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第二十二話 『生きる目的』

 『ルラールの寝室』にて行われた、聖鳳軍三軍、リュノン・アーリーとレウラ軍の魔物、ルラールの戦いは、リュノンの勝利で幕を閉じた。

 

 リュノンに胸を切り裂かれ、その場に倒れるルラール。


 「……私の……負けね……」


 「恨むなよ。お前らを倒すのが、俺たち聖鳳軍の仕事だからな」


 リュノンは短剣を懐にしまい、倒れ込む魔物の少女を見つめながら告げる。

 彼はこれまで、軍人として数々の戦いを乗り越え、何匹もの魔物を殺してきた。

 魔物の姿がどうであれ、今さら動揺などはしない。 


 リュノンの言葉を受けた魔物の少女は、

 

 「……恨んじゃいないよ……人間と魔物が殺し合うのは、遥か昔から決まってること…………むしろ私は、あなたに少しだけ感謝してる……」

 と、意外な言葉を返した。


 「……感謝? ……何に感謝することがあるってんだ……?」


 「ふふっ……私に永遠の休みをくれたことだよ……このまま生きていても、一生戦い続けるだけだろうからね……私は休みが欲しかった……戦いから逃げたかった……その代償がこれなら……私はこれを受け入れるよ……」


 魔物にもそんな感情があるのだと、内心驚くリュノン。

 彼はルラールの最後の言葉を黙って聞いた。


 「…………あなたはこれからも――――人生という戦いを頑張ってね……」


 後悔はない。やり残したこともない。 

 安らかな表情で限界を迎えるルラールだが、一つだけ気がかりが残っていた。


 「(…………ごめんなさいステップラー……私、先に……行ってるね…………)」


 長らく仕事を共にしてきた相方の事を思いながら、彼女は力尽き消滅した。

 ルラールにとって、ステップラーの存在は他の魔物とは違う。

 そのステップラーも、自分と同時に命を落としたことには、ルラールはまだ気づくことは出来なかった。


 ――――だが彼らはまた、向こうで再会することだろう。

  

 

 ルラールがいた場所を見つめながら、リュノンは悲し気に佇んでいる。

 ――――初めてだった。

 あんな考え方をする魔物に会ったのも、最後に見せた顔が穏やかだったのも。 


 ルラールが死亡したことにより、彼女が作り出していたリュノンがいるこの世界も消滅。

 リュノンは元々いたロッツ山の魔物のアジトへと戻された。


 「……!! 戻れたか……!!」


 戻ってくるなり辺りを見回したリュノンは、目に映った光景を認識するとその方向に飛び出していった。


 両肩から血を流して座り込んでいる翔英が、ジックルに鎌を突きつけられている。


 「――――さらばだ……名も知らぬ少年よ」


 鎌を振るうジックル。

 翔英は後方に緊急回避し、一撃目をギリギリ回避する。


 「……おい、無駄な抵抗をするなよ。どうせお前は消さねばならないのだ」


 もう一度鎌を伸ばすジックルに対し、リュノンは短剣をブーメランのように飛ばした。


 感づいたジックルが短剣を弾き飛ばすと、その隙にリュノンの分身が翔英を助け出す。

 リュノン本体は翔英にトドメを刺そうと近寄るジックルと対峙した。


 「……どこ行ってたんだよリュノン。危うく死ぬところだったよ」


 「悪い、遅くなった……! 言い訳は後でさしてくれ……! ……それよりショウエイ! あいつ倒したんだな……! さすがだぜ!!」


 「まあな……でも、見ての通り結構危なかったよ……」


 リュノンは翔英の肩に目をやると、回復魔法の準備に取り掛かった。


 「待ってろ……! あんまり得意じゃねえけど……今、できるだけ治す……!」


 リュノンは翔英の治療を開始した。

 しかし、そのリュノンにダメージが入る。


 「……まさか、ルラールまで死におったとはな……おかげで、お前たち二人の処分を私がやらねばならん……」


 ジックルと交戦していた分身リュノンが肩に切り傷を負ったようだ。


 「大丈夫かリュノン!!」


 「ああ、問題ねえ……!」


 そう言ったリュノンだったが、内心かなり焦っていた。


 翔英の治療をしながらジックルと戦うのはかなりきつい。

 そうでなくても、勝てる見込みは薄いのに。


 下手に分身を増やすのもリスクがでかい。

 あの鎌で一斉に斬りつけられたら、即死かもしれない。

 

