第五十四話 『特別な武器』
『スペアゲート』
魔物が移動する際に使用する、持ち運び可能な扉である。
この扉は魔物の一人、ファンドルにより作られている。
ファンドルが生成した紫の玉を破壊すると、望んだ場所に一瞬で移動することができる代物だ。
さらに一個につき一人まで、破壊した持ち主とは別にその場所へと運ぶことができる。
ロジェとデゼスポはこれを使用し、翔英とミネカをこの地に飛ばしたのだった。
魔物サイドのアドバンテージとなっているこの道具だが、制限もいくつか存在する。
一つ目は、行き先は破壊する本人が行ったことのある場所に限る事。
二つ目は、別の人物を移動する際には、一メートル以内に近づかなければならないこと。
そして最後にもう一つ。
これを一個作るのすら、かなりきついらしい。
まあ、この制限を含めても、強力な武器であることに変わりはないが。
そんなスペアゲートで翔英を移動させたロジェ。
ゆっくりと翔英を観察しながら、無邪気な少年のように話を始める。
「――――あっそうそう。君、面白い武器を持ってるね。さっき、剣の形が変わってた。あれはびっくりしたよ。おかげで避けきれなかった」
通常の剣を構える翔英。
それを見た、ロジェが先刻の攻防の感想をこぼす。
「そうだな。これは特別製だ」
「ははは。特別製か。確かに特別だね、それは。……でもね、特別な武器を持っているのはなにも君だけじゃないんだよ」
そう言うと、ロジェは武器を取り出した。
「なんだそれ……それが武器なのか……?」
翔英は取り出した武器を見て言う。
確かに『特別』ではある。
だが、その武器に強みを感じなかったのだ。
何の変哲もない細い棒。
岩に叩きつけたら、簡単にポキッと折れてしまいそうな。
そんな棒を目の前の魔物は手に持っていた。
「そうだよ。これが僕愛用の武器さ」
小学生の間でこの棒を持っていたら、他者を寄せ付けない強力な武器になりえたかもしれない。
しかし、これは戦闘だ。
そんなもので戦えるとは思えない。
だが、ロジェは笑顔を浮かべながら、翔英にそれを向ける。
その姿は、かえって不気味さを感じさせた。
「――――じゃあ、遊ぼうか。……そうだ、まだ君に名前を聞いていなかったね。教えて欲しいな」
「……ショウエイ・キスギ。意外だな、あんたたちに名前を聞く文化があったとは」
「失礼だなあショウエイ。名前を知りたいっていうのは、種族とか関係なく、誰にでもあるものでしょ?」
魔物に名前を呼ばれたのは生まれて初めてだ。
しかもいきなり下の名前とは。
「よし始めようかショウエイ。といっても、デゼスポがあの娘から鍵を奪うまでの短い間だけどね」
「……!! …………いや、そうはいかねえよ!!!」
ぶつかる意思と共に、二人の剣と棒が交わる。
一方、ミネカ・ベルギア。
ミネカは翔英の遥か後ろで、毛むくじゃらのおじさんに追われていた。
この地、『ジックルの庭』は魔物の住処の中でも一、二を争う広さを誇っている。
その広さは、サッカーコート二つ分以上。
庭の中心には、ジックルが住んでいる古びた小屋があるが、庭自体は他の魔物も自由に使っている。
この場所を見つけたのがジックルだったため、彼の名前が付けられているだけだ。
ちなみに、この小屋も元々あったものらしい。
突然飛ばされてしまったミネカだが、幸運だったこともいくつかあった。
まず、庭を使っていた魔物及び、住人のジックルが不在だったこと。
そして、身のこなしの速さはミネカに分があり、今のところ、この何もない広い庭を逃げ続けられていることだ。
「(……敵の能力によるものですか……オーさんたちと引き離されてしまうなんて…………向こうにはショウエイさん……私の任務は何としても鍵を守ること……いや、そうではない……この魔物を倒すこと……!!)」
