第四十六話 『炎を纏う風』
再開。
翔英はさらに精度と変形へのスピードを上げるため。
ソルとラフェルは、お互いの力を合わせられるように各々の課題に取り掛かる。
武器にしては戻す、そんな練習を続ける翔英だが、必要とされる精神エネルギーは多く、想像以上に疲れがある。
小休憩を挟みつつ一日中続けたが、目に見えるほどの前進はできなかった。
しかし、今日は盾を作ることに成功したのは大きい。
一番の目標だったこれができるようになったのは、翔英に安心と進歩を感じさせた。
一方、ソルとラフェル。
彼らはやはり、威力のコントロールに苦戦を強いられていた。
技の強さが合わず、トライアンドエラーを繰り返す。
二人は知る由もなかったが、ソルの魔法の威力が高すぎることが原因の一つとなっていた。
ラフェルが起こす風が、ソルの魔法に負けてしまうのだ。
そもそもソルは、魔法の威力自体は聖鳳軍の中でも高いレベルに達している。
鍛えるべきは、魔法の調整と自由度だ。
その後も挑戦を続けたが、彼らの納得のいく結果は得られなかった。
訓練終盤では、個人の課題に取り組むソルとラフェル。
ラフェルは肉体に負荷を掛けたスピードの強化。
ソルは魔法のコントロールと魔法を使い続けられるように限界への挑戦を試みた。
そして、時間は流れ今日の訓練は終わりを迎える。
「よーーし、じゃあ今日はここまでにしようか!!」
と、オーが三人に呼びかけて集合させる。
「はい。みんなお疲れ様ね。今日はどうだった? 成果や課題うんぬん、なにか分かったかな?」
一日の訓練終了後は、毎回こうして互いに報告し合っている。
それはどこもだいたいそうだろう。
「まだまだ練習です」
練習中ずっと握っていた宝石を首元にぶら下げた翔英が答える。
シンプルながら、的を射ている適切な答えだ。
「俺もだな。今日もあんまりうまくいかなかった。たまーに成功しそうなときもあるんだけどね。……まあ、色々試してみるよ」
いつの間にか、風の変化をどうしても成功させたくなっていたラフェル。
一度挑戦を始めたことは諦められない、彼の本分だった。
「わ、私は――――」
「――――お待たせみんな。うわっ、結構派手に壊したのね……」
ソルが話そうとした時、出入口から女性の声が聞こえてきた。
その声の主は、修練場へと足を踏み入れると、こちらに近づいてくる。
翔英を含む全員が知っている声だ。
「おお、来てくれたか。悪いね、急に呼び出しちゃって」
「それはホントね。でも、まあいいわ。かわいい後輩たちのためだしね」
カーディガンを羽織り、ピンクのロングスカートと艶やかな茶髪をなびかせたその女性は、悠然とオーに言葉を返した。
「ヒナノさん!!!」
「久しぶりね、ショウエイくん、ラフェルくん。それに、ソルも。元気してた?」
一軍の一人にして聖鳳軍一の魔法使い、ソルの実姉でもあるヒナノ・スエリア。
彼女が今、翔英たちの前に現れた。
「姉さま……」
突然現れた姉に動揺を見せるソル。
ソルの最も尊敬する人物であると同時に、長年最大の目標としてきたヒナノは、彼女にとって大きすぎる存在となっていた。
姉妹仲は良好だが、会ったのはおよそ一か月ぶりだ。
「まあ、元気っちゃあ元気ですよ。っていうか、ヒナノさんは何をしにきたんですか? ここに」
「妹の顔を見にね。毎日ここで頑張ってるっていうからさ」
ソルに視線を送り、その姿を確認するヒナノ。
その顔を見ただけで、彼女のここでの努力を感じ取った。
そして『もう一つのこと』にも。
「いや、違うでしょ」
と、ヒナノの発言に、素早いツッコミを入れるおじさん。
ヒナノをここに呼んだのは、オーだったからだ。
「違くないよオーさん。扉を直すのはあくまでついで。ソルたちの様子を見にきたのが本命だよ」
「ああそうなの、まあ、それはどっちでもいいけど」
