第四十一話 『鬼との戯れ』
――――訓練が開始された。
赤鬼と青鬼が五人ずつ、計十体の鬼が襲い掛かってくる。
翔英は剣を作り出し、鬼たちに備えた。
赤が攻撃。青が防御。
頭で必死に考えながら、赤い鬼にのみ剣を振るう翔英。
しかし、求められることが多く想像以上に苦戦を強いられる。
鬼たちも決して弱いわけではなく、少しでも対応が遅れるとたちまち攻撃の雨に打たれてしまう。
赤い鬼を一撃で倒していくものの、すぐさま新しい鬼が補給されるまさに鬼畜仕様。
開始から五分しか立っていないにもかかわらず、恐ろしいほど体力と集中力が削られていく。
翔英はオーに怒った。
「何が『重いものじゃない』」と。
今回もっとも重要なのは、攻撃と防御の切り替えだ。
翔英にはそれはかなり難しいことだった。
赤い鬼が迫ってくる。
それに対し、剣を振るって応戦する。
ここで隙が生まれてしまうのだ。
先日の魔物・ステップラーとの戦いでは、一撃目で致命傷を与えることができたため反撃を食らうことなく、初戦に勝利することに成功した。
しかし、それは敵の弱点を正確に叩くことができたからだ。
しかも、その弱点は丸わかりだった。
翔英の防御力は決して高くはない。
殺傷能力に特化した強力な敵の攻撃を受けてしまったら、一発で戦闘不能になってしまうかもしれない。
そんな彼にとって、攻撃直後の隙は非常に危険なものであることは間違いない。
まだ見ぬ戦いに勝ち残るため、この訓練で何かを得なければならないことは彼自身よくわかっていた。
鬼からの攻撃を受けながら、突破口を探す翔英。
幸いダメージは少なく、行動不能になるようなものではない。
町の子供に殴られたぐらいのものだ。
だが、策を見つけることはできないまま時間が過ぎていく。
『手数の少なさ』
先ほど考えた自身の課題についてここまで痛感するとは。
今はまだ、ただ剣を振る事で精一杯だ。
「(……なかなか面白い武器を持ってるんだね、ショウエイくん。それに、動きも悪くない。何より、いい顔をしている。純粋に強さを求め、自分を変えようと努力している者の顔だ。これから楽しみだよ。……ガロトくん、君の残してくれたものは、僕たちが必ず、君に負けないような男に育ててみせるよ……!!!)」
それぞれ三人の様子をチェックしながら、次に向けた分析を行うオー。
殻を破ろうと必死な翔英の姿には、期待と希望を見出していた。
一方、ラフェル。
やはり天才というべきか。
開始直後こそ若干手こずりはしたものの、すぐに解決策を編み出し完璧に対処していた。
ラフェルは周囲の風を纏い、身体能力を強化することができる。
攻撃対象には纏った風をぶつけることで突破し、その際に生じた風の軌道に乗って移動することで、防御対象にも対応していく。
まるで風で遊んでいるようだ。
常人には不可能な動きだが、物心ついた時から身に着けていたこの能力と稀に見る天性の才能で、難なくそれを可能にしていた。
「(……ラフェルくんは流石だね。次からは鬼の種類を増やすか。……にしても、ラフェルくんには驚かされる。何年後か、いや……もっとすぐかもな。僕を追い越してくれるのが楽しみだよ)」
長年多くの人間を見てきたオーだが、この年齢でここまでの力を持っているのを見たのはラフェルが初めてだった。
だからこそ、彼が慢心せずに強さを追い求め続けるようにするのも、年長者の務めだと思っていた。
そして、ソル。
彼女の方はというと、なんと翔英以上に苦戦を強いられていた。
ソルは赤い鬼に対して、全て魔法で応戦しようとする。
しかし、溜めや唱える時間を必要とする魔法は、この訓練と相性が悪かった。
さすがヒナノの妹と言うべきか、魔法の威力自体は目を見張るものがあるものの、対応の速さが求められるこの状況には向いていない。
「(……ソルちゃん……君は魔法にこだわりすぎだと思うけど、あのお姉ちゃんがいたら、それもしょうがないのかもしれないね。……でも、魔法以外の武器も必要となるときがやってくるはずだ。それを君の気持ちを尊重しながら、見つけなければな……)」
ヴァナベールがソルを呼んだのは、彼女の才能に期待を寄せているためだ。
それは、魔法のみではない。
ソルは、姉とは違う強さを持っていると見抜いていた。
オーもそれは同じだった。
翔英、ラフェル、ソル。
若い世代の台頭をオーは心から嬉しく思っているのだ。
訓練開始から十分経過。
翔英とソルは、ひたすら耐え続けた。
そして、
「はーーい。今日はここまでだ」
オーの終了の合図と共に、周りを囲っていた鬼たちは姿を消した。
フルマラソンを完走したときのように、どっしゃりと汗を流しながらその場に倒れ込んでしまう翔英。
駆け付けてくれたソルとラフェルに肩を貸してもらいながら、オーの元に戻った。
「三人ともお疲れ様。どう? これを毎日繰り返してもらう。慣れてきたら、鬼くんの数や時間を増やすつもりだ。と言っても、ラフェルくんにはちょっと簡単か?」
「はい。でも、面白かったですよ。初めての体験でしたし、どんなやり方があるのか、どんなことが俺にできるのか、いろいろ試せました」
平然と答えるラフェルを横目に、翔英は息切れしながらラフェルとの差を痛感する。
でも、耐えられたことは誇りに思うべきだ。
「ははは。じゃあ、次からはラフェル君はもう少し難しくしよう。ソルちゃんとショウエイ君は大変そうだったね。なにか成果はあったかい?」
「……はい。めちゃくちゃきつかったけど、成果はあったと思います。ぼんやりしていた目標の形が明確になったというか。意味はあったと、そう実感してる。」
揺れる体を剣で支えながら立ち上がった翔英。
本心から思ったことを言葉にする。
「私も……魔法をもっと……自在に使えるようになれれば……と思いました。まだまだ、頑張らないといけません」
翔英とは対照的に、全く息を切らしていないソルが答える。
あの苦戦はなんだったんだ。
「うん。これから少しずつ掴んでいけばいい。君たちはまだまだ若いんだ。焦る必要はないからね」
翔英は「きつかった」とは感じていながらも、「嫌だ」とは感じていなかった。
自分の可能性を試すことのできる、絶好の機会だと捉えていたからだ。
「よし!! もうこんな時間だし、一旦お昼休憩にしよう。せっかくだから一緒にね。みんな何か食べたいものあるかい?」
オーの提案を受け、顔を見合わせる三人。
小学生、中学生、大学生の三人が。
「私はなんでも大丈夫です。ショウエイさんとラフェルくんが決めていいですよ」
「うーん。俺も特に思いつかねえな。あんまりこの辺のこと知らないし。……すまん、ラフェルが決めてくれ」
「え? うん、わかった。じゃあ…………下の食堂でいいかな? あそこならいろんな種類の料理があるし、ここからすぐ行けるよ」
「了解了解。あ、そうそう、お昼代は、上が出してくれることになってるから、遠慮しないで食べてね。休憩したら、個人訓練の内容を決めよう。さっきので何か分かったこともあるだろうしね」
「はい!! ありがとうございます!!!」
一行は暑い修練場を後にし、下にある食堂へと向かっていった。




