第二十七話 『時間の支配者』
上位クラスの魔物となると、複数の魔能を有することも珍しくない。
そんなレウラは二つの魔能を持っている。
まず一つ目に、腕を伸ばす能力である。
レウラ自身は腕が伸びている自分の姿が気に入らないため、進んで使うことはしないが、伸ばすことのできる距離に限界は無く、無限に伸ばし続けることが出来る。
また、伸ばす速度にそこまでのスピードは出せないが、元に戻す際は一瞬で縮む。
この能力は、もう一つの魔能と組み合わせることで、さらに力を発揮する。
二つ目の能力に、異なる力をそれぞれ持った二つの手がある。
右手は、触れた物の『役割』を奪う。
例えば、動物であれば『動く』こと、剣であれば『切る』ことなどだ。
対象物の『時間』を奪うと言ってもいいだろう。
ただし、能力の効果は一度に一つまでが限界である。
また、対象を止めている状態の右手で別のモノに触れると、その効果が強制的に移動してしまうという欠点もある。
そして、左手。
その効果をリュノンが度々味わってしまっていたが、左手で触れたものを一瞬で移動させる能力を持つ。
ほとんどの人間は、この移動速度による負荷に体が耐えることが出来ず、ダメージを負ってしまう。
移動距離はレウラが見える範囲までとなっている。
さらに、この能力の厄介さには、能力の有無の切り替えがある。
両手を叩くことによって切り替えることができる。
前述した右手の弱点を補い、レウラの戦法を強化させているのだ。
また、この力を自分に付与することはできない。
これらの魔能を操ることで、レウラは他の魔物から尊敬と畏怖を抱かれているのだった。
ガロトは、レウラの魔能の全貌をまだ知らない。
しかし、幾千の戦いを乗り越えてきたガロトは、それを差し置いても、自分に分があると踏んでいた。
それは、レウラも同じだが。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――そなたの実力は大体分かった。先ほどの動きといい、わらわを撃った炎の魔法といい、そなた……聖鳳軍の一軍じゃろ? つまり、そなたがわらわより下ならば、聖鳳軍を滅ぼすことは容易いことじゃということ。まあ、わらわの方が上じゃろうがな」
「……大した自信だね。だけど、私も君には負ける気がしないんだ」
「その言葉、後悔せんようにな」
二人は戦闘準備を整える。
この山に揃った両陣営のトップとして、どちらも負けるわけにはいかない。
「…………わらわは、早くこの小僧の処分を再開したいのじゃ。さっさと始めようぞ」
「ああ。じゃあ早く終わらせよう」
対峙する二人の決戦の火ぶたが切って落とされる。
スピードはガロトの方が上で、瞬く間にレウラの懐に入り込んだ。
そして、また腹に一撃、重い攻撃を食らわせた。
「ぎゃあっ!! …………お返しじゃ!!」
痛みに耐えるレウラは、何とか左手をガロトに掲げた。
倒れているリュノンの元まで一気に吹き飛ばされるガロト。
「……なるほど……これが奴の能力の一つか……」
「そうです……俺もあの力でこのザマです……あいつの左手は物を吹き飛ばし、右手は物を止める……正直言って、めちゃくちゃですよ……」
「……そうだな。だが、つけ入る隙がないというわけでもない」
ガロトは再び、レウラに向かって行く。
同時に、出入口の方から声が聞こえてきた。
「ガ、ガロトさーん! ……はあ……はあ……お待たせしましたわ!! あっリュノンさん!! 大丈夫ですか!? 少々お待ちください。今、治しますわ……!」
共に任務に同行していたミネカ・ベルギアが登場した。
ミネカは負傷しているリュノンを認識すると、すぐに治療を開始する。
これで洞窟内に調査メンバーが全員揃ったのだった。
「す、すまねえ……ミネカさん……ありがとう……」
「いえ、私が皆さまを治療するのは当然のことですわ。そのために、私がいるのですから。それより、ショウエイさんはどちらですか?」
リュノンは停止している翔英を指差し、
「あ、あそこだ……敵の能力で動けなくなっちまってる……!」
とミネカに伝えた。
翔英に目をやるミネカ。
その姿に彼女は強いショックを受ける。
「……!! そんな……ショウエイさん…………」
「……でも、大丈夫だ……! ガロトさんが来てくれた……!! ショウエイはまだ死んじゃいねえ……!! 必ず助かる……!!」
「……ええ……!!」
二人の期待を受けるガロト。
今は、望みをガロトに託すしかなかった。
「ふっふっふっ……! 何度来ても同じことじゃ……!! この力がある限り、そなたはわらわにまともな攻撃を当てられない……!!」
「……それはどうかな……」
猛スピードでレウラに接近するガロト。
レウラも三度目となると少しは慣れてきたようで、攻撃を入れられる前に、左手をガロトに押し当てた。
――――その瞬間、ガロトはマフラーを作動させた。
レウラの左手をマフラーでブロックする。
しかし、
「――――そんなもので、わらわの力が防げる訳がないじゃろう。わらわのこの力に対し、防御するという概念は存在しないのじゃ。触れたものは全てわらわの思い通り……!! ……『時間』すら、わらわの前では平等ではない……!!」
マフラーごと吹き飛ばされてしまうガロト。
さすがのガロトも二回も飛ばされては、ダメージを免れることは出来なかった。
「ガロトさん……! ……俺も手伝います……!! 二人で掛かれば、あいつを倒して、ショウエイを助けることだってできるはずです……!!」
ミネカの治療を受けたリュノン。
体力はすっかり戻り、再び戦う準備ができたようだ。
だが、そんなリュノンの提案をガロトは受け入れなかった。
「いや、大丈夫だ。リュノンは休んでいてくれ。奴は私一人で対処する」
「どうしてですか!?」
「……奴のあの力への対処法があるからだ。……次で、あの力を防いで見せる。そして、ショウエイを助ける」
対策を立てるガロト。
魔能を破って決着を着けるため、レウラに近づいていく。
「……対処法か……さすがはガロトさんだ……! …………見てるだけってのも悔しいけどな……」
「いえ、リュノンさんもショウエイさんも仕事はしっかりとこなしましたわ。あの魔物を相手に戦ったのですから。……リュノンさんの先ほどの負傷、そして、今のショウエイさんの姿を見ればよく伝わります。……今度は、私たちが仕事をする番ですわ。ガロトさんがあの魔物を倒し、私がショウエイさんを治します」
「ミネカさん…………ありがとう…………」
ミネカの言葉を受けるリュノン。
だがやはり、自らの力不足を強く実感していた。
敵を倒せるさらなる力をリュノンは望んだ。
「……懲りないのう……人間というのは、どこまでも悲しい生き物じゃ。まだ、わらわの力が理解できないとはのう」
「……もう受けない。反撃させてもらうよ」
対策を講じたガロトと能力に絶対の自信を持つレウラ。
右手の力を翔英に使用し続けているレウラは、左手の力でガロトを迎撃しようとする。
そして戦いの中――――ガロトが動いた。