 ステップラー、ルラールより遥かに強いジックルを相手に、その場しのぎしかできないリュノン。

 しかし、その様子を見たジックルは、思わぬ言葉を口にした。


 「……いいだろう。その治療が完了するまで待ってやる」


 「……な!?」


 「その治療をしたままでは、私との戦いに集中できんのだろう? そんな状態のお前と戦ってもつまらんからな」


 武人を思わせるジックルの台詞を聞いて、


 「……え? ……じゃあなんでさっきは、腕が上がらない俺を殺そうとしたんだよ!?」

 と、治療中の翔英が疑問の声を上げる。


 ジックルは平然と翔英の質問に回答した。


 「――――それはお前が私より弱いことが分かりきっているからだ。ステップラーごときにあの様じゃな。私は弱い者に興味はない。……だが、そこの赤髪の小僧は、あのルラールに無傷で勝利していると見た。もしかしたら、私が楽しめるほどの強さを持っているかもしれん。……だから、万全のお前と戦いたいと思ったのだ」


 「そ、そうか……そりゃ助かるぜ……! ……もう少しかかりそうだから、待っててくれ……」


 リュノンはラッキーだと思った。

 自分の見立てでは、ジックルには勝てないと踏んでいた。

 だから、わざと治療を遅らせて、ガロトが来てくれるのを待とうと考えた。

 そろそろ、目印を見つけてここに着いてもおかしくない。

 ここは、ガロトに任せるのが無難だ。


 だが、そんなリュノンの狙いはすぐに失敗した。


 「おい!! 治療は全力でやってもらおう!! くだらんことをするようなら今すぐ動くぞ!!!」


 治療の手を抜いていたのが秒でバレてしまった。

 ジックルは長らく戦ってきた歴戦の戦士だ。

 小細工は通用しない。


 「……わかった……すぐに終わらせる……!」


 怖いおじさんに睨まれたリュノンは、治療を急がざるを得なかった。

 ジックルが考え直してしまってもまずい。


 「リュノン……勝てそうか……? さっきの二人よりもあいつは強いって、俺でも分かるけど……」


 「いや……はっきり言って自信はあんまねえな…………だけど、俺には『生きる目的』がある……! こんなところで死ぬわけにはいかねえ……! ……まあなんとかやってみるよ……!!」


 「そっか……」


 治療が終わり、リュノンの顔を見た翔英。

 翔英は前向きな言葉を吐いたリュノンの表情から、彼が抱いている戦いへの不安を感じ取った。


 「よし……ひとまずこれで、どうだ……? ミネカさんみたいにはできねえけどよ」


 「うん、ありがとうリュノン。血も止まったし、肩も動く。大分良くなったよ」


 翔英は剣を回しながら、回復を実感する。

 そして、リュノンに言った。


 「リュノン…………俺も一緒に戦うよ。役に立てるか分からないけど、ただ見てるだけってのはいやだ……」


 「…………ああ。俺がショウエイの立場でもきっとそう言うと思う。けど、今はまだ見ててくれ。もしやばくなったら、お前を頼る」


 「…………分かった。……気をつけろよ」


 翔英と言葉を交わした後リュノンは立ち上がり、ジックルへと向かう。

 覚悟を胸に、いざ行かん。

 リュノンは敵への恐怖を飲み込み、ポケットに入っていた短剣を構えた。


 「すまん! 待たせたな……! じゃあ、早速始めようぜ!!」

 

 「うむ。では始めようか。せいぜい楽しませてくれ」


 ジックルもまた、愛用する鎌を取り出して戦いの準備に入る。

 

 今の自分では傍観してことしかできないことを悔やむ翔英。

 ――――ただ、リュノンの勝利を願うばかりだ。 


 「いくぜおっさん!!」


 「来い小僧!!」


 ――――リュノンが飛び出そうとしたその時、何者か洞窟に侵入し、足音が近づいてくるのが聞こえてきた。

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