第二十四話 『レウラの魔能』
「――――終わりじゃ」
左手で手刀をリュノンの首に入れようとするレウラ。
一体何が起こっているのか――――翔英は理解できない。
トドメを刺そうとしたその時、レウラの頭上から短剣が降ってきた。
リュノンがレウラの攻撃を受ける一瞬に、持っていた短剣を空に投げていたのだ。
投げていたというか、間違えて投げちゃったが正解だが。
思わぬ攻撃に、レウラはその剣を右手で弾く。
短剣はレウラの背後に飛んで行った。
すると、
「――――なっ!? やべえ……!!」
停止していたリュノンが動きを取り戻し、トドメを刺そうとするレウラを認識すると、すぐさま距離を取ったのだった。
敵を仕留めそこなったことに驚いているレウラは、自身の両手を見ながらその場に立ち尽くしている。
「……しまったのう……わらわとしたことが。……聖鳳軍と戦うのは久しぶりじゃからか……? ……油断したわ」
リュノンの再起動を確認した翔英は、一旦安堵して立ち上がる。
そして剣を片手にリュノンの方に近づいていった。
「おいリュノン!! どうしたんだよ今の……!!」
「……今の……? ……俺には一瞬であいつが攻撃に移ったようにしか見えなかった……あいつの動きが素早いんじゃないのか……!?」
「いや……リュノン、自覚がないのか……? お前、あいつに掴まれてから、全く動いてなかったんだぞ……? ……完全にあの場に停止してた、分身も一緒に……」
リュノンは眉をひそめた。
そんな覚えはないと。
やはりあの時、リュノンの意識すら停止していたようだ。
「……なるほど……それが、あいつの能力ってことか。敵の動きだけじゃなく、意識をも止めることができる……そして、発動条件はおそらく、敵を触ること……」
「……うん。そういうことだろうな。……でも、なんでリュノンはまた動けるようになったんだ……?」
「……分からねえな……だが、あいつの右手に触られねえようにしねえと……また、掴まったら、今度こそ終わりかもしれない……」
リュノンは再び立ち上がり、臨戦態勢に入る。
翔英もだ。
突然リュノンが動かなくなった時には、敵の力に絶望した。
しかし、理由は分からないが、リュノンはこうしてまた動きを取り戻したのだ。
まだ、終わっていない。
だが、依然状況の悪さは変わっていない。
敵の能力の得体がしれない以上、安易に近づくのは危険だ。
「リュノン……分身は消したほうがいいかもしれない……さっきリュノンが掴まった時、分身も一緒に止まってたから……」
「……分かった…………そうだな、俺の分身は感覚を共有してる。俺の意識が止まれば、分身も同じなのは、当たり前か……」
リュノンは出していた二体の分身を消した。
さっきのようにレウラに突撃することはせず、慎重にゆっくりと距離を詰めていくリュノン。
翔英は後衛でレウラの動きを観察し、能力の正体を暴こうと構える。
「やっとかのう。あまりわらわを待たせるでないぞ。退屈じゃ」
あくびをしつつ、背中をポリポリ。
余裕丸出しのレウラは再び、敵の接近を待ち構えている。
「(……ちっ、触られたらアウトとか、やりづらすぎるな……俺も翔英も有効な遠距離攻撃は持ってないし…………だけど、あいつが自分から来ないってのはラッキーだ。時間が稼ぎやすい……)」
レウラとの距離を保ったまま、リュノンは立ち止まった。
レウラは一瞬で短距離を詰めるのは造作もないが、五メートル以上の距離は少し手間がかかる。
大体この世界の人間と同等の時間だ。
リュノンは、そのことを先ほどの一瞬の攻防で直感していた。
この距離を保っていれば、レウラの行動に対処できると踏んでいた。
リュノンの長年の経験と卓越した戦闘スキルが光る。
「……まさか、そこから近づかないつもりかの……? ……うむ、どうやらわらわの力を恐れているようじゃな。……よいよい。そういうつもりなら、そなたは動かないでよいぞ」
