキ!! こっちは力づくで奪ってもいいんだぜ!!? 取引なんてできる立場じゃねえだろ!! さっさと渡しやがれ!!」


 「いや、いいよデゼスポ。聞こう」


 「……!! ……分かりやした。なんだ、言ってみろ!!?」


 翔英は、鍵を握り締めながら答えた。

 かすれる声を奮い立たせて。


 「……鍵は、今すぐ渡すから、ミネカの命だけは助けてくれ……!! ……できれば、俺のも……」


 難しい要望だということは分かっていた。

 しかし、この状況ではこうすること以外、何もできなかった。

 

 だが、


 「……わかったよ。今、僕たちから手を出すのは止めよう。だけど、僕にできるのはそこまでだ。それ以上は何もしない。鍵を受け取ったら、すぐにここを離れる。君たちがその後、死ぬか生きるかは、君たち次第だ」


 元々、これ以上手を出すつもりも無く、鍵を奪って帰ろうとしていたロジェ。

 彼にとっては、ほとんど意味のない取引だった。

 ただ、翔英の一番の思いが聞けたのは有意義だったが。


 倒れ込んでいるミネカの目には涙が浮かんでいる。  


 「……わかった。約束だぜ。…………そらよ、鍵だ」


 翔英は鍵をロジェに投げ渡した。


 だが、受け取った鍵を見たロジェは驚きを見せる。

 それはもう鍵の形ではなかったから。

 

 一般的な鍵でいう、差し込む部分は既に砕けて無くなっており、先端の持つ部分のみになっていた。その部分もヒビだらけでボロボロだ。


 少し握ったら、粉々になってしまいそうだ。


 「悪いなロジェ。……ポケットに入れてたもんだから……お前の拳がボコボコ当たっちまって……いつの間にかこうなっちまってた。……でも……もしかしたら、まだ使えるかもしれないよ……さあ、約束だろ……それを持って……早く行ってくれ……」


 もはやガラクタとなった鍵を無言で睨むロジェ。

 それを見たデゼスポは怒りの声を上げた。


 「こ、これが鍵だと!? ふざけやがって!! ぶっ殺してやる!!」


 「ま、待て、デゼスポ!!!」


 ロジェの制止よりも先に、デゼスポは引き金を引く。

 五本指から放たれた爆発は、瀕死の翔英に直撃した。  


 そして――――ショウエイ・キスギの「第二の人生」はこの瞬間、幕を閉じた。 

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