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第三十九話 『強さを求めて』

 「――――では、本題に入るとするかの」


 ヴァナベールの雰囲気が一変した。

 先程の好々爺といった様子は消え、厳格さを秘めた目つきへと移る。


 「お前さん、この間の任務で魔物と遭遇したと聞いたが、その魔物のことを覚えているかの」


 「え……? ある魔物って、あの時は何体か魔物に会いましたけど……」


 「その中で、一番印象に残ったのは」


 翔英は即答する。

 

 直接戦闘を行った二体の魔物よりも、ずっと脳裏に焼き付いている魔物がいた。


 その禍々しい姿、それと戦う師の背中。

 一生忘れることはないだろう。


 「――――ラスドラーゴ……という魔物です」


 「うむ、まあそうじゃろう。他の二人からも既に話は聞いとるが……お主がそいつから感じたことを教えてくれぬか」


 「えっと、とにかくでかい怪物みたいなやつで、そうですね……いかにも魔王って感じで、それで、とんでもない強さのやつでした……」


 翔英の説明を聞いたヴァナベールは、細目を下にやりながら数秒間考える。

 そして、やはり真剣な口調で言葉を返した。


 「実はわしは、ラスドラーゴという魔物に会ったことがある」


 「えっ!? そうなんですか!?」


 「うむ。しかもその時、わしはラスドラーゴを殺しておる。……じゃから、その話を聞いた時は驚いたわい」


 衝撃の情報を受け、素っ頓狂な声を上げる翔英。

 彼に構わず、ヴァナベールは話を続ける。


 「……しかし、お主らの話には引っ掛かることがあっての。リュノンちゃんもミネカちゃんもみんな口をそろえて同じことを言う。『でかい』『巨大』『怪物』だと。わしが知っとるラスドラーゴという魔物は、怪物どころか小さなお坊ちゃんみたいなやつなんじゃ」


 「お坊ちゃん!? なんですかそれ!!」


 「本当に人間の子供みたいなやつだったんじゃ。じゃが、とんでもない強さじゃった。まあ、随分経ったから、背が伸びたのかもしれんの」


 「え……? そんなこと……あるんですかね……?」


 あの時に見た怪物と人間の子供を思い浮かべる。

 とてもその二つがつながっているとは思えない。


 「とにかく、お前さんを呼んだのはこの情報を共有しておきたかったということじゃ。奴がまだ生きているというのなら、今度こそ決着を着けてやる。……ガロトのためにものう」


 ヴァナベールは拳を力強く握ると、己自身に誓うように静かに告げた。

 目の前の老人が放つ台風のような圧を浴びる翔英。 

 

 「……はい……!! 俺もやります!!!」

 と、その圧に負けぬように、翔英も覚悟を宣言した。


 「うむ。ショーエーちゃんならそう言うと思ったわい。じゃが、今のお前さんでは奴の前では赤子同然。とてもかなう相手ではないのう」


 「…………はい。それは十分わかってます……」


 「ほっほっほっ。そんな肩を落とさんでもええわい。お前さんを呼んだ二つ目の理由はそのことについてじゃの」


 ヴァナベールは二つ話があると言っていた。

 一つ目がラスドラーゴについて。

 二つ目は、


 「今日からしばらくの間は、お前さんにはレベルアップを図ってもらう。お前さんは十分な素質を持っておる。じゃが、その才能はまだまだ眠っているままじゃ。それを叩き起こすためにの」


 「……はい、ぜひお願いしたいです!!!」


 丁度もっと強くなりたいと願い、自分の力の無さを嘆いていたところだ。

 ミネカとの約束のためにも、強くなるに越したことはない。


 「やる気十分じゃのう。お前さんの若さが眩しいわい。……ところで、その詳細についてじゃが、早速今日の十時からスタートじゃ。ちょっと休憩した後、本部の中の修練場に行ってちょうだい」