「お、おお? なんだ、追いかけっこは終わりかよ」
ミネカは立ち止まる。
逃げながら考え、答えを出す。
こいつを倒すことこそが、鍵を守ることになると。
この状況下では、それ以外に道はないと。
「ええ。考えがまとまりましたので。あなたのお相手をさせていただきますわ」
「おおそうかい。そりゃ俺にとっても助かるぜ。まあ、せいぜい楽しませてくれや」
ようやく面と向かい合うミネカとデゼスポ。
腹を括るミネカだが、自らの勝ち筋を見出せない。
そう、彼女は回復、防御、サポートを主とする戦士。
タイマンでの戦闘には、もっとも向いていないタイプなのだ。
「じゃあ行くぞっ!!」
攻撃を仕掛けるデゼスポ。
すかさず、ミネカは防御魔法を繰り出す。
「……ぬお!? なんだこいつは。光の壁……?」
「(この方は肉弾戦を得意とするタイプのようですわね……たった一回のパンチで、私の防御が揺らいでいる……長期戦は私に不利ですわ……)」
自分の拳が少女に止められたことに驚いている間に、一旦距離を置くミネカ。
デゼスポはニヤニヤしながら、ミネカに視線を送る。
「へっ、見た目に寄らず意外とやるじゃねえか。じゃあ、少しだけ本気を出すとするかな……」
「(何か来る……!! 回避をしなければ……!!)」
攻撃に備えるミネカに対し、人差し指を向けるデゼスポ。
「一発で死なねえでくれよ」
デゼスポの言葉と共に、ミネカの足元から爆発が起こった。
決して軽くはない爆発。
並みの人間が食らえば、命の危険があるほどの。
「ほお~ その壁、足元に出すこともできるのか。あの一瞬でそこまで判断できるたあ、やっぱりただのガキじゃねえな」
爆発の煙が晴れ、ミネカの姿がデゼスポに映る。
直感的に何とか足元に防御を出したものの、少なくないダメージを負っている様子だ。
「(……何ですか、今のは……私の足元から、攻撃が……しかも、強い……私の防御魔法でも、完全に防御しきれなかった……)」
全く軌道が読めない攻撃に戸惑うミネカ。
これが、この魔物の能力だと予想する。
「先に言っといてやるぜ。俺はこれから今の攻撃をどんどん強めていく。早めに鍵を渡した方が楽だぜ」
「(……今のを何度も受けてしまっては、私に勝ち目はない。ですが、今の攻撃の正体がもし『飛び道具』ならば……『あれ』に賭けるしかありません…………)」
ジリジリと追い詰められていくミネカ。
だが、それは翔英の方も同じだった。
「く……くそ……!! なんなんだよ、その棒は……!!」
打ち合う翔英とロジェ。
実力はロジェの方が上だが、ただの棒を武器にしているため互角以上に戦えている翔英。
オーたちとの修業で培った反射神経も活かされ、強敵とも戦えるようになっていた。
しかし、翔英の表情には焦りや動揺が見えている。
何故か。
それはやはり、ロジェが使用している武器にあった。
「だから、特別だって言ったでしょ? こいつにはね、僕の練った魔力が込められているんだ」
『特別』だというように、ロジェの棒に変化が訪れていた。
いや、もう棒と呼べるものではない。
これは『剣』だ。
それも翔英と同じ形をした。
「……俺の剣とそっくりだ。……ただの棒だったのに……」
「形が変化したのは初めてだよ。どうやら君のその武器は、念じることで形を変えることができるようだね。本当に面白い。……こんな感じかな?」
翔英はさらなる驚きを隠せない。
ロジェがまた、手元の武器を変化させ、大剣を作り出した。
鍛錬場前での攻防の時、翔英が一瞬見せたものと同じだ。
「さあもっと打ち合おう!! ショウエイのみたいのは珍しいから楽しいよ!!!」
「ちっ……!! こっちは全然だ……!!」
翔英も大剣に変化させ、同等の武器が音を響き渡らせる。




