第四十九話 『告白』
「――――ごちそうさまでしたわ!!」
ミネカが両手を合わせて、無邪気な笑顔を浮かべながら言った。
彼女が手を合わせる前には、一家族が食事をした後のような皿が広がっている。
「……相変わらず、よく食べるね」
翔英は一杯の水を飲みながら呟く。
彼の前には、中サイズの皿が一つ。
「はい! 向こうまでは二時間近く掛かってしまいますからね。今のうちに食べておきませんと……!! ……ショウエイさんはよろしいのですか? それだけで」
「うん。俺はこんなもんで大丈夫」
ここから重労働が待ち受けているらしいのに、そんなにたくさん食べられない。
翔英はそう思った。
「出発まで後――――十五分くらいですわね。五分前になったら戻りましょうか」
「うん。そうだね」
まだ早い時間なので、食堂にはほとんど人はいない。
数人が飲み物を飲んでいるくらいだ。
そんな静かな空間で、翔英は口を開く。
「……ねえ、ミネカ」
「はい、なんでしょう」
『何を話そうか』
せっかく訪れた二人の時間だ。
もうあまり時間ないけど。
『でもまずは、無難な最近のエピソードがいいか』
そう考えた翔英は、この前の出来事を話すことにする。
「――――この間さ、修練場にヒナノさんがきたんだ。ぶっ壊れちゃった扉を直しにさ。それで、魔法であっという間に直しちゃったんだ。凄かったよ。なんて魔法だったんだろ? あれ」
「『復元魔法』だと思いますわ。聖鳳軍ではヒナノさんしか使用できない魔法です。私が壊してしまったスエリア荘の壁も、その魔法で直してくださいました」
「ああ、その時のやつだったのか……!! でも、あの人しか使えないなら、その魔法一本で商売やっていけそうだな。壊れたものを直す力とかめちゃくちゃ便利じゃん」
「そうですわね。私も、『直す魔法が使えたら』と考えることがよくありますわ。私に治せるのは、生きている人だけですから」
『あの時のことを言っているのだろうか』
ミネカのどこか悲しそうな面持ちから、翔英はそう感じ取る。
翔英はミネカの意思を否定しないようにしながら、彼女の悲しさを取り除こうとする。
「……十分だよ、それで。『死んだ人を生き返らせる』なんてそんなこと、神様でもない人がやるのは、世界のルールを犯すようなものだと思う。『生きている人を助ける』。それだけで、泣いて喜ぶ人はいっぱいいるよ。……俺もそうだし」
「……ありがとうございます、ショウエイさん……」
「……いや、気にしないでいいよ」
ミネカの言葉が翔英の耳に飛び込んでくる。
ミネカの姿が翔英の目に入り込んでくる。
『いつ言うか迷っていたことがある』
彼女に初めて出会った日から。
理想では、彼女の隣に並べるくらい強くなってからだった。
具体的に言えば、階級が二軍になってから。
でも、それを待っていたらいつまで掛かるか分からない。
もしかしたら、一生達成できないかもしれない。
絶対達成するためにこの目標を掲げていたが、確証は持てない。
折れてしまう可能性だってあるかもしれない。
もしくは――――ガロトのように。
だったら今、『言えるうち』に言った方がいい。
今、このタイミングで言うのはおかしいだろうか。
そんな考えは現世に置きながら、翔英は重くなった口を開いた。
「――――ミネカ、ずっと言いたかったことがあるんだけどさ」
「はい、何ですか?」
「……俺――――ミネカのことが……好き……なんだよね。……あの日からずっと……」
突然の告白。
普通だったら、動揺があちこちを走り回る。
翔英も、目線が下の皿に釘付けになってしまった。
だがミネカは、そんな翔英の全てを優しく包み込む。
「――――ありがとうごさいます。嬉しいですわ、あなたにそう言ってもらえるなんて」
翔英は顔を上げた。
微笑む女神が目に映る。
その表情から、否定的なものは見て取れない。
翔英の告白は前向きに受け止められたようだ。
「……ショウエイさん、私も――――」
「あっ! ちょっと待って……!! ミネカ……!!」
なんと、非常識にもミネカのアンサーにストップを掛ける翔英。
これにはミネカもびっくりだ。
「――――その続きは、俺が君の隣に並べたら聞かせてくれ。今の俺じゃあ、君とはあまりにも釣り合わないから。もし万が一、億が一、君がよくても、俺が俺にそう言い続けてしまう……だから……」
「…………分かりましたわ。あなたがそう仰るのなら、私は待っていますよ。……いつまでも……」
「……ごめん……いや、ありがとう」
翔英は進み続けたい。
その動機には間違いなく、ミネカの存在が大きい。
ここでミネカの答えを聞いてしまったら、せっかく加速してきた歩みが緩んでしまうかもしれない。
せっかく見つけた『みんなと戦う』という目標も。
それはまだ早すぎると判断した翔英は、ミネカの回答をお預けにした。
答えはもう、明白だが。
「――――あっ、もう二分前ですわ!!」
「えっ!? ヤバい!! 急いで戻ろう!!」
また誓いが増えた二人は、大慌てで集合場所へ走っていった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
集合してすぐに、一行はその訓練施設へと馬車で向かった。
座席に翔英、ミネカ、ラフェル、ソル。
運転席にはオーがいる。
「――――そういえば、さっきのオーさんの説明で気になったことがあるんだけど、理由の一つにミネカさんの予定が空いたからって言ってたよな。あれって?」
出発してから一分。
それぞれ緊張や期待を抱きながら到着を待つ中、ラフェルが口を開いた。
「ああ、あれは、あそこに行くためには、一軍か二軍、合わせて三人以上の方が帯同しなければならないんです。ですから、私を。二軍以上の方となると、それぞれのお仕事があって忙しいですからね」
「……なるほど。そうだったんだ。じゃあ、たまたまミネカさんが一番最初に空いたってことか」
『そんなに上位階級の人が一緒じゃなきゃいけないなんてどんな恐ろしいところなんだ』
と、翔英は身構える。
そこで、翔英の前に体育座りをしているソルが口を開いた。
「……いいえ、おそらくオーさんは最初からミネカさんが空くのを待っていたのだと思います。ミネカさんのお話を聞くと、とても身体に負担がかかる場所ということですので」
「あっ! そうか回復魔法……!! 確かにミネカさんがいれば安心して無理ができるな!」
「ふふふ。あまり無理はなさらないでくださいね」
ソルの予想は正しい。
オーはミネカが合流できるのを待っていた。
しかし、彼が待っていたのはミネカだけではない。
一軍、二軍の帯同の他にも、鍛錬場を使用する条件がある。
それは、帯同する者以外の一軍から二名の許可をもらわなければならない。
これは、それほどこの鍛錬場が危険ということの証明である。
生半可な者が挑めば、身体が壊れてしまう危険があるのだ。
許可を出したのはヒナノ・スエリア、ルナレジェン・ペサンテの二名だった。




