第三十話 『ガロト・クラーニク』
「――――私は、何のために戦っているのだろう――――」
彼はずっと探していた。
己の戦う理由を。
彼は二十四年もの間、国のために前線で戦い続けてきた。
時には強大な魔物と。時には邪な人間と。
仲間も失ってきた。何より一番親しかった男も突然目の前からいなくなってしまった。
彼は生きる目的として、この男との再会を望んでいた。
しかし、それは叶いそうにない。
ならば、戦う理由とは何だろう。
自身が他人よりも強いからか。持っている力を平和のために使いたいからか。
何かを守りたかったからか。
彼は今、その答えに辿り着いた。
彼の戦う理由。
それは、仲間の『未来』を守ることだと。
死しても尚、己の理由のために戦う。
それこそが、ガロト・クラーニクの答えだと。
「(……ショウエイ、ミネカ、リュノン……ショーさん……みんな……この時のために、私は今まで戦ってきたのだと思ったよ……彼らの今を守ることは、とりあえず出来たかな………後は、ここから、どこまでやれるかだ……)」
エネルギーを全身に集中させるガロト。
マフラーのコントロール、あるいは絶対防御として機能させるために使用していたエネルギーは、およそ半分に及ぶ。
つまり、彼の今の防御を除いた全ての能力は、マフラーを着用していたころの倍の力となっている。
しかし、スピードだけは倍に留まらない。
マフラーを外した場合の彼のスピードは数倍にもなる。
これは、エネルギーが戻るだけでなく、マフラーを動かすのに使っていた分の力がなくなり、自分の肉体だけに意識を集中させることができるためだ。
ガロトに攻撃を仕掛けるラスドラーゴ。
ガロトはその攻撃を回避するだけでなく、カウンターを食らわせることに成功する。
今の状態では、スピードはガロトの方に軍配が上がるようだ。
その後も、敵に捕まることなく、華麗に戦場を舞うガロト。
思わぬ苦戦にラスドラーゴは驚きを見せる。
ガロトは魔王が来ても戦えるように、日々鍛錬を欠かさなかったのだ。
「……ほう。ここまでとはな。褒めてやる。その褒美と言っては何だが、特別に面白いものを見せてやろう」
ラスドラーゴは攻撃をピタリと止め、胸に手を当てながら立ち止まった。
その瞬間、ラスドラーゴの周囲に異様な空気が飛び始める。
その空気は色を持ち、ラスドラーゴの姿が見えなくなってしまった。
「はあああああああ……!!!!」
と、怪物の発する声が山に響き渡る。
時間が立つにつれ、なんとその低く重い声色の叫びは、中性的なものへと変声していった。
目の前の光景に恐怖を覚えるガロト。
そんな中、ラスドラーゴを覆っている空気が晴れ始め、姿が見え始めた。
「お待たせした」
「!!!」
ガロトは絶句した。
ラスドラーゴがまるで『幼い人間の少年』のような姿に変貌していたのだ。
「この姿を誰かに見せるのは久しぶりだ。……めったに見られるものではないぞ」
口調はそのまま。
しかし、先ほどまでとは全く違う姿と声。
巨大な化物から小柄な少年となったあまりの衝撃に啞然としているガロト。
「これが私本来の姿だ。あの姿は……そうだな、カモフラージュといったところか」
「カ、カモフラージュだと……」
「そう。まあ、この姿では威厳が足りないということもあるが、なにより、力がコントロールできないのだ。だから、普段はあの姿となることで、本来の力を制御している」
ガロトは戦いの構えを取った。
これが真の姿。
普通に考えればそうは思えないが、彼の長年の戦いで培った感覚が目の前の少年を本能的に恐れた。
「……では、第二ラウンドと行くか」
突撃する真・ラスドラーゴ。
応戦するガロトだが、いつの間にか背後を取られていた。
「お前はスピードが自慢だったな。残念、それは『私も』だ」
目にも止まらぬ連撃を胸に叩き込まれるガロト。
ガロトは態勢を立て直し、次の攻撃に備える。
しかし、ラスドラーゴは既にガロトの背後に立っていた。
振り返る間もなく、背中に蹴りを入れられる。
吹き飛んだガロトは岩場に叩きつけられてしまう。
――――速すぎる。
こんなに速い生物には、遭遇したことがない。
それもそのはず、ラスドラーゴは全ての魔物の中でも『最速』だった。
反撃の糸口を探すガロト。
しかし、ラスドラーゴは待ってはくれない。
「何を呆けている。私の攻撃はまだまだ終わってないぞ」
やはり一瞬でガロトの懐に侵入するラスドラーゴ。
さらに、怒涛の連打を食らわせる。
肉を切らせて骨を断つ。
ガロトは敵の攻撃を受けながら、すぐにラスドラーゴに攻撃。
ラスドラーゴの額をかすめることに成功した。
「ほお……あえて私に打たせてから、攻撃を合わせたのか。だが、あまり賢い作戦ではないな。この程度の反撃をするのに、受けるダメージがあまりにも大きすぎる」
ラスドラーゴの言う通り、ガロトは無視できないダメージを受けてしまった。
しかし、ラスドラーゴに攻撃を当てるにはこれしか思いつかなかったのだ。
敵が攻撃している間にしか、奴を捉えることができない。
ガロトともあろうものが、こんな捨て身の策しか取れなかった。
「……ま、まだだ……!! 来い、ラスドラーゴ……!!!」
再び立ち上がるガロト。
ラスドラーゴもすぐにガロトに襲い掛かる。
「はあっ!!」
と、今度は、顔を直接、思い切り殴ることに成功した。
しかし、絶え間ない攻撃を受け続けたことで、膝から崩れ落ちてしまう。
「……貴様、その状態でさらに深い攻撃を返すとはな……だが、無駄な抵抗をしないで、さっさと諦めてくたばってしまった方がいい」
「……『諦める』……か……それはごめんだな。……二人の男が私に教えてくれたのだ…………『諦めるのは怖いと』……!! ……私もそうだ……!! ………諦めるという選択肢は私にはない……!!!!」
「…………そうか。ならばしょうがない。貴様の意思を尊重しよう」
瞬く間に攻撃を入れるラスドラーゴ。
先ほどの攻防と同様、打たせてからお返しするガロト。
その威力と正確さは、数を重なる度に強く、鋭くなっていた。
だがしかし、当然ガロトの肉体も限界に近づいていく。
「……まだそんな攻撃をする力が残っているとはな。……それもいつまでもつか」
「…………まだまだだよ……!! ……まだ、帰るには早すぎるさ……!!」
ただ、彼は戦うことを辞めようとはしなかった。
言葉を言い聞かせて、何度でも立ち上がる。
抗い続けた先に、必ず光があると信じて。




