第三十四話 『食は生』
――――ミネカの案内の元、食事に向かうことにした翔英。
スエリア荘から二十分ほど歩いた頃、二人は目的地に到着したのだった。
「ここですわ!」と、嬉しそうに店を指差すミネカ。
「おっ! ここか……! えっと……なんて店だっけ?」
「『メイチン』ですわ」
メイチン。
それがこの店の名前である。
外観はオレンジ一色だ。
まだ店の中には入っていないが、ほんのりといい香りが鼻を触る。
「では、早速行きましょう!!」
足を踏み入れる二人。
店の中は一般的なファミレスくらいの広さで、数十の座席が入り口からでも見える。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
と、厨房から現れた従業員のお姉さんが二人に声を掛けた。
「二名ですわ」
「はいっ、二名ですね。ではこちらにどうぞ」
空いている座席へと案内される二人。
翔英は急に現世に戻ったような気分になっていた。
「こっちの世界にもこんなところがあったのか」
席に座ると、早速注文しようとメニューを見る翔英。
だが、全然知らない海外へ来たときみたいになっていた。
大体毎日勉強してはいるものの、まだ読めるレベルにはなっていない。
そう、なんて書いてあるか分からないのだ。
「どうですか? なにか食べたいものありました?」
テーブルを跨いだ向こうに座るミネカ。
メニュー表は一つしかないようで、翔英の手元を覗きながら訪ねる。
「えっと、そうだな……これ、がいいかな……?」
と、翔英は野菜炒めのような料理を指差し、ミネカに伝えた。
「ハーブライですわね。分かりましたわ」
と頷くミネカ。
翔英はミネカにメニュー表を渡すと、辺りを見始めた。
彼は料理に期待を寄せる。
周りの席は人で賑わっている。
料理の見た目も現世のものに近い。
どうやらここは、肉料理メインの店のようだ。
メニュー表は肉料理で埋め尽くされ、表紙には翔英は頼んだハンバーグのような食べ物の絵がでかでかと飾られている。
「すいませんわ。ご注文よろしいでしょうか?」
と、ミネカは席の前を通り過ぎようとした店員を呼び止める。
「どうぞ!」
と、スタッフは笑顔で返した。
「えっと、ハーブライを一つと、このプレを一つ……それから、これとこれと、これ、あと、これをお願いしますわ!!」
注文を受けた店員は確認を済ませると、持ち場へと戻っていった。
しかし翔英はそんなとこは見ていない。
「(めっちゃ頼むじゃん)」
と、心の中でポツリ。
「これが普通なんだろうか」とか考える翔英。
だが、目の前の少女を見る度に驚きが増してくる。
こんな可憐な子にそんな大食いチャレンジみたいな量が入るとは思えない。
「……えっと……結構頼むんだね。ミネカ」
「せっかく来たのですから、たくさん食べないと損ですわ。ショウエイさんの方こそ、あれだけでよろしかったのですか?」
「ああ。俺はあんまり食べるほうじゃないからね。まあ、足りなかったらまた頼めばいいし」
翔英は少食だ。
ただ、食べるのは早い。
腹が減るのも早い。
結構不便な体内をしている。
「――――お待たせしましたー」
「早!!!」
料理、登場。
調理の過程で魔法を活用できるこの世界では、人間の技術が大きく発達している。
そのため、物ができるスピードは半端ないのだ。
前々から魔法は進化し続け、人々の生活に潤いを与えてくれるものだったが、ここ数年ではさらに発展が進んでいる。
ヒナノ・スエリア。
近代稀に見る魔法の天才の存在によるものだ。
ヒナノが町の人々から好かれ、慕われている訳も、彼女の人柄と同時に常人ではなしえない実績が大きかった。
注文した計六つの料理がテーブルに並べられる。
うち五つはミネカの元に置かれた。
