第四十七話 『スエリア姉妹』
「――――ありがとうヒナノさん。頭の中で描いていたこと、初めて成功したよ」
ラフェルとの連携技を一発で成功させたヒナノ。
そんなヒナノに、ラフェルは心からの礼を告げる。
――――実妹であるソルだけは全く驚いてはいなかった。
ヒナノの凄さは一番よく知っている。
さっき自分でも上手くいきそうだったのだ。
彼女ならすぐに成功させてしまうだろうと予想していた。
ただ、やはり姉と自分の差を実感してしまい、ラフェルへの申し訳なさと自らの力不足に落ち込んでいるのも確かだ。
「やったなラフェル!! 凄かったぜ……!! 完全に成功じゃんか!!!」
先を見据えていた翔英がラフェルに喜びの声を掛ける。
ラフェルも嬉しそうな顔を向けた。
「うん、ありがとうショウエイ。……でもね、まだ完全に成功じゃないよ。俺はこれをソルと一緒に完成させたいんだ。昨日も今日も練習してきたから。だから、ソルと上手くいったら、それが本当の成功だよ」
「ラフェルくん……」
ラフェルの言葉に、うつむいていた顔を上げるソル。
ラフェルの狙いは、ヒナノに協力してもらって成功例を見せることだった。
何が足りていないのか知るために。
いつの間にか、ソルがメインの修業になっていることにラフェルは気づいていなかった。
「そうか……そうだよな。……うん。さっきは後少しだった……!! きっとあとちょっとで完成できるよ!!!」
翔英も二人の努力を見ていたのだ。
ソルと完成させたいというラフェルの気持ちは十分に分かる。
「いいわね、私も応援してるわ。じゃあ、さっきの見てて私が感じたことを言っておいてあげる」
後輩二人に一瞬笑顔を向けるヒナノ。
そして、彼らにアドバイスを告げる。
「まずソルは力みすぎ。もう少し肩の力抜いてやったほうがいいわ。あんた、ただでさえすごい威力なんだから、あんなに飛ばす必要ないと思う。『観察』これが大事よ」
「はい……」
「……それから、ラフェルくんは回転は強いのに、風の威力自体が弱いの。あれじゃあよっぽどコントロールができる人じゃないと、無駄に魔法の威力だけ引き寄せて消滅しちゃう。まあ、どっちも極端ってことね」
「なるほど……」
思ったより具体的なアドバイスに感謝するラフェルとソル。
ここで、このタイミングでヒナノに会えたことに喜びながら、ラフェルは明日に向けた改善策を考える。
「よし!! 扉も直ったし、二人の課題もまた見つかったし、今日は本当にここまでにしよう!! また、明日からもあるんだ。ゆっくり休むのも大事だよ!!」
話が一旦落ち着いたところで、監督者のオーがまとめだす。
一行はそれぞれの目標を胸に、この場を後にした。
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「――――ソル、ちょっといいかしら?」
翔英たちと別れた後、ソルに声を掛けたのは姉のヒナノだった。
ここは本部の中。
修練場と出入口を繋ぐ廊下の中心だ。
ソルは本部の寮に住んでいるので、翔英たちとは本部内で別れるのだ。
「はい……どうしました……? 姉さま……」
突然声を掛けられたこと。
そして、久しぶりに二人だけになったことに緊張を覚えるソル。
「ソル、まだこだわっているのね。さっき、修練場であんたを見たときすぐに分かったわ」
「………………」
うつむいたまま言葉を返すことのできないソル。
彼女にとって、触れたくないことだったからだ。
「あんたが私を目標にするのは自由だし、私はそれを嬉しいと思ってる。だけど、あんたはあんた、私は私。魔法だけにこだわることなんてないのよ。ソルにはソルの武器があるんだし」
「…………でも、私は、姉さまのように戦いたい…………それに、『あれ』は、好き……じゃないから」
