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第五十七話 『唯一の手札』

 翔英がロジェとの硬さ比べに倒れる数分前。

 ジックルの庭における、もう一つの戦いが終わろうとしていた。


 翔英とロジェの打ち合いの裏で対峙する、満身創痍のミネカとデゼスポ。

 

 デゼスポの破壊力は凄まじく、攻撃を得意としないミネカは徐々に追い詰められていく。

 このままでは何もできずに敗北してしまうと悟ったミネカは、ある一つの可能性に賭けてみることを決意する。

 

 それは、回復と防御を専門とするミネカが持っている、たった一つの『攻撃』手段。

 

 彼女唯一の、敵を倒すための力だった。


 「――――まだ全然やる気みてえだな。いいだろ。それならお望み通りどんどん行くぜえ。次は、『二本』だ」


 「………二本……?」


 デゼスポが動く。

 戦意を失わないミネカに対し、先の能力を使用した。

 

 二度目の爆発。

 ただし、その爆発の威力は先の倍以上になっていた。


 しかし、ミネカが取った行動は先ほどと全く同じだった。

 

 「っっつ……!! 痛たっっ……!!」

 

 「へっ、さっきとおんなじじゃねえか。へへへ、けどよ、これの強さは違ったろ? お前お得意の防御魔法もほとんど破れちまってる」


 やはり防御魔法を繰り出したミネカだったが、今度はバリアが半壊してしまった。

 幸い重症ではないものの、とっさに身体を覆った両腕からは血が垂れている。

 

 なぜ、状況が好転するわけがない、防御魔法を使用するという選択をしたのか。

 

 それは、ミネカには一つの予想と狙いがあったからだ。


 「(………やはり当たっているようですわね。分かりましたわ。この方の爆発攻撃について…………)」


 敵の魔能について、その詳細が見えてきたミネカは、時間稼ぎもしつつデゼスポに問う。


 「――――あなたのその魔能、指した指の数だけ威力が増加する爆発を起こす力のようですね。爆発の指定箇所もその指が指している地面………違いますか?」


 「ほう? ほうほうほうほう、バレちまったか。そう、そうだ、その通りだ。俺は昔から考えるのが苦手でな。戦いの最中なんてもってのほかだ。そんな俺にぴったりの力だぜ、こいつは。実に単純だからな」


 ミネカの『予想』は的中していた。


 もっとも、デゼスポの魔能は特に分かりやすい部類なので、分析にも長けているミネカが気づかないわけはなかった。

 当然、デゼスポの魔能の全てについて分かったわけではないが。


 「お前の言う通り、俺の指で差したところは下から爆発を起こす。そしてその威力は指の数次第。だけどよ、そんなことが分かったからといって、相変わらずお前の勝てる見込みはゼロに等しいぜ。お前には防御することしかできないんだからよ」


 そう思われるのもミネカには予想通りだ。

 だが、ミネカにはまだ予想しきれていない、一発逆転のチャンスを掴むためには知りたい情報がある。


 「――――当然、鍵渡す気にはならねえわけだ。じゃあ、めんどくせえから少し飛ばして『五本』で行かせてもらおうか。二本であの威力だ。どうなるかくらい、どんな馬鹿でも分かるぜ」


 顔つきが変わるミネカ。

 このデゼスポの選択はミネカにとって吉とでるか凶とでるか、ミネカにとっても読み切れないまま、最後の攻防が行われようとしている。


 「これが最後の忠告だ。まだ、鍵を渡す気はねえか? 多分……いや絶対、こいつを食らっちまったら、死ぬぜ? 坊ちゃんにも殺すなと言われてるんだ。できれば、殺さずに鍵を持って帰りてえんだがねえ」


 「残念ですが」


 「はははははっ!! そうか!! じゃあ仕方ねえよな、殺しちまっても!!!」


 高笑いと共に、五本指に力を込めるデゼスポ。

 敵の攻撃に合わせるように動くミネカ。


 デゼスポの言う通りあれをまともに受けてしまったら確実に死んでしまう。 

 絶対に失敗はできない。

 必ず、成功させる。


 『翔英のために』『みんなのために』


 ミネカは唯一の手札である魔法を、デゼスポの爆撃と同時に発動した。


 「…………なぜだ……なぜ爆発が起きない……!? 腕は痛えし、爆発を起こした感覚は確かにあった……!! ……このガキが……何かしたのか……!!」


 不発。

 爆発は起きなかった。


 正確に言えば、起きなかったのではない。

 ミネカが起こさせなかったのだ。


 「……はっ、まあいい!! もう一回やりゃあいいだけのこと!!! …………? な、なんだそいつは……!?」


 ゆっくりと、下に向けていた両手を胸の前に掲げるミネカ。

 そこには、ミネカが防御魔法で作り出す、光の壁と同じものがあった。

 

 だが、それは通常の物とは断じて異なっている。

 光の壁の内側に只ならぬオーラを宿し、太陽のような眩い輝きを放っているのだ。


 「……はい……その答えは今、お教えいたしますわ」


 そのままミネカは手を前にかざし、光の壁の中から、凝縮されたエネルギーの塊を飛ばした。


 先程、光の壁に宿っていた輝きの正体であり、デゼスポに向かって飛んでいく『それ』こそが、ミネカが持っていた唯一の攻撃手段だった。


 そのエネルギーは一体何か。

 それは、デゼスポが起こした爆発そのものである。


 今、ミネカが繰り出した魔法は、防御魔法を応用した魔法であり、いわゆる『カウンター能力』を持つ魔法だ。

 ミネカはこの魔法を反射魔法と呼称しているが、使用できる人間がミネカしか存在していないため、正式な名前は決まっていない。


 このミネカ唯一の攻撃手段の秘密は、物理攻撃を除いた敵の力を一瞬、反射に適した特殊な防御魔法を数重繰り出すことで捕らえて、そのまま敵に投げ返すことにある。


 敵の放った力をそっくりそのまま返すという、敵にすら危害を加えることを良しとしないミネカならではのこの力。


 まさに切り札と言える力だが、極めてリスクが高いという欠点がある。

 特殊な魔法を一気に繰り出すという負担の重さに加えて、少しでもタイミングがずれると攻撃を捕らえることができずに、もろに食らってしまうのだ。


 だからミネカは、普段はこの力を進んで使おうとはしなかった。


 だが、もし失敗したら確実に命を落とす、絶対に失敗できないという状況で見事に成功させた。

 

 翔英への、みんなへの思いが力を与えたのは言うまでもないが、ミネカ・ベルギアという女の圧倒的な勝負強さを感じざるを得ない。


 「お終いですわ……!!!」


 「ぬぬぬぬぬ!! ぐおおああああ!!!」


 的中。

 ミネカが放ったエネルギーの塊は、激しい爆音と爆炎と爆発と共にクリーンヒットした。


 「はあ……はあ……この威力……やはり……うっ……!!」


 疲労と負傷で膝を着いたミネカは思った。

 自分がこれを受けたら、身も残らず消しとんでいたと。


 それはデゼスポも同じであるはずだと。


 爆炎が晴れていく。

 そして、地面に横たわる大男の姿が見えた。


 「……やったのでしょうか……? いや、そうでなくては困ります……もう戦えないですし……」


 二本分から一気に五本分のパワーで爆撃を受けたため威力の上限が読み切れず、残されたマナをほとんど使って魔法を出したミネカ。


 もう体力は残されていない。


 「……ショウエイさんは……無事でしょうか…………はっ!! ショウエイさん!!!」


 百数メートル向こう、倒れている翔英の姿を発見するミネカ。

 彼女は走りだした。

 

 真後ろで動いた影に気づくことなく。

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