 「結構すぐなんすね。……よし、了解!!」


 翔英は壁の時計へと目をやった。

 時刻は午前九時二十分だ。

 四十分ほどある。


 「わしの伝えたかったことはこれで全部じゃ。ショーエーちゃんから何か聞きたいことはあるかの? なんでも答えるぞい」


 「え、そうですね…………具体的に何をするんですか?」


 「わしは知らん」


 「あ、そうなんですね……」


 翔英は目の前の老人をいかにも教えることに長けている人物だと思っていた。

 彼の勝手な想像だが、何人もの優秀な戦士を育ててきたのではないかと。

 

 てっきりこの人に鍛えてもらえるのではないかと、微かに期待を寄せた。

 まあ、知らないというなら仕方がない。


 「安心しなさい。聖鳳軍でもとびっきり教えるのに向いとる者が付くからのう。名をオーという。まあどんなやつかは会ってみるのが手っ取り早い。もう修練場についとるかもしれんから行ってみなさい。何をするかは、そいつが知っとる」


 「わかりました!!! ヴァナベールさん、今日はありがとうございました!!! 失礼します」


 「うむ。お前さんにはわしらも期待しておる。負けんように頑張ってのう」


 翔英は一礼すると、老人一人には広い部屋を後にした。


 さて、約束の時間までは三十分。

 別に寄るところもないので、まっすぐ修練場へと向かうことにする。


 修練場へと向かう道中、彼は過去へと思いを馳せる。

 

 この場所での時間は決して長くはなかったものの、忘れることのない記憶がある。

 

 ひたすら攻撃を、防御をし続けたガロトとの修業の日々。

 その隣で心と体を励ましてくれたミネカの姿。

 

 『この場所でもう一度』というガロトとの約束は果たせていないが、続きを始めることはできた。


 修練場の前に到着する翔英。

 扉を開くと、部屋の真ん中に一人の男が立っているのが見えた。


 翔英に気づいたその男は、すぐさま声を掛けに来る。


 「ん? ああ、君がショウエイ・キスギ君?」


 剣を腰に差し、髭を蓄えた中年男性。

 時代劇に登場する侍のような印象を受けるこの男が今日からお世話になる人物のようだ。


 「はい、そうです! お願いします!!」


 「うん。よろしく。僕はオー・ラッセ。ヴァナ爺さんから既に話は聞いてると思うけど、君たちを鍛えることになってる。いつまでやるかはまだ決めてないけど、とりあえずは、君たちが満足できるまでは付き合うよ」


 彼は聖鳳軍の中で、ヴァナベールに次ぐベテランである。

 長年戦いを生き延びてきたこの男の強さは、軍の中でも折り紙つきだ。

 

 翔英も初対面の印象だけで、確かにこの人なら自分を強くしてくれそうだと直感した。


 「ありがとうございます。よろしくお願いします。……ん? 君たちっていうのは?」


 「あれ? そっちは聞いてなかったの? 君の他に二人、合同でやるんだよ。もうそろそろ来るんじゃない?」


 「え!? そうなんですか? 知らなかったです」


 合同訓練。

 一人でやるよりは、競う相手が、支え合う人がいた方が合理的だと判断された結果だった。

 

 腕時計を確認するオー。

 約束の十時までは残り五分ほどだ。


 「オーさん、誰が来るかって知ってます?」

  

 「もちろん知ってるよ。一人はソルちゃん。まだ小さい女の子だね。だけどすごいよ、あの子は。ついこの間、『二軍』に昇格してね。もう一人の方は――――」


 ――――扉が開いた。

 そして、薄茶色のロングツインテールの少女が修練場へと入って来る。

 

 うわさをすればなんとやら。オーが丁度話していた人物のようだ。


 「………ん? ……あれ!!?」


 「はい……? あっ!!!」


 「あれ? 知り合いだったのかい?」


 翔英とその少女は顔を合わせると、溢れ出る驚きを分け合った。

 つい先程、隣の建物で見た顔だ。 


 『あの時の!!!』


 再会は思いのほかずっと早く訪れた。

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