第二十一話 『もう一つの決着』
――――時は、翔英とステップラーの戦いが決着した五分ほど前に遡る。
翔英とステップラーが戦うすぐ側、リュノンとルラールも対峙していた。
「……ショウエイは大丈夫だろう……そろそろ俺も、本腰上げて行くか……!」
「そう。…………ところであなた、身長はいくつ?」
「あ? なんだよ急に……百七十三だけど、それがどうした」
突拍子のない質問の返答を受けたルラールは少し微笑み、
「そう、ありがと。教えてくれて」
と、覇気の無い声で口にする。
――――その瞬間、彼女の背後に歪みが生まれた。
「な、なんだそれ!? ……空間に……穴……!?」
「……ちょっと忘れ物しちゃってさ……悪いけど、ついてきて」
ルラールはふわっと浮かび上がり、後ろの空間へと入っていった。
続けてリュノンも強靭な力で引っ張られ、空間に吸い込まれる。
「な!? おああああ!! …………なんだ、ここは!?」
リュノンが引きずり込まれた場所は、ベッドが一つあるだけで、それ以外は何もない空間が無限に広がっていた。
――――この空間はルラールの『魔能』によるものだ。
彼女の魔能は、空間を作り出すというもの。
この空間には、いつでもどこでもルラール本人ならば自由に出入りすることができる。
ルラール以外の人物、または物についてはある条件を満たすことで、引きずり込むことが可能となる。
その条件とは、対象となるものの『長さ』を知ることである。
長さの場所は縦でも横でも斜めでも構わない。
ルラールは普段は、この空間を『ある目的』のために使用している。
――――その目的は穏やかなものだ。
「……ここは私が寝るために作り出した世界。特別に、あなたも招待してあげたの」
そう、ここは彼女の『寝室』である。
誰にも邪魔されない、彼女だけの空間。
『魔能』には、本人の特性が影響することが多い。
何よりも休眠を求める彼女だからこそ、発現した力だ。
ルラールはベッドの下から何かを取り出そうとする。
状況が飲み込めないリュノンは、
「しょ……招待だと……何のために……! そもそもなんなんだこの状況は!!」
と、再びルラールに問うた。
彼女はベッドの下から二本の武器を取り出し、
「だからさっき言ったじゃん。忘れ物したってさ。これを取りに来たんだって」
と、眠たそうな顔で答える。
角ばった細長い武器を指差しながら言うルラール。
だが、全然疑問は解決していない。
「いやだから! なんでおれも!? 忘れ物なら一人で取り行けよ!!」
質問を繰り返すリュノン。
そんな彼にルラールはややうんざりだ。
「…………だって……あなたを残していったら、あの黒髪の子とステップラーの戦いに割り込むでしょ……? はっきり言って、あなたが加勢したらステップラーはやられてしまう。私が戻ってくる間にね。……あれでも、いなくなってしまったら困る……だから、あなたも一緒に来てもらったの。それに……」
ルラールは一瞬言葉を出すのを躊躇ったが、正直に言うことにした。
隠してもしょうがない。
「――――それに、一人でここに来たら、多分寝ちゃう…………いや、絶対。……だから、あなたをここで倒してから、私は休む」
「なるほどな……! 解説ありがとよ。大体納得したぜ。まあ、まだいくつか聞きたいことがあるけど、そういうことならさっさと始めようぜ……!!」
リュノンは自身の代名詞、分身魔法を発動。
三人となった。
「……なにそれ……?」
「分身だ……! ショウエイのことも気になる…………急がせてもらうぞ……!!」
突撃する三人のリュノン。
三角形となってルラールを囲み、一斉に襲い掛かる。
同時に二本の武器を投げるルラールは、曲芸師のように武器を操り、三人のリュノンの猛攻を迎え撃つ。
二本の武器はルラールの手元を離れても自動で敵を追尾している。
そして、攻撃をしては距離をとるという、ヒットアンドアウェイ戦法を武器が独りでに行っている。
結果、二人のリュノンは二本の武器に足止めされ、一対一となっていた。
「なんなんだこの武器は!? ……鬱陶しいぜ……!!」
リュノンの分身には高い集中力を必要とする。
また、感覚を共有しているため疲労も激しい。
そんなリュノンにとって、中々攻撃を当てることができず、しかも武器相手に戦うというのは非常にやりづらい戦いとなっていた。
それ以上にリュノンが驚いていたのは、ルラール本人の実力だった。
二体の分身を出している状態とはいえ、ルラールは素手でリュノンと互角の戦いを演じていたのだ。
「お、お前……! 普通に強かったんだな……! てっきり、あの虫野郎の方が強いかと……」
「……うん、レウラ様の友達の中で一番強いのは私だから。……人を見かけで判断しない方がいいよ。……それに言うの忘れてたけど、ステップラーのことを虫って呼ぶのはやめてね。ステップラー、そう言われるとすごく嫌がるから」
「へえ……そりゃ悪かったな。だが、結果的には、お前の相手が俺でよかったってわけだ。お前ら二人のうち、強い方の相手をしたいと思ってたからな」
「そうなんだ。……でもあなたのその魔法と私の武器は相性が悪いんじゃない? あの武器はね、私がジャーザンスって魔物に作ってもらった武器で、一度狙ったものをずっと叩き続けるの。あなたの分身の動きは止められちゃうわ」
武器と本体に翻弄されるリュノン。
だが、勝負はこれからