第五十五話 『真の本物』
「――――ぐあっっ!!」
吹き飛ばされる翔英。
同じ武器で打ち合ったが、力はロジェの方が上だ。
正面からぶつかれば、そうなるのは当然だった。
「この大きさ。かっこいいけど、ちょっと振りづらいね。……やっぱり元の形の方が使いやすい!!」
上機嫌な様子で、通常サイズに変化させた剣を振り回すロジェ。
対する翔英は落ち着かない。
どういう理由かは分からないが、自分と全く同じ武器を相手が持っているのだから。
すぐに身体を起こして次に備える。
タフさは鍛えていたのだ。
「――――おいロジェ!! お前のその武器の力はこうだろ!? 敵の力を吸収してコピーしていく力!! さっき打ち合った数回で俺の武器の力をどんどん持っていったんだ!!」
予想する翔英。
こいつはおしゃべりだ。
合っていようがなかろうが、聞いてみる価値はあるだろう。
「んー。教えない」
「えっ!? 何でだよ!! いいじゃねえか教えてくれても!!!」
「だって、教える意味ないじゃん」
ごもっとも。
全く教えてくれないとは思わなかったが。
自分で言っといてなんだが、もしそうだとしたらかなりやりづらい。
打ち合うたびに、あいつを強化してしまうというのは。
さっさと本体を叩いて、勝負を決めに行った方がよさそうだ。
「(まあ……九割型正解だ。……だけど、君が読めなかった残り一割が致命的となる)」
再び、剣をぶつけ合う二人。
またロジェが押し勝つが、翔英はなんとか受け止める。
必死に凌いでいるだけ、これではジリ貧だ。
装備が同じとあっては、ステータスで負けている翔英に勝ち目は薄い。
「うんうん、いい感じだね。大分斬ったな!! そろそろ、追い越したころかな……」
手に持った剣を観察しながら動きを止めるロジェ。
だが、翔英もまた動くことができない。
動きを止めているとはいえ、隙は全く感じられない。
今向かっても、返り討ちに遭うのが読めている。
「ねえショウエイ。今度はこっちが質問するよ。この剣、変形させられる形の数は、何個あるの?」
「あ……? ……教えん!! 理由はさっきのお前と同じだ!!」
「まあそりゃあそうだよね。……でも、僕の予想では……君自身も知らないんじゃないかと思うんだけど、どうだい?」
翔英は顔をしかめる。
心を読まれているかのようで、いやな気分だ。
「……その様子だと、当たってるぽいね。まだ成長途中ってところかな?」
「……ああ……そうだよ!! 教えないんじゃなくて、知らないってのが正解だ!!」
「ははは。そっかそっか。……じゃあもう一つ、僕の予想を教えよう。君のこの武器の進化は、『無限』だと思う。君が望み、上を目指す限り、永遠に続くんじゃないかな」
嬉しい予想だ。
翔英はまだ、限界を感じたことはなかったが、いずれぶつかると思っている。
敵とはいえ、自分の(というか武器のだが)将来性についていい評価をされるのは悪い気はしなかった。
「――――だけどね、それは僕も同じなんだ。さっきの質問に答えてあげよう。どうぜバレても、大した対策はできないし。君のおかげでいい経験ができた、そのお礼さ」
翔英の質問、ロジェの武器について。
世界で数人しか知らないことをロジェは教え始めた。
「ショウエイのさっきの予想で、大体当たっている。だけど、惜しいところが一つ。僕のこの武器は『クレイジーグロウサー』といってね。斬った相手の力を養分として貰うことで急成長していく。その成長に限界はないんだ。さっき君はこう言ったね。『敵の力をコピーしている』と。そうじゃなくて、本物なんだよ。今、分かりやすく見せてあげよう」
翔英の剣となったクレイジーグロウサーに念じるロジェ。
その三秒後。
それは二本になっていた。
「な……!? なんだそれ、そんなの見たことない……!! 知らないぞ……!!」
「だから言ったでしょ、本物だって。こいつは、相手の力を貰い続けることで、その相手の力をも抜き去ってしまう。だから君の知らない、君がこれから出会うかもしれない力すら使うことができるんだ。……『成長』。ただの棒からこの数分で『真の本物』になった。今やもはや、僕の方が本物と呼ぶにふさわしくなったわけさ」
二刀流となったロジェは、そのまま翔英に襲い掛かる。
「一本じゃあきついんじゃないかな!? さあ、どうする!? ショウエイ!!」
ひたすらに耐え続けてきた翔英。
しかし、攻撃を剣で止め続けることにも限界が訪れる。
とうとう、翔英唯一の武器が弾き飛ばされてしまった。
「し……しまった……!!」
「よく頑張ったねショウエイ。だけどとうとう限界か……命までは取らないから、ちょっと眠ってて」
ロジェの剣が翔英を切り裂き、そのまま翔英は倒れ込んでしまう。
動かない翔英。
ロジェの方も、確かな手ごたえを感じていた。
「おっと……少し踏み込み過ぎたかな。まあいいや、死んじゃいないでしょ」
辺りを見渡すロジェ。
デゼスポとミネカを探しているが、見える場所にはいなくなっている。
小屋を挟んでいるため、彼らの位置は死角になっていたのだ。
「うーん、どこだ? あそこかな――――えっ!!?」
ロジェは驚きの声を上げた。
すぐに起き上がった翔英がそっと近づき、剣を振り下ろしていたのだ。
完全に意表を突かれ、初めて翔英の攻撃がまともに入る。
会心の一撃。
肩から腰に掛けて、血しぶきを上げながらロジェは倒れた。
「な……!! なぜだ……!! 確かに、確実に……!! 君の胸を切り裂いた感覚があった……!! なのになぜ……!! ……君は無傷なんだ!!!」
立ち尽くす翔英の胸元を確認し、珍しく声を荒げるロジェ。
肝心の翔英の肉体には、傷一つついていなかった。
「……ロジェ。お前に言い忘れていたことがあったんだ。……いや、そうだと確信が持てなかったから、言わなかったってのが正しいか」
ミネカと初めて出会った、あの最初の戦いのことを思い出しながら告げる翔英。
彼はあの戦いの後、ある疑問を抱いていた。
「……言い忘れていた……? 何を……? 君のその武器についてか……!?」
「そう。俺の武器には、変形以外にもう一つ、大きな特徴があったんだ」
翔英が抱いていた疑問。
その答えは彼の今後の戦いに大きく影響する。
「……こいつの最大の特徴。それは、『本気で斬りたいと思った対象』にのみ、攻撃が有効となることだ」
「……なっ!!?」
ロジェは戦いが始まってからずっと、翔英に敵意を全く持っていなければ、彼の肉体を裂こうとも思っていなかった。
さっきだって、できるだけ深く踏み込まないように剣を振り下ろしていた。
なぜなら、ロジェに翔英を殺す気は微塵もないから。
この剣を生物相手に使うには『斬る』という意思が必要となる。
『意思の不足』
ロジェには翔英を斬るという意思が足りなかったのだ。
だが、翔英は違った。
一刻も早くミネカを助けに行きたい。
そのためには、この男を倒さなくてはならないから。
彼は、ロジェの胸に狙いを定めていた。
ありったけの『意思』と共に。
なんとか身体を起こそうとするロジェに、翔英は特別製の剣を突き付ける。