レウラはその場から一歩も動くことなく、何かを始めようとする。
――――レウラは前に右手を構えた。
「(なんだ……? この距離で何をするつもりだ……?)」
「これを使うのはあまり好きではないんじゃが」
すると、
リュノンは衝撃を受けた。
レウラの右手がリュノンへと伸びてきたのだ。
「……!! くそ…………」
予想外の攻撃方法への動揺もあって回避することができず、再び右手で掴まれてしまうリュノン。
完全停止再来。
リュノンは停止した。
一瞬で腕を戻すレウラ。
翔英はまたしてもリュノンがやられてしまったことにショックを受ける。
「(まずい……! なんにも分かってないのにまたリュノンが……! どうする……)」
――――翔英は考える。
ピンチの中でも、突破口は必ずある。
先程の攻防、リュノンが動きを取り戻したきっかけ。
――――思い出し、考察しろ。
「(………………そうか!! 振って来た短剣を弾いた途端に、リュノンの動きが戻った…………ということは……!! 分かったかもしれない……あいつの能力が……!)」
翔英は周りに落ちているものを拾い始めた。
と言っても、ただの小石だが。
小石をポケットにしまうと、レウラに近づいていく翔英。
一方のレウラは、リュノンのそばに迫っていた。
「させるかよ!! くらえ!!」
レウラに石を投げつける翔英。
レウラの頭にヒットするも、そんなものでダメージを受けるはずがない。
しかし、レウラの注意を向けさせることには成功した。
「なんじゃそなたは! わらわに石を投げるなど、無礼じゃぞ!!!」
怒ったレウラはリュノンの顔面を思い切り殴りつけた。
だが、やはりリュノンは全く動かない。
「……ちっ、今助けるぞ、リュノン!!」
レウラの元へ到達した翔英は、持っていた剣を彼女に振り下ろそうとする。
レウラは怒りで前しか見えていない。
「そんなものがわらわに通じるか!」
「知ってるよ!!!」
翔英は大胆にもフェイントを掛けた。
剣を振る直前に引っ込め、レウラの右手に大きめの石を触らせた。
「よし……!!」
翔英の読み通り、リュノンは動きを取り戻した。
鼻血を出して顔を痛めながら。
レウラが触れた大きな石は、地面に転がらずに浮いている。
「……またかのう……!!」
スムーズに行かず苛立ちを隠せないレウラ。
地団駄を踏んで隙を見せたレウラの前で、翔英は一目散にリュノンに肩を貸してその場から離れる。
「……まさか、あの小僧……」
「――――も、もう大丈夫だ、ショウエイ。ありがとう。離してくれ」
奥の方まで距離を取り、レウラに注意しながら話し合いを始めるリュノンと翔英。
リュノンは一体分身を出し、レウラを牽制しようと前に出した。
今度は十メートルほどの距離を保ちながら。
「一体何が起こったんだよ。急に顔が痛くなったぞ」
「それなんだけど……あいつの能力、多分、分かったかもしれない」
「本当か!? さすがだよショウエイ!! ……で、どんなんだ?」
「――――さっきも言ったように、触れたものの『機能』を停止する能力だと思う。だけど、その対象は一度に一つまでしか止めれない。あいつがリュノンに触れたあと、もう一度他のものに触れたことでリュノンが動けたことを見ても、それは間違いないと思う。だから対策として、触れられる前に、あいつの右手に物体をぶつける。そうすれば――――」
「分かった!! 助かるぜショウエイ! そこまで聞ければ十分だ!!」
状況把握。
リュノンは再びレウラに立ち向かおうと動く。
「――――待ってくれリュノン。俺に作戦がある……!」
翔英は対策を見出した。
自分の考えなどが通じるのかはわからない。
だが――――試してみたい。
己の力が、考えがどこまで通用するのか。
――――敵との戦いの最中、初めて翔英から立案した。




