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第四十二話 『進化の形』

 昼食を済ませた一行は食堂を後にした。

 修練場には戻らず、涼しい部屋へと向かう。

 

 「ごちそうさまでした!! オーさん、ありがとうございます!!」


 「よしよし。でも、三人ともあれだけでよかったのかい? 若いんだから、もっと食べてもよかったんだよ」


 翔英もラフェルもソルも遠慮していたわけではない。

 ただ、他の人と比べて少食というだけだ。


 「いや、俺はあれぐらいでちょうどいいので、大丈夫です」

 

 と、答える翔英に二人も同調する。


 「そうかい。ならよかった。じゃあ、決めようか。個人用の方をね」


 席に着く四人。

 ここで個人課題を決めてしまうようだ。


 「じゃあ早速、ラフェルくんからいこうか。君は、スピードについてだったね」


 「はい、そうです。まあ、何かで一番になりたいってのが目標で、それにスピードを選んだだけなんで、スピードにこだわっているって訳じゃないんだけど」


 と言ってはいるが、ラフェルが一番自信を持っているのがスピードだった。


 彼はスピードでは誰にも負けないと自負としている。

 たとえ今は負けていたとしても、鍛えれば自分に追いつくことはできないと。

 「成長性」では負けないと。


 「そうかい。まあ、これは僕からの提案なんだけど、次からはこんな重りを着けてやってみるのはどうだい。君はもう十分なスピードを持っている。これ以上の強化には、負荷を掛けながら基礎トレーニングを重ねていくのが良いと思う」


 どこからかリストバンド型の重りを取り出し、ラフェルに渡すオー。

 『こんなベタなやり方なのか』と、リストバンドを凝視する翔英。


 「……はい。重り、やってみようと思います。それから、さっきの訓練で、一つ試したいこともできました」


 「お、いいねえ。なんだい?」


 ラフェルは手から風を出すと、右手に巻き付けた。

 さすがに回転の強さは控えめで、小型扇風機を腕に着けているようだ。


 「『風の変質』です。この風を別の風に変えらればいいなって思って」


 「なるほど。その風に別の何かを加えることで、違う性質を持つ風を作りだすということか。……面白い。じゃあ、スピードの強化と風の変化を並行してやっていこう。協力できることがあったら、なんでも言ってくれよ」


 「俺たちにもなんでも言ってくれよ!」


 横から口を挟む翔英。

 ソルも笑顔で頷いている。


 「ははは、ありがと。でも、多分ショウエイには言わないと思うよ」


 「おい! ひどいなそれ!!」


 部屋に笑い声がこだまする。

 年齢は八つ離れているが。

 なんだかんだ、唯一の同期として仲は良好だ。


 「じゃあ、次はソルちゃん。魔法、だよね?」


 「はい……そうです。やることは変わりません。ひたすら鍛えます」


 やはり彼女には並々ならぬ魔法へのこだわりがあるようだ。

 その思いの根底は、やはり姉の存在か。


 「うん。魔法の強化はやっていこう。できるだけ実戦形式でね。……でも、魔法以外も鍛えていけたらと僕は思ってるんだけど、ソルちゃん的にはどうだい?」


 「……私には…………はい。分かりました。魔法以外もお願いします」


 何かを言いかけるソル。

 だが、すぐにオーの案を承認した。

 

 「よ、よし。でも、あくまでメインは魔法でいいからね。もしも魔法が使えない状況、通用しない状況になってしまったときのことを考えようってことだから」


 ソルの意思を尊重しながら、下を向いているソルを立てるおじさん。

 ソルの方もそんなことはわかっている。

 そして、自分は魔法だけでは戦っていけないとも。

 

 だが、ソルの目指しているものは、ずっと近くで見てきた姉の姿である。

 姉は完全に魔法だけで戦うことを可能にしている。

 

