第二十五話 『翔英の作戦』
「――――作戦……?」
「うん。……上手くいけば、あいつを倒すことだってできるかもしれない……!! それに、さっきあいつと少し戦ってみて思ったんだけど、ちゃんと対策して挑めば、『戦えない相手』じゃない……! 俺でも、あいつの攻撃になんとか対応できたから……!!」
翔英の口からそんな言葉が聞けるとは。
レウラを倒す自信があるという彼の言葉は、リュノンを大きく励ます。
「――――じゃあ、作戦を伝えるけど……リュノンは、あいつに触れられないようにしながら、注意を引き付けてほしい……! 多分だけど、腕が伸びるのも、伸びるスピード自体はそんな速いものじゃなかった…………俺でもそう見えたんだ……リュノンなら、落ち着けば躱せると思う……!」
「それは俺も同意見だ。さっきは、驚いちまって回避が遅れたが、伸びると分かってるならな」
「……それで、リュノンが引き付けている間に、俺が後ろからやつに近づいて首を掻っ切る……!! 絵面的にはあんまよくねえけど、こっちも殺されそうになってるからな……」
「……分かった……! その作戦で行こうぜショウエイ……!! じゃあ、行ってくる……!!」
三度レウラの元に近づいていくリュノン。
その際、レウラを牽制していた分身を消去し、本体のみで彼女と対峙した。
「……意外とやるものじゃのう。時間がかかってしまうわ」
「……はっ、あんたへの対策はもうバッチリだ! そろそろ反撃させてもらうぜ!!」
止まっていただけのリュノンに対策など練れるはずがないと考えるレウラ。
後方に控える男に目を向けると、彼にわずかな警戒を敷く。
「(……あの男か……先ほどのわらわへの攻撃方法といい、どうやらわらわの魔能を見抜いたかもしれん…………注意すべきはこの赤髪小僧かと思っておったが、奴もじゃったか……)」
翔英を敵と認識したレウラ。
格下とはいえ二対一という状況は、少しやる気を出さねばならない。
レウラはため息を一つ吐くと、『戦う意思』を見せ始める。
「……わらわは、動くのが嫌いじゃ……疲れるし汚れるし、わらわにはふさわしくないことじゃ。……じゃからできるだけ動かず終わらせたかったが、そうはいかないようじゃのう……仕方ない…………」
「――――頑張るとするかのう」
レウラはこの戦いで初めて、自分から敵に向かって行った。
そして、どんくさい走りを見せながら右腕をリュノンに伸ばす。
だが、リュノンは迫りくる右腕の攻撃を難なく躱した。
「能力のタネが分かってるんだ! さっきみたいにはいかないぜ!!」
リュノンはレウラとの距離を保ちつつ、レウラを翔英に近づかせないようにしながら立ち回る。
人形のようなレウラと若い男のリュノン。
その見た目通り、身体能力はリュノンの方に分があったようで、レウラのタッチを軽々回避していく。
また、常に前線で戦ってきたリュノンと長らく強敵を相手にしていなかったレウラの差も大きかった。
その攻防を横目に、翔英はレウラの死角へと移動する。
そして準備を整えると、レウラの背後から切り掛かった。
殺気を感じ取ったレウラは振り返り、翔英を迎え撃つ。
「そなたが狙っていることくらい、わらわが気づかぬと思うたか!!」
動きを封じるため、右手を翔英へと伸ばすレウラ。
翔英は羽織っていた上着をレウラに被せ、彼女の視界を塞いだ。
「……!! なんじゃこれ……」
一瞬動きが止まったレウラの首元目掛けて、翔英は剣を振り下ろす。
『標的のみ』を捉える翔英の剣を活かし、レウラの能力を逆に利用して隙を作る事が翔英の立てた作戦内容だった。
――――見事作戦は成功し、レウラに攻撃を入れることに成功する翔英。
「あああっ!」
と、上着越しにレウラの悲鳴が聞こえてくる。
しかし――――レウラは倒れない。
「くそ……! 浅かったか……!」
「ショウエイ! もう一発だ!」
レウラを挟んでいる翔英とリュノンは、すかさず攻撃を仕掛ける。
だが、
その前に、レウラは上着を引き千切った。
姿を見せたレウラは、首から顔にかけて血を流しており、その表情からは、煮えたぎるような激しい怒りが伝わってくる。
「許さんぞ貴様ら」
静かに激高するレウラは背後から殴りかかっていたリュノンを左手で吹き飛ばした。
数十メートルは吹き飛んだリュノンは、ダメージを受けた様子でなんとか体を起こす。
いきなり吹き飛んだリュノンを見て動揺する翔英には、右手を突き出した。
「ああっ! しまっ――――」
この戦いで初めて、レウラの右手に触れられてしまった翔英。
当然、その場に完全に停止してしまった。
「……よくも……よくも……! わらわの……顔に……傷を……! ……生まれてから一度も……! 傷はおろか血を流したこともなかったのだぞ……! この痛み……!! どう返してくれようか……!!!」
レウラは停止している翔英にゆっくりと近づき、邪悪な笑みを浮かべながら口にする。
「――――そうじゃのう……このまますぐに殺しても気が晴れんからな……!」
レウラは翔英の顔に、腹に、両肩に、一発ずつ打撃を入れた。
そして、両手を叩いた。
「ごっ! おあっっ!!!」
「こうやって味合わせてくれようぞ……!!」
翔英の停止が解除され、殴った分の痛みが一斉に襲い掛かったのだった。
見た目は少女とはいえ、彼女は人間ではない。
その力は、少女のそれとは全く違うものだ。
「……!! ショ……! ショウエイ!!」
仲間の苦痛の声を聞き、痛みを引きずりながら立ち上がるリュノン。
リュノンが助けに来る前に、レウラは再び、翔英を停止させた。
先ほど同様、攻撃を与えてから解除し、再び青年の悲鳴が洞窟内に響き渡る。
――――だが、翔英は精一杯の敵意を目の前の魔物に見せ、戦意を示した。
「……その目が死ぬまで……続けようかのう」
レウラは三度、翔英を停止させる。
さらに、攻撃を加えようとするレウラの前に、リュノンが立ちふさがった。
「もうやめろよ!! ひでえことしやがって!!」
「そうじゃ。ひどいことをわらわはされた。だから、その分お礼をしてるだけではないか」
「……ふざけんな!」
リュノンは分身を一体出すと、二人でレウラの元に突撃していった。
彼の狙いは、翔英の動きを取り戻すことだ。
先程吹き飛ばされた時に拾っていた短剣をレウラに斬りつけようとするリュノン。
レウラは体を守るように、両手を前に構えた。
「(……ショウエイが俺を助けてくれたように……!)」
体に攻撃すると見せかけて、右手に短剣をぶつけるリュノン。
もう一体の方は、動き出す翔英の救出に向かった。
だが、翔英は停止したままだった。
「な……! なんで……!」
「バカか貴様は。力の有無を切り替えられぬわけないじゃろう。わらわが普段どうやって生活していると思っているのじゃ? 不便すぎるじゃろ」
レウラは手を叩くと、リュノンに左手をかざした。
またまた数十メートル吹き飛ばされるリュノン。
そしてまた、レウラは翔英への攻撃を始めようとする。
「や……やめ……やめてくれ……!!」
「貴様は、こいつの後じゃ。大人しく待っておれ」
「く、くそっ……!! 待ってろショウエイ……!! 今、助けるから……!!!」
絶対に助けるという強い思い。
しかし、その手は彼には届かない。
――――果ての洞窟に無力な青年の声がこだました。




