第五十一話 『謎の施設』
翔英たちは『秘密の鍛錬場』での修業に取り組み始めた。
といっても、今は環境の変化に耐えるのに精一杯だ。
とりあえず最初はじっと座ってみて、目まぐるしく変化する環境に慣れようとする。
ヴァナベールが反対していた理由がまさにこれだ。
この気温の変化は止めることはできない。
例えば、入り口から離れたところで修業している場合、安全地帯に戻ってくる前に身体が壊れてしまう。
そうして戦線離脱した新人は少なくなかった。
散らばっていた三人を順に見回るオー。
彼にとってもきついはきついが、三人よりは大分慣れている。
ミネカは入り口付近で翔英たちを見守っていた。
ミネカはタフだ。
決して力は強くないが、この過酷な気候に耐えられる強さは持っている。
それに加えて、微量な回復魔法を自身に掛け続けていた。
自分が倒れてしまったら、一緒に来た意味がない。
みんなのために倒れる訳にはいかないと。
オーが翔英の元へとやって来た。
翔英は息を切らしながら、近くへ来たオーに尋ねる。
「――――あの、オーさん。ここって誰が作ったんですか? すいません……あまりにも凄くて、驚いてしまって」
「ああ。答えは……『分からない』だ」
「えっ!? 分からない? じゃあここって、なんなんですか?」
「それが分からないんだよ。伝承によればこの施設は、聖鳳軍が創立する前から存在していたらしい。五十年以上前に発見したらしいんだが、この変な気候も、ぐるぐると回るこの床も初めからあったらしいんだ。今は聖鳳軍が使っているけど、元の持ち主が誰かは分からない」
翔英の背筋に冷たいものが走る。
普通では考えられないようなことが多いこの世界だが、この施設は群を抜いておかしい。
しかもそれが、無人で行われているなんて。
「――――結果として、何者かが残したこの施設を平和のために使おうとし、聖鳳軍が運営を始めた。重厚な結界まで這ってね。そんなことをしたら元の持ち主に悪いという声もあったけど、なにせ五十年前からあるものだからね。それから、二十年以上も現れないもんだから、そうすることを決めたんだ」
「ええ……なんだか怖いですね……ここ……」
「まあね。でも、この施設についての研究は、まだ終わっていないんだ。……と、ここの話は終わりにしよう。考え出すと切りがないからね。今は、使えるものは使って、強くなっちゃおうってことだ」
「……分かりました」
納得はお預けにして、とりあえず頑張ろうとする翔英。
この過酷な環境であの武器を自由に扱えれば、大幅なパワーアップを見込めるかもしれない。
だが、あることに気づいた。
あのネックレスを馬車に忘れていたのだ。
非常に過酷な環境下にいたせいか、愛用しているあれが無いことに気付かなかったのだ。
「……あの……すいませんオーさん。馬車に忘れ物したので取りにいってもいいですか? ネックレスです」
「ああ、あれがないと、修業にならないもんねえ。取りにいっておいで」
許可を頂き取りに行こうとする翔英。
だが、それをミネカが呼び止める。
「ショウエイさん。私も一緒に行きますわ。先ほども言いましたように、一度外に出ると、再び認識できなくなってしまうので」
「あっそっか!! 忘れてた……じゃあ、頼むよ。ミネカ」
二人は回り続ける床を抜け、鍛錬場の外に出た。
すると、
「す、すげえ……ホントに見えなくなった…………まじでどうなってんだ、これ」
「この鍵を無くしてしまったら、もう入ることは叶いませんわ。不思議ですよね」
「そうだ……今、オーさんたちが扉を開けたらどうなるんだ?」
「なにもないところから、オーさんが現れたように見えるだけですわ。鍵を持っていないと、その時でも触れることはできません」
「へー。……誰なんだろうな。あれ、作ったの」
近くに止めてある馬車へと戻った翔英。
無事ネックレスを見つけた。
「ふー、あったあった。……そうだ、上着脱ごうとして一回外したんだ。はあ……これなかったら、俺なんの役にも立てないのに、何忘れてんだよ」
命綱を首に掛け、馬車を降りる。
しかし、降りた先に立っていたミネカは、一点を見つめながら、険しい表情を浮かべていた。
何か嫌な緊張、寒気を覚えているような顔だ。
確か、少し前にも見たような。
「ショウエイさん……あそこを、見てください……」
「え? …………なんだあれ」
それは二人の数十メートル先。
見たこともない光景。
空間に紫色の穴が空いている。
いや、正確に言うのであれば、穴ではない。
『渦』
紫を帯びた渦が空間に置かれている。
その中心からは、何か別の場所が見えているのだ。
次元の壁。
翔英はそう答えを出した。
「……ショウエイさん……あれは、すぐにオーさんに知らせた方がよさそうです……あの中心から、とてつもない邪気を感じます……」
「そ、そっか、分かった。一旦、オーさんのところへ…………え……?」
翔英は言葉を失う。
その穴を境に、奥にいる何かと目があった。
そして『ソレ』は、空間の穴を潜り、翔英の前に姿を現した。




