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第二十六話 『二つの怒り』

 リュノンの必死の叫びも虚しく、停止している翔英にさらに攻撃を加え始めるレウラ。

 前よりも力を込めて、翔英の体を叩く、叩く。

  

 「(ちくしょう……! 動けよ俺……!! これ以上――――『何も失いたくない』だろ……!!!)」

 

 その光景を目の当たりにしたリュノンは、かつて共に暮らしていた赤髪の少女のことを思い浮かべながら、肉体を奮い立たせて立ち上がった。

  

 「――――やめろって言ってんだろうが……!!!」


 立ち上がったリュノンは仲間を助けるために、再びレウラに向かって行く。

 落ちていた短剣を拾い、さらに分身を二体出した。

 

 もう、リュノンの体はそろそろ限界だ。

 だったら賭けに出るしかない。

 『特攻』だ。


 今、翔英を助けるにはそれしかない。

 

 リュノンに目を向けたレウラは、翔英への攻撃を中止し、彼を迎え撃つ。


 「……しつこいのう。貴様は後じゃと言うておるのに」

 と、レウラは能力を解除する。


 三度目の蓄積された痛みに襲われる翔英。

 既に体はボロボロだ。

 翔英はその場に倒れてしまった。


 「……!! ショウエイ!!! 待ってろ……!!」


 敵意を向けて走ってくるリュノンを他所に、レウラは翔英の頭を掴み、彼の目を確認する。

 翔英の心を折ることが今の彼女の望みだ。


 「――――どうじゃ? そろそろ死が近いじゃろう? その前に、今の気持ちを聞かせてくれ。わらわの痛みが理解できたなら、分かったのなら、このまま息の根を止め、楽にしてやろうぞ」 


 翔英は血と涙を浮かべながら、目の前の魔物に呟いた。

 ここで頷いたら、心までこいつに負けてしまうと。

 精一杯の『戦意』とともに。


 「…………ごめん……ぜんぜん……わかんないわ…………」

 

 「…………教えがいがあるのう」


 またしても翔英の機能を停止させようと右手を伸ばすレウラ。

 その前に、駆け付けた三人のリュノンが立ちはだかった。

 短剣をブーメランのように投げ、レウラの手首に傷を与える。


 「……これ以上は……やらせるか……!!」


 本体は翔英を守るように彼の側に立ち、もう二体でレウラに攻撃を仕掛けた。

 二体でレウラに突撃し、その隙に翔英を運び出そうとするリュノン。


 「大丈夫か……ショウエイ……」


 「うん……大丈夫……じゃないかも……」


 「待ってろ!! 今少しでも……!! ……ぐあっ!!!」


 二体の分身と共に、リュノンはあえなくレウラの左手に吹き飛ばされた。

 

 ――――悔しい。

 やっと動く翔英と話せたのに、また逆戻りだ。

 

 「(くそ……!! すまない……ショウエイ…………だが、もう一度だ……! ……この命尽きるまで、何度だって……!!)」


 体を引きずりながら、ほふく前進で翔英を助けようとするリュノン。

 しかし、その状態で間に合うはずもなく、レウラは再び翔英を停止させていた。


 「再開と行こう」


 必死に進むリュノンの前で、しゃがみ込んだまま停止している翔英の腹部を殴打するレウラ。


 しかし、


 「ぎゃああ!! ……な、なんじゃ一体!?」


 攻撃したレウラの拳の方に、傷が入り血が流れていた。

 その能力も相まって、痛みへの耐性があまりないレウラはすぐに叫んでしまう癖があるが、これはしょうがない傷だ。

 

