第三十七話 『広場での邂逅』
「……ルナ……レジェン……さん?」
「そう。ルナレジェン。ボクの名前聞いたのは初めてだったようだね」
町の広場のど真ん中で、謎の女性に声を掛けられた翔英。
彼女はリュノンが落としてしまった、翔英の予定表を持っていた。
ルナレジェンと名乗った銀髪の女性は、手元の紙を翔英へと渡す。
「あ、ありがとうございますっ!!! 見つからなかったら本部まで行こうと思ってたんで……助かりました!!!」
「ええよええよ。助けになれたんならよかったわ。でも、これからは落とさんように気を付けんとな。一応、大事なもんだから」
「…………はい。やっぱそうですよね。気を付けます。……まあ、でも今回これ落としたのはリュノンなんですけどね」
つい口に出してしまった。
今回のケースは明らかにリュノンに非があるので、注意されるのは不本意だったようだ。
「あ、そうなん。あの子、ちょっと抜けてるとこあるからな。なるほど、それで一緒に探してたわけか」
「はい。まあ、どっかいっちゃったんですけど」
リュノンが走っていった方に目をやりながらつぶやく翔英。
ルナレジェンの方も、翔英の言い分にすぐに納得してくれた。
「それより、ショウエイ・キスギ。この間は大変やったね、ボクも応援に行けたらよかったんやけど」
「ああ……いえ、もう大丈夫です。……でも、その事を知ってるってことは、ルナ……レジェンさんは、聖鳳軍の方なんですか?」
「そうや。聖鳳軍一軍、ルナレジェン・ペサンテ。君のことは聞いとるよ。一度会ってみたいと思ってん」
試験を受けた際の話や先日の任務での出来事から、聖鳳軍内でショウエイ・キスギの名を知らない者はもうほとんどいなかった。
それはルナレジェンを含めた一軍も同じことだ。
ちなみに、ガロトが抜けた現在、一軍は計五人となっており、翔英はルナレジェンを含めた内三人とはすでに交流を深めている。
「え、一軍……! そうだったんですね。……それに、そう言ってくれるなんて……嬉しいです。……ところで、こんなところで何をされてたんですか?」
「そんなかしこまらなくたってええよ。別にボクは偉いわけじゃない。もっと気軽にしてや」
そう言いながら、翔英の肩をポンと叩くルナレジェン。
翔英はこれまで出会ったことのないタイプだと、内心驚いている。
「……で、なにしてたかって質問やったよね? 別になんも。ただ、暇やったから、散歩してただけ。ボク、暇なときはいつもその辺歩いてるん。散歩がボクの密かな楽しみなんや」
「あ、そうなんですね。……でも、なんとなく分かります。青空眺めてると…………軽くなることありますよね、悩みとか」
「ん。そんな感じやな」
落ち着いたクールな声色と言葉とのギャップが凄い。
そして、口調の違和感も凄い。
さらに、この人が散歩を趣味にできていることにも驚きだ。
ヒナノやミネカは通るたびに声を掛けられていたのに。
まあ、答えは単純。
活躍が表で目立つ人と主に裏方で支えている人の差だ。
ヒナノやミネカは圧倒的前者。
ルナレジェンは後者だ。
彼女は――――目立つことを好まない。
「あの、ルナレジェンさん」
「ルナでええって、いちいちそう呼ぶの疲れるやろ?」
「……ルナさん、ルナさんには関係ないかもしれませんが、リュノンと親しいと思ったので、一つ聞きます。さっきリュノンが突然走っていった理由って知ってますか? 新聞を見た途端にいきなり……」
「新聞? ああさっき、ボクも読んだよ。これやろ?」
ポケットから折りたたまれている新聞を取り出すルナレジェン。
だが、その新聞の大きさは明らかにポケットに入り切るものではなかった。
「そう……! それです!!」
「リュノンを動かしたのは、これやね」
表面の記事を見せてもらう翔英。
それを見た翔英の目には、でかでかと書かれた名前が飛び込んでくる。
「『グランデ盗賊団』……突然現れて町や村を襲い、金品や食料を奪い取る悪党や。さっきもまた、ここから西に少し走ったとこにあるキコーって村が襲われたらしい。それがこれの内容や」
翔英は思い出した。
先日新聞を読んだ時にも聞いた。
この名前を。
「……それで、その盗賊団とリュノンに何の関係があるんですか……?」
「いや、詳しいことはしらん。あんまり自分の過去とか話すタイプやないしな。けど、リュノンはこいつらを追っているらしい」
リュノンが走り出した訳を知った翔英。
彼は、襲われたというそのキコ―という村に向かったのだ。
「……どんな奴らなんですか? そのグランデ盗賊団ってのは」
リュノンが見せたあの表情が忘れられない翔英は、ルナレジェンに尋ねる。
リュノンのために、自分にできることはないかと。
「ん。あいつらは、突然姿を現し、突然姿を消す。だから、奴らを捕まえるどころか、会うことすら難しい。何人で構成されているのも、誰も分からない。もちろんボクたちも奴らを捕えようとはしてるんやけどね。姿を見るところまではたまにできるんやが、必ず逃げられてしまう」
「突然姿を……? それって、魔法ってことですかね?」
「その可能性が高いと思うわ」
「なるほど……ありがとうございました。いろいろ教えて頂いて」
こんなところでずっと立ち話をしているわけにもいかないだろう。
翔英は話を切り上げようとする。
「それじゃあ俺は、明日からの準備があるので失礼します。ルナさん、またどっかでよろしくお願いします」
「おお。分かった。偶然やけど、会えてよかったわ。――――じゃあ、最後に一つ。ショウエイ、なにが起きても、諦めずに頑張りや。諦めなかった先に、平和は必ずあるもんやから」
「………はい……!! ……ルナさん、いいこといいますね……!!」
ルナレジェンはニコリと微笑むと、ポケットに手を入れながら散歩を再開した。
特に目的の無い、散歩の続きを。
「…………面白そうな子やな。…………あの人の言った通りや」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……さてと……」
翔英の方は、ルナレジェンから受け取った予定表を確認しながら歩き始める。
しかし、翔英はとんでもないことを思い出してしまった。
というか、遅すぎるだろう。
さっき新聞を見せてもらった時に、なぜ気づかなかった。
「…………読めねえ」
翔英は就寝前に少しずつ言語の勉強に取り組んでいる。
ただ、まだ始めてから一か月もたっていない。
ところどころ分かる単語はあれど、まだ文を読む力は備わっていなかった。
「(…………これは確か………九時だな。……てことは、さっきのリュノンの話と合わせると……九時からそのなんとかって爺さんと話があるのか……でも場所が読めないな……それに、明後日以降の予定も……分かんねえ…………しょうがない……)」
予定表にはちょうど一週間分の予定が書かれている。
とりあえず翔英は、予定表を解読してもらいにスエリア荘へと戻った。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よし…………」
自宅へと帰った翔英。
その前にクーレの元を尋ね、無事翻訳してもらっていた。
答えはこうだ。
明日は九時に本部に集合。
それ以降は、一日の休日を挟みながら、午後一時に修練場に集合とだけ書かれていた。
どうやら、詳しい話は明日されるようだ。
明日からに備え、今日はもう家で過ごすつもりの翔英。
気になることは多々あれど、ひとまず勉強に取り組み始める。
毎回誰かに翻訳してもらうのも悪い。
単語だけでも読めるようにと。
そうして、勉強や長めの息抜きを繰り返し、一日が終わった。
二日の休みを経て、ショウエイ・キスギ再始動。