鶏肉料理一つ、ひき肉料理一つ、謎の料理一つ、サラダ一つ、そして、デザート一つである。
翔英の元には、例の野菜炒めのような料理が運ばれている。
「では、いただきますですわ」
「う、うん。いただきます」
ナイフとフォークを手に、料理を口に入れる翔英。
「あっ、美味しい」
と、シンプルな感想。
懐かしい味だ。
かつて、家族や友人と一緒に食べていた気がする。
欲を言えば米とセットで食べたかったが。
「お口に合ったようでよかったですわ。よろしければ、こちらをかけてから召し上がるのもおすすめです。この店秘伝の粉ですわ」
元々テーブルに置かれていたそれを翔英に渡した。
小さな袋の中に白い粉が入っている。
「……ミネカ。これ大丈夫なやつ? 見た目めちゃくちゃ怪しいんだけど……」
「え? ふふ。全く問題ありませんよ。この粉は、食用として使われている種を利用して作られたものだそうです。料理の旨味をさらに引き出してくれますわ」
と、言いながら、彼女は既に自身の肉料理にも粉を掛けている。
「ああそうなの……じゃあ、俺も一つ使ってみようかな」
ミネカがかけて食べているのを見た翔英は、せっかくだからと料理にかけた。
匂いはしない。
調味料のような役割を果たしているようだ。
振りかけた粉を観察しながら、野菜炒めもどきを口に運ぶ。
「……!!! 確かにさっきより旨い……!! いや、さっきとは違う旨さって感じか……!! ……なんでだ……!?」
想像以上の味の変貌に驚く翔英。
まるで別の料理のようだ。
当然、この粉の秘密が気になり始めてしまう。
「不思議ですよね……!! 私も気になって、一度こちらで働いている方にお聞きしたことがあったのですが、教えられないと断られてしまいました」
「はははっ、そうなんだ。……そりゃそうか。この店でしか出てないんだもんな。企業秘密か」
「お家で食べられたらうれしいのですがね。でも、かけすぎはよくないらしいですわ。二つまでが限度だそうです」
「えっ! ……なるほど。まあ、何事も取りすぎはよくないっていうからな」
ミネカと話しながらの食事。
料理の旨さに関係しているかもしれない。
「――――ごちそうさまでした!! いやー美味しかった!! ありがとうミネカ!! ここ連れてきてくれて!!」
「よかったですわ!! それより、ショウエイさんはまだ何か頼まないのですか? 私、もう少しかかってしまいますが」
二つ目の料理を完食し、サラダを食べ始めるミネカ。
食べるスピードは普通くらいだ。
「いや、それは全然いくらでも大丈夫よ!! まだ頼むかは迷いどころだけど…………じゃあ、飲み物だけ頼もうかな。料理はいいや、さっきので意外と腹いっぱいになったし」
腹の具合と相談した結果、飲み物を頼むことにする翔英。
再び店員を呼ぶと、果汁たっぷりのフルーツジュースを注文した。
やはりすぐに届き、黄金色に輝く水ものを味わった。
――――それにしても、いい食べっぷりだ。
こういっちゃなんだが、見かけによらない。
でも。
翔英はジュースを飲みながら、目の前で料理を頬張るミネカに視線をやる。
その様子は、見ているだけでこちらも笑顔になるようなものだった。
ミネカは何をするときよりも幸せそうな表情を浮かべながら食べているのだ。
その明るい空気は伝播し、翔英も思わず口元を緩める。
「……? どうかされました? ショウエイさん」
「あっ、いや、いいと思ってさ。ミネカのそういうところ。美味しそうによく食べる人っていいよね」
「まあ、ありがとうございます。昔から食べることが大好きでしたの。ですから、私はこの国の皆さまの生活、食事という当たり前の幸せを守りたいと思っています」
「そっか。ミネカならきっとできるよ」
二人の時間は続く。
食事を共にしたことで、翔英はまた一つ彼女について知ることができたようだ。




