第三十二話 『任務終了』
「――――よし、行こう……!!」
ロッツに到着した一行。
町の外に馬車を止めると、急ぎ足で山へと向かって行く。
目的は一つ。ガロトを助けること。
「私が先頭で行く。さっきも言ったように、リュノン君はラスドラーゴの邪気が感じられるところまで、道案内を頼む。翔英君とミネカ君は私の後をついてきてくれ」
「了解……!!!」
一行は町を抜け、ロッツ山へと入っていった。
リュノンの案内で、ガロトとラスドラーゴの戦闘が行われている場所に歩を進める。
ところが、
「…………おかしい。……強大な魔物がいたというのに……邪気が一向に感じられない………」
「…………本当ですね…………こいつは、どうなってるんでしょう……?」
目的地はすぐそこまで迫っていたにもかかわらず、邪気を感じ取ることができない。
翔英ならまだしも、ミネカとリュノン、マーノまでもが全くだ。
「…………もしかしたら、既にラスドラーゴはこの地にいないのかもしれない。……このロッツ山から立ち去ったか…………あるいは……死亡したか……」
「え……!? それって………………あっ! ここです!! 間違いありません!!! この場所でさっき………………あれ……?」
リュノンは先程訪れた魔物の拠点である洞窟を確認すると、すぐさまマーノに報告する。
だが、
そこには人一人、魔物一人いなかった。
「……いない…………ガロトさんも…………なぜ…………!?」
「…………ここで、間違いないんだね? リュノン君」
「は、はい……! ここです……!! 絶対に……!!」
「……そうか…………確かに、戦闘の痕跡が残っているね……」
周りを見回すと、マーノは探偵のごとく辺りを調べ始めた。
――――誰もいない。
この結果は、どう捉えるべきなのか。
「これ!! どうなってるんだよ!! リュノン!!!」
距離をおいて後をついてきていた、翔英とミネカも合流する。
戦う気で来たが、敵の姿すらないのは驚きだ。
「……俺に分かるわけないだろ……!! ……くそっ!! ……どこいっちまったんだ……!! ガロトさんは……!!」
動揺を隠せないリュノン。
それは翔英も同じだ。
三人の中で、もっとも任務をこなしているミネカは、冷静に状況を整理しようとする。
「…………ラスドラーゴももうこの近くにはいないようですわね…………それに、あのレウラという魔物の姿もない…………となると、戦いは何らかの形で決着がついていたということ……」
ミネカの言葉を聞いた翔英は、一つの可能性を思いつく。
『信じたい』可能性を。
「…………てことは、ガロトさんはあいつに勝って、今は別の場所で休んでるんじゃないか……? ……だったら、ラスドラーゴがこの場所にいないことにも納得がいく……」
「…………でも、どこに行ったんだ………? ……ガロトさん…………町にも居ないようだったし…………」
「…………それは…………分からない。……けど、今はガロトさんの捜索をするべきだと――――」
「おーい!! 君たち!! こっちに来てくれ!!!」
話し合う三人を、奥の方から戻ってきたマーノが呼びかけた。
何かを発見した様子のマーノ。
彼が連れて行った先は、さらに激しい戦いがあったことが見て取れる場所だった。
あちこちの岩や壁は砕け、地面には軽いヒビが入っているところもある。
翔英は、あの巨大な怪物の攻撃した跡なのだろうと思った。
「この場所もそうだが…………特に、見てもらいたいのはこれだ」
マーノはそこでしゃがむと、地面を指さして注目させた。
――――そこには、大量の血痕があった。
「色は赤い。人間の血だ。……おそらく、ガロト君のものだろう。それに、まだ乾ききっていない。……少し前まで、重症を負ったガロト君がここに倒れていたのだと思う」
「え!!? じゃあガロトさんは、いったいどこに……!?」
「…………すまない。そこまでは分からない。…………が、この血の量だ。ガロト君は今、非常に危険な状態だと言っていいだろう」
長年の任務と経験で培ってきた洞察力で状況を正確に分析すると、彼らに目を向け、気持ちを案じながら告げるマーノ。
翔英は拳を握り締め、仲間たちに意見する。
彼はまだ、ガロトとの再会を諦めていないのだ。
「……じゃあ……!! 今すぐ、ガロトさんを探しましょう!!! ……もしかしたら、まだ近くにいるかもしれない………!!! 四人で探せば、きっと…………!!」
「うん。そうしたほうがよさそうだね。…………ガロト君は動けるような状態ではない可能性が高い。彼が自ら動いたのだとしたら、まだ近くにいるかもしれない…………」
翔英、リュノン、ミネカ、そして、マーノの四人は、消えてしまったガロトの捜索に向かったのだった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――彼らは、日を跨ぐまで捜索を続けた。
捜索に参加したのは彼らだけではない。
事の顛末を耳にした聖鳳軍本部は、あっという間にその話題で持ちきりとなった。
聖鳳軍の重要人物である、一軍の一人が行方不明。
魔王とも思われる魔物の長に遭遇し、さらに戦闘を行っていたという事の重大さを踏まえても、当然のことだった。
そして、情報を耳にした者たちには、ガロトの捜索に名乗り出る者も多かった。
その中には、聖鳳軍一軍の一人、ティローナ・カルダートといった軍の重要人物の姿もあった。
皆、動機は同じだった。
ガロト・クラーニクの危機という情報は、彼らを動かすのに十分だった。
彼らは国中を探した。
各地で情報を聞き回った。
あらゆる手を尽くして、捜索に励んだ。
しかし――――ガロト・クラーニクが見つかることはなかった。
その後、翔英もスエリア荘に帰宅したのだった。
翔英は捜査の続行を懇願したが、同行していたマーノに制止されたことで、やむなく帰路についた。
マーノが捜索を止めた理由は二つ。
一つは、翔英の身体を心配してのことだった。
彼は今日一日中戦いに追われていた。
ステップラー、レウラとの連戦。
命に係わるケガも負った。
ミネカに回復させてもらったとはいえ、激しい負傷もあったのだ。
肉体は全快にはほど遠いだろう。
それに、色々なことが起こりすぎた。
精神的な疲れは、尋常ではないだろう。
マーノは、翔英を休ませることにしたのだ。
もう一つの理由は、これ以上のガロトの捜索は無意味だと判断したからだ。彼らを含めた捜索隊は、考えられる全ての場所と人を辿った。
だが、成果はなし。もう当てがないのだ。
本部の方も同様の判断を下した。
大量の血痕、対峙した魔物の強大さを受けた本部は、消し炭にされたか、あるいは人の入れない場所に捨てられたとし、ガロト・クラーニクはすでに死亡していると結論付けた。
翔英はそのことをまだ知らないが、薄々感づいていただろう。
こうして、マーノに説得された翔英を含む一行は解散したのだった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「………………………………」
翔英は自分の部屋へと入っていった。
一日も立っていないはずだが、この場所に戻るのが久方ぶりだと感じた。
「………………くそっ……………疲れた……………」
翔英は部屋に入ってすぐに横になると、そのまま瞳を閉じた。
体を吹き飛ばすほどの疲れがドっと翔英を襲ったが、中々寝付くことはできなかった。
嫌になるほど考え事をした後、彼はいつの間にか眠りについていた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
決して成功とはいえないだろう。
だが、無意味だったわけではない。
彼は戦った。
自分より遥かに強い敵と。
折れかけた自らの心と。
迎えようとする限界と。
様々な経験と試練を与えるだろう、来生翔英の挑戦。
その大きな一歩となる初任務は終わりを迎えた。