 そんな理想と現実の間でソルは頭を悩ませているのだ。


 「はい、じゃあ最後、ショウエイくん。いこうか」


 「は、はい。お願いします」


 「と、その前に、さっき使ってた剣、どうやって出したんだい? よかったら見せてくれないかい?」


 「ああはい、いいですよ」


 翔英は首元のネックレスに力を込め、剣を作り出して見せた。


 「す、すげえ!! どうやったんだ今の!!?」

 

 と、その光景に食いつくラフェル。

 ソルも同様に目を光らせて翔英を見ている。

 

 「いや、俺もよくわかってないんだ。こいつに念を込めると、なぜか剣になるんだ。これのおかげで、俺は戦うことが出来てるから、ありがたいんだけどね」


 「へー不思議だな。魔法ってわけじゃないんだろ?」


 「ああ。俺、魔法は超苦手だから」


 剣を元の宝石に戻したり、またすぐに剣にしたりする翔英。

 自宅での練習の成果もあって、変形に要する時間はかなり短くなっていた。


 「僕もそんな武器は見たことも聞いたこともない。とっても珍しいものだねそれは。と、見せてくれてありがとう。本題に戻ろうか。えっと、ショウエイくんは、攻撃の手数を増やしたいってことだったよね」


 「はい。さっきの訓練でもそれを実感しました。この剣一本で戦うには足りないと。例えば、遠距離攻撃とかできるようになれたらって、思いました」


 「んー。そうだね。魔法は苦手ってことだし…………」


 翔英の個人訓練を決める中、空間に沈黙が走ってしまう。

 魔法無しで遠距離攻撃がしたいって、そりゃ難しいだろう。

 レウラみたいに腕が伸びるわけないし。

 

 「あ、あの……ショウエイさん、一つ聞いてもいいですか?」

 

 と、そんな沈黙を破ったのはソルだった。


 「それって、他の形にはできないんですか? た、例えば、盾とか……」


 「えっ? いや分からない。というか、試したことないや……ちょっと今やってみますね」


 思わぬ角度からの意見に驚きながらも、挑戦してみる翔英。

 『試したことない』とは言ったが、『思いつかなかった』の方が正しい。


 物事を決めつけないソルの柔軟な見方に関心を寄せるオー。

 ラフェルの方は、わくわくしながら念を込める翔英を見つめている。


 「………んっ……!! はっ……!!! …………でき、ました……」


 翔英は何とか作り出したものを周りに見せる。

 だが、その出来上がったものは、盾というには小さすぎる、そして形が歪すぎる不格好なものだった。

 「おなべのフタ」より薄そうだ。


 そのできを見て言葉が詰まるソルとラフェル。


 「あ………うん。まあ、これで戦うのは難しそうだけど、変形すること自体はできるってことだね」


 フォローするオー。

 翔英はその盾をじっくり見つめると、すぐに元の剣に戻した。 


 「もう一回やってみます」


 再挑戦するが、さっきと同じものが生まれる。


 連続失敗に肩を落とす翔英。


 「……オーさん。これは、俺個人でもっとやってみます。だから――――」


 「いや、ショウエイ君の個人訓練は、これで行こうと思う。その変形を戦闘に使えるようにできれば、大きな武器になる。僕たちがいるときにやった方が、うまくいくかもしれないしね」


 「は、はい。分かりました……!! よろしくお願いします!!」


 本心ではここで練習したいと思っていた翔英は、オーの案を好意的に受ける。

 こうして、ひとまず三人の個人訓練の内容が決まったのだった。


 「よし!!! 今日はこれで解散だ。明日からも今日と同じ時間、同じ場所で行う。明日からに向けて、各自休んでおくように」


 今日は終了だ。

 三人は本部を後にし、それぞれの帰路についた。

 ソルはミネカと同じく本部所属の寮に、ラフェルはスエリア荘とは反対方向の自宅へと帰宅する。


 別れ際、ソルにはきちんとお礼を言っておいた。

 いいアドバイスをもらえたから。


 翔英も武器や戦術について考えを巡らせるも、さすがに疲れがたまっていたのか夕飯やシャワーを済ませるとすぐに床についた。


 そしてまた――――すぐに明日はやってくる。

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