「うん。それは知ってる。でもさ、『あの力』なら助けられることがあるかもしれないわ。……確かにあんたは魔法の才能もある。私の妹だしね。……でも、それ以上にあんたに向いているのは、あれの方よ」
再び言葉に詰まるソル。
強く真っすぐな瞳の前に、ヒナノの顔を見ることができずにいる。
「――――それに、あんたが嫌ってても、私は好きだよ。かっこいいじゃん」
「!! ……姉さま…………あ、ありがとう………でも…………」
「……今日はもう帰りましょ。私もソルも明日もあるしね。まあ、ゆっくり考えなよ。どうするか決めるのは私じゃなくて、あんたなんだから」
ヒナノとソル。
互いの異なる部分に尊敬を置いている姉妹は、それぞれの家についた。
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一方、翔英。
彼はスエリア荘へと帰宅し、クーレの部屋で休んでいた。
少しばかり自分の部屋で身体を休めた後、今日のことの報告がてら、クーレの元に行っていたのだ。
「――――あっそうだったの!! ソルと一緒とは聞いてたけど、ヒナノも来たのねえ」
「はい。まあ壊れた扉を直しにですけど。それにしても凄かったですよヒナノさん。あっという間に元の状態に直しちゃって。なんていうか、まさに『魔法』って感じでした。……まあ、本当に魔法なんだから当たり前ですけど」
クーレの料理をつまみながら、今日の体験を伝える翔英。
こちらに来てからというものの、翔英にとってクーレの存在は、もう母親だった。
「うんうん。私もびっくりしちゃうぐらいで、たまーに帰ってくると、また新しい魔法を見せてくれるのよ」
「……天才ですね、やっぱり、あの人」
「そうね。親の私が言うのもなんだけど、私もそう思うわ。……でもね、あの子の一番すごいところは、『努力を辞めない』ところなのよ」
ヒナノ・スエリアを表すのにもっともふさわしい言葉。
それは『天才』だと勝手に思っていた翔英。
だが彼女も、自分と近いところがあったのだと関心を寄せる。
「――――ヒナノはね、五歳のころには簡単な魔法が使えて、その数年後には当時のトップの魔法使いと張り合えるくらいになっていたの。まだ十歳にもなってなかったわ。周りの人からは、『天才、天才』ともてはやされた。当然よね、そんな人、今まで現れたことなかったんだから」
「――――だけど、ヒナノは驕ることなく、自分の限界を極め続けた。そうさせたのはヒナノの本分。『誰も見たこと無い魔法を使えるようになりたい』というね。ヒナノは、一番前を走ってその後を着いてくる人たちの道を作ることを望んだの。だからあの子は、常に進化を求める。そのために努力を怠らない。……もって生まれたすごい才能もそうだけど、あの向上心は中々もてるものじゃない」
「な、なるほど……才能に加えて努力を欠かさない……あの人の凄さが少しわかったような気がします……」
ヒナノのルーツを聞いたことで、彼女の強さの所以を知る翔英。
食べ物を取る手を止め、静かにじっと聞き入っていた。
「あっ、ソルもすごい頑張ってますよ。ソルの様子、たまに見てたりするんですけど、全然休まないで、ずっと練習してるんです。おかげでこっちも随分と元気づけられる」
話題は妹のソルへ。
翔英はソルについての話もしたかったのだ。
「それは良かったわ~ 私もソルが頑張り屋さんなのは知ってる。ずっと、お姉ちゃんの背中を追いかけてた。ヒナノを一番見てきたのはソルだからね。ヒナノに魔法で追いつこうと……でも、あの子には……」
何かを言いかけるクーレ。
その表情はいつもの太陽のような彼女に、雲がかかったようだった。
「……ん? なんですか? クーレさん」
「……いや、あの子もすごいって言おうとしたの」
「はい、それはもちろん!!」
その後も、翔英とクーレの話はしばらく続いた。