 「なぜわらわが……! こいつ……! 何を……!!」


 レウラは攻撃を入れた翔英の腹部を確認すると、その結果に驚きと苛立ちを覚える。


 「き、貴様……!! どこまで……!! どこまでわらわを傷つければ気が済むのじゃ!!!」


 翔英は、拾ったリュノンの短剣を隠して握ったまま停止していた。

 しゃがんでいたため、気づくことが出来ずに思いっきり殴ったようだ。

 自身の能力が仇となり、『固定された刃物』を殴ったこともあり、レウラがダメージを受けたのは当然のことだった。


 しかし、なにも状況は好転してはいない。

 レウラの怒りにますます油を注いでしまっただけだった。


 「貴様……!! ……本当に許せん!! もう貴様が泣いて詫びたとしても、わらわの痛みが理解できたしても……! 死ぬまで続けてやるわ!!!!」


 短剣を取り除き、攻撃を再開しようとするレウラ。

 その姿を這いつくばりながら見ることしかできないリュノンは、ただ唇を噛みしめていた。


 攻撃に移るレウラを見て、

 リュノンは叫んだ――――あの時の翔英のように。

 

 「やめろおおおおお!!!」

 

 「――――ぎゃっ!!!」


 リュノンの叫びが届いたのか。

 どこからか放たれた炎の玉がレウラの顔面に直撃し、翔英を救った。


 リュノンは出入口に目をやった。

 何者かが炎の玉を飛ばした訳だが、リュノンはその正体がすぐに分かり、胸を撫でおろしたのだった。


 「…………まったく、遅すぎますよ……!」


 洞窟に入って来た男は、長身長髪、そして『マフラー』が特徴的だ。

 その男は、リュノンとも長い付き合いであり、翔英とも親交が深い男だった。

 ――――名は、


 「ガロトさん!!!」


 「すまない、リュノン。発見が遅れてしまってね。今、ミネカもこちらに向かっている。もう少しだけ、頑張ってくれ」


 聖鳳軍一軍、ガロト・クラーニクが姿を現した。


 「き、貴様か……! ……わらわに火をぶつけた無礼者は!! ……そうか……ハサミとグーリュを倒したのも貴様じゃな……!!」


 「ああ」


 魔物に目をやったガロトは翔英の異変に気付く。

 うずくまったまま全く動いていない翔英に。


 「リュノン!! ショウエイはどうしたんだ!?」


 人間が完全に停止しているのを見るのは初めてだ。

 何より翔英の状態が分からない。


 ガロトが珍しく声を荒げたのも仕方なかった。

 

 リュノンに質問したガロトだったが、先に口を開いたのはレウラだった。


 「ふふふ……! こやつはわらわの魔能で動けなくなっているのじゃ。じゃがまだ死んではおらん。これから殺すところじゃ」


 彼女が言った『死んではいない』という言葉に少し胸をなでおろすガロト。

 ならばまだ『助けられる』。


 「ガロトさん!! そいつの両手に気をつけてください!! 右手に触れられると翔英のように、停止してしまいます!! それに、左手にも妙な力が……!!」


 リュノンは必死に叫んだ。

 ガロトでも、あの能力相手はきついかもしれない。

 彼が負けるようなことがあれば、その時は終わりだ。


 しかし、ガロトの面持ちは、そんなリュノンの不安を消し飛ばす。


 ガロトはリュノンに力強く頷いて見せた。


 現れた男の自信に苛立つレウラは、翔英を指差し煽りだす。


 「――――この小僧はもう助からんぞ!! 絶対な!! 何より、わらわを怒らせたのじゃ。絶対に殺……ぎゃあああ!!」


 だが、レウラが理解できないほどのスピードで迫ったガロトは、彼女の腹に強烈な一撃を食らわせる。

 そして、静かな怒りを滲ませながら、レウラに宣告したのだった。


 「『怒らせた』か……ショウエイが君に何をしたのかは知らんが、私も君に腹を立てている。ショウエイは絶対に殺させん……!!」


 「く……! どいつもこいつも、わらわを侮辱しおって……!! ……わらわが決めた以上、この小僧の死は絶対じゃ!! ……そして今、貴様を殺すのも決めたぞ!! 三人纏めて消してくれるわ!!!」


 対峙するガロトとレウラ。

 静の怒りと動の怒り。

 対照的な怒りを燃やす二人の戦いが始まろうとしていた。

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