第三十一話 『戦いの行く末』
「――――ガロトさん……大丈夫でしょうか……」
一方、翔英、リュノン、ミネカは町から本部に向かって馬車を走らせていた。
リュノンの分身が馬車を動かしており、リュノン本体と翔英、ミネカは車体に座り込んでいる。
心配を抑えられないミネカ。
他の二人もその気持ちは同じだ。
「……うん、確かに心配だけど…………信じようぜ、ミネカ……!! きっと……大丈夫だよ……!!」
「……そうですわね…………」
気持ちを落ち着かせるミネカと翔英。
リュノンもだ。
ざわめく気持ちを何とか抑え込む。
レウラを撃退してやっと終わったと思ったのに、まさかこんなことになるなんて。
一刻も早く、協力者を連れて助けに戻りたいところだ。
さらに数分走った後、突然馬車が止まった。
「え!? どうしたんだリュノン!! 今は止まってる暇なんて……!!」
「外を見てみろ、二人とも!!」
外を見ると、ある一人の男が馬車の行く先に立っていた。
その男のために、馬車は止まったようだ。
「あっ!! マーノさん!!!」
ミネカとリュノンはその男とは顔馴染みのようだ。
彼の姿を認識すると、すぐさま名前を呼んだ。
「こんにちは、ミネカくん、リュノンくん。それから、この間入隊した……翔英君……だったね。……今は、仕事帰りかい?」
カバンを片手に持ち、茶髪をオールバックにした中年男性。
その穏やかで優し気な口調と声色からは、知的さと品格が感じられる。
全身が白い衣服で構成されており、その姿はまさに研究員といった感じだ。
マーノ・ジャッロ。
この男こそが、聖鳳軍一軍の一人に名を連ねているのと同時に、研究部門の代表を務めている人物である。
どうやら彼は、どこかに向かう道中だったようだ。
「マーノさん!! とりあえずロッツ山に向かってくれませんか!!? 今、ガロトさんが危ないんです!!」
「なんだと!? ……分かった。すぐに向かおう。詳しい話は中で聞かせてくれ……!」
運よくマーノと合流することができた一行。
彼らはマーノを馬車に乗せると、急いで来た道を引き返していった。
ガロトには本部に戻れと言われたが、そんな長い時間が過ぎてしまっては手遅れかもしれない。
ミネカとリュノンは、このマーノという男に賭け、ガロトの命を助けようとしていた。
「――――なるほど…………そんなことになっていたのか………君たちが無事だったことはよかったが…………巨大な魔物、ラスドラーゴか……」
「はい……そうなんです。明らかに他の魔物とは違う魔物で、今の魔物を率いているとも言っていました」
「うむ…………………それなら尚更ガロト君が心配だ………急ごう」
沈黙。
それぞれが深刻な表情で座り込んでいる。
そんな中、口を開いたのはマーノと初対面の翔英だった。
「あの……マーノさんは、あそこで何をしていたんですか? ……すいません……結果的には助かったのでよかったんですけど、ちょっと気になってしまって……」
「ん? ああ。この先の町に少し用があってね。研究に必要な物資を取りに行く予定だったんだ。だが、そんなことをしている場合ではない状況になった。それは後日でも全然問題ない。今は、ロッツ山に向かうのが最優先だよ」
翔英のちょっとした質問に回答するマーノ。
翔英がこんな質問をしたのは、無言の空間を変えたかったという理由もあるが、まだ翔英は、この男について『知らない』ということもあった。
「――――それより翔英君。君のことはガロト君から聞いていたよ。ガロト君は君のことをよく褒めていてね。……あの日は、試験の日だったね。試験の後、ガロト君と少し話をしたのだけど、『面白いやつがいた』と言っていたよ。……彼が合格を出すことすらめったにないからね、それを聞いた時は驚いた」
「そうですか…………ガロトさん……俺のことそんな風に……」
このタイミングでの自身に関するガロトのエピソードは胸が痛い。
そんな風に言ってくれる人は失いたくない。
翔英のガロトへの想いがまた強くなった。
「……だからね、君に会えるのを楽しみにしていたんだ。……こんな状況なのは残念だがね……」
再び少しの沈黙。
今は話を弾ませられるような雰囲気ではない。
そんな中、マーノが三人に向けて話し始めた。
「……みんな、よく聞いてくれ。向こうについてからの指示を出しておく。……まず、考えられる状況は三つ。一つは、ガロト君とラスドラーゴが戦闘中であること。二つ目は既にガロト君が勝利、または撤退に成功している。……三つ目は…………ガロト君の敗北だ」
「……!! マーノさん……それは…………」
「ああ。考えたくはないけど、その可能性も視野に入れておかなければならない。ただ、今は一つ目の状況についての作戦を言い渡すよ」
マーノは三人を見渡すと、プランを伝え始めた。
ガロトがまだ『戦っている』場合のプランだ。
「――――まず、私がガロト君とラスドラーゴを引き離す。三人は私から少し離れながらついてきてくれ。ミネカ君は治療の準備を頼む。……状況において対応が変わるかもしれない。自分たちも出る準備を怠らないでくれ。……ただ、君たちには、『自分の命』を最優先にして行動してほしい。……君たちを命を懸けて守ったガロトの意思を無駄にしてはならないからね。それだけは分かってほしい」
「了解しましたわ。治療は私に任せて下さい……!!」
「必ず無事に帰りましょう……!!」
「……分かりました。……でも、俺にできることがあったら何でも言ってください……!!」
彼の言葉を聞いて気を許したのか、マーノを頼ることにした翔英。
ミネカ、リュノン、翔英。
それぞれが己の意思で覚悟を決めた。
――――翔英は忘れていなかった。
ガロトとの別れ際、彼と交わした約束を。
「(……大丈夫だ、きっと…………だって、約束したじゃないか……!! 『また会おう』って……!!!)」
マーノを新たに加えた一行は、任務を果たすべく再び戦場に舞い戻ろうとしていた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――ロッツ山――――
少年の姿をした魔物がその場に立ち尽くしていた。
身体はボロボロ。
息も上がっており、過酷な運動を長時間行った直後という感じだ。
彼はその小さい背丈で足元を見下ろしながら、静かに、だが重く呟いた。
「…………まさか、ここまでの人間がまだ存在していたとはな…………先ほどの『私の相手はもういない』という言葉……取り消そう。……我々は聖鳳軍についての認識を変える必要があるらしい……お前のような男がいるのだからな……」
「……………………………………」
「……そして……私が持てる最高の『敬意』を表しよう、……お前の『強さ』にな……」
「……………………………………」
「……お前のことは……今日の……この戦いは……生涯……忘れることはないだろう…………ガロト……クラーニク…………」
そう言うと、少年はその場に倒れ込んだ。
その隣には、同じく倒れている男の姿があった。
その男の肉体は血まみれで、身体はピクリとも動かない。
だがこの男は、まるで自らの仕事をやり切ったような、安らかな表情で瞳を閉じていた。




