第四十八話 『秘密の鍛錬場』
次の日もまた次の日も、翔英たちは修業を続けた。
三日に一回程度の休日を挟みながら、己の壁にぶつかっていく。
日を跨ぐ度、少しずつだが成長を重ねていく。
翔英は一秒もかからないスピードで剣と盾の切り替えができるようになっていた。
さすがに直接やりあってる最中に変えることは難しいが、一瞬でも間があれば戦闘スタイルに違いをもたらすことができる。
さらに、一度形成に成功したことで感覚を掴めたのか、ついでに剣の形状のパターンを増やせるようになっていた。
種類は三つ。
一つ目は今までの通常状態。中世時代やファンタジーで見られる、オーソドックスな剣。
二つ目は、リュノンが愛用しているような短剣スタイル。
リーチは短いが扱いやすく、攻撃速度も速い。
もう予想されているかもしれないが、三つ目は大剣である。
某黒い騎士や某ソルジャーほどのものではないが、通常形態の倍以上の大きさを誇っている。
効果は言うまでもないだろう。
もちろん、盾と同じように一瞬での変化が可能。
彼の努力の賜物だ。
共通訓練の効果もあり、タフさと反応速度も身についていた。
ラフェルとソルも、ヒナノのアドバイスの効果もあり、合体技を成功させていた。
初めて成功した直後には、廻る炎の渦の前で喜びを分かち合った。
だが、これで完成というわけではない。
お互い集中できる万全の状態でできるようになっただけだ。
肝心の戦闘で使用できなければ意味はない。
二人は高見を目指し続けた。
そして初日から三週間が経過した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
今日は訓練開始から初めて、集合場所が修練場ではなく、翔英が入隊試験時に使用した部屋だった。
翔英が部屋に着いた頃には、既にソルとオーが待っていた。
「おはようオーさん、ソル」
「おはようございますショウエイさん」
前日の訓練終了後、集合場所はこの部屋だとだけ伝えられた。
どうしてここなのか、何をするのかはまだ知らない。
「それで、何をするんすか? 椅子や机がこんなに並べてあるし、ここじゃあ身体動かせませんよ」
「おはようショウエイくん。全員揃ったら説明するからもう少し待っててね」
「あ、はい。分かりました」
ニコリと笑いながら言葉を返すオー。
翔英は、端っこの席に座っているソルの元へ向かった。
「なあ、ソルは今日何すると思う? 俺はたまには座学でもやるんじゃないかと予想してる」
「座学……か。うん、そうかもしれないですね。……私もショウエイさんに近い考えで、次のことへの説明をするんだと思います。ほら、私たちが最初に掲げた目標って、おおむね達成できたじゃないですか」
「うん、確かに。そっか、次のステップに進むって感じか。……でも、最近はこもりきりだから、たまには外にも行きたいよな」
「おはようみんな!!」
翔英とソルが今日のことについて話していると、春風のような元気な挨拶とともにラフェルが現れた。
彼も翔英とソルの隣に腰を掛ける。
「ようラフェル。相変わらず時間ギリギリだな。ってか、一分遅刻だし」
「ごめんごめん。……で、今日は何するんだろうな?」
「俺も知らん。……あれ……? オーさん!! ラフェル来ましたよ!」
ラフェルが来たにもかかわらず、じっと腕を組んでいるままのオー。
何か考え事でもしているのだと思い、翔英は彼に声を掛けた。
「ああ、知ってるよ。でもまだ全員じゃないんだ。後もう一人来る、それを待つ」
「えっ!? 俺たち三人じゃないの!?」
ラフェルとソルも驚いている。
ここまでずっとこのメンバーだったのだ。驚くのも無理はないだろう。
「うん、そうだよ。……お。来たようだね。おーい! そんなに走らなくてもいいよ!」
外に目をやったオーがその人物がやってきたことを知らせる。
そして、
「いえ……!! お待たせしているので……!! 急がせてください……!!」
と、よく聞き慣れた少女の声が、廊下の方から聞こえてきた。
金の長髪をなびかせ、息を切らしたその少女は、彼らの前に姿を現した。
「おはようございます、皆さん……!! 前の用事が長引いてしまい……遅れてしまいましたわ……!! 申し訳ありません……!!」
「えっ……!? ミネカ!!?」
ミネカ・ベルギア。
翔英がこの世界で初めて出会った少女であり、彼の行動原理となった人物。
翔英と会うのは、あのお食事以来である。
「ショウエイさん、お元気そうでよかったですわ。ソルさんとラフェルさんも」
それぞれ挨拶を交わす一同。
ラフェルは入隊直後に一度、任務で一緒だった以来。
ソルもミネカに会うのはおよそ二週間ぶりだ。
「――――それにしても、まさかもう一人がミネカとは」
「ええ。またよろしくお願いしますわ。ショウエイさん」
「はいはーい!! 全員揃ったし挨拶も済んだし、説明するよ!!」
オーの一声に、三人は耳を傾ける。
ミネカは翔英の前の席に座った。
「簡潔に説明するね。今日からは修練場から場所を移して、野外にある訓練施設で行います。理由は三つ。一つは向こうの方が身体を鍛える環境が豊富なこと。二つは君たちが施設を使えるようになったと判断されたこと。三つはミネカちゃんの予定が空いたことだ」
「――――それから、この訓練施設、通称『秘密の鍛錬場』と呼ばれてる。まあ行ってみれば分かるけどね。ちょっと遠出になるから、出発は一時間後にするよ」
オーの説明終わり。
そのオーに対して、ラフェルが口を開いた。
「はいはい! どんなところなのそこ?」
翔英はもちろんのこと、ラフェルもソルも行ったことがない。
ソルの方は、ヒナノに噂を聞いたことがあるが。
「うーん、そうだね……この国でもっとも『自分を追い込むことができる場所』かな。実際に見た方が分かりやすいから、改めて向こうについたら説明するよ」
若さは強い。
オーの回答に、ラフェルは目を輝かせた。
一方、翔英は顔をしかめている。
自分を追い込むのはちょっと嫌だから。
「――――よし!! じゃあいったん解散ね」
出発は一時間後。
その準備のため、ソルとラフェルは部屋から外へ。
オーも用事を済ませようと、部屋を後にした。
いつの間にか、部屋に二人きりなってしまった翔英とミネカ。
二人は顔を合わせた。
そして、翔英の方から口を開く。
「――――ねえ、ミネカはこの一時間、何するの?」
「下にある食堂へ行こうと思っていますが、ショウエイさんはどうするのですか?」
「……お、俺も、食堂行こうと思ってたんだ!! ……よかったら、一緒に行こう!」
「本当ですか!? 奇遇ですわね。はい、ぜひ一緒に行きましょう!!」
突然現れたチャンスを掴んだ翔英。
翔英はミネカと共に、この待機の一時間を過ごせることが決まった。