「じゃあ直すよ。ちょっと待ってて」
ヒナノは目を瞑ると、壊れた扉の方に手をかざした。
すると、扉を中心とした空間に変化が訪れはじめた。
復元魔法。
軍では『ヒナノのみが使用できる九つの魔法』の一つである。
ミネカが誤ってスエリア荘の壁を傷つけてしまった際に使用した魔法でもある。
扉を戻し、完璧に元の状態に復元された。
「はい、これでよし」
まさに神業。
目の前の光景に思わず拍手をする翔英。
「おおありがとう。さすがだよヒナノちゃん。お礼はまた今度するからね」
「これくらいどうってことないわ。お礼なんて言葉だけで十分。まあ、何度も呼ばれたらたまらないけどね」
才能と実力は、自信と余裕を纏わせる。
何気に翔英はヒナノの力を見るのは初めてだ。
彼はこの女性に尊敬を向けた。
「――――ねえヒナノさん!! ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな!?」
扉問題が解決したところで口を挟んだのはラフェルだ。
ヒナノの力を改めて目の当たりにしてのことだった。
「うん、別にいいけど。なに? ラフェルくん」
「いや、今ソルと一緒に完成させようとしてる技があるんだけどさ。中々上手くいかなくて、だから、ヒナノさんにも見て欲しいと思ってさ。ちょっと今やってみるから、そこで見ててよ」
ラフェルはソルに呼びかけ、二人は準備に取り掛かる。
そして、ごうごうと唸る一つの竜巻を作り出した。
そこにソルが炎の玉をぶつける。
炎は風に吸い込まれると、風を内から炎の衣で包んだ。
「お! やった!!」
ラフェルが喜んだのも束の間、すぐに炎は消えてしまった。
だが、これまでで一番の出来だ。
毎度毎度ぶつけた時点で失敗していたのだから。
成長した要因の一つは、やはりヒナノの姿があったことだろう。
憧れの人物を前にしたソルはいつも以上の緊張を避けられず、普段よりも威力が弱めになっていた。
それが逆に、風を殺さなかったのだ。
「なるほどね。ラフェルくんの風にソルの魔法を合わせようとしてるんだ」
「そうそう。これを一回、ヒナノさんにもやってほしいんだ」
「うんいいよ」
別にソルの力を疑ったからというわけではない。
むしろ、ラフェルはソルを信頼している。
ヒナノという手本を一度見ることで、自分とソルのクオリティを上げようとしているのだ。
翔英たちが見守る中、ラフェルは再び風を起こした。
「いいよ!! ヒナノさん!!!」
「ふーん。そうね、結構回転が強い。だったら……こんな感じかしら」
数秒間風を観察したヒナノは、ソルと同じように炎魔法を繰り出した。
ラフェルの小さな竜巻は、ヒナノの炎を取り込み、炎の鎧を纏った。
「えっ!! すごい!! いきなりかよ!!!」
成功した。
さすがに一回でできるとは思わず、驚嘆の声を上げるラフェル。
翔英たちもびっくりだ。
そんな彼らの様子を見ると、嬉しそうにドヤ顔をかますヒナノ。
「まあね。これくらいの規模なら、風の動きや強さをよく見ればできるわ。私が凄いのは間違いないけどね。……せっかくできたとこ悪いけど、熱いから消すわよ、それ」
そう言うとヒナノは消滅魔法を使い、作り出した炎を消し去った。
「(やっぱりとんでもないなこの人……聖鳳軍のトップにいるわけだ……)」
と、ヒナノがここにいる誰よりも格上なことを実感する翔英。
そして、マーノやルナレジェン、ガロトも彼女と同格だということを思い出す。
でも、そのガロトでも勝てなかったやつがいる。
そんなやつを倒せるんだろうか。
いや、弱気になってはいけない。
この世界に来た理由を忘れちゃいけない。
それに、こんなに頼もしい味方もいるのだ。
必ず、平和を。
翔英は今自分が修業をしている意味とその先の戦いを見据えた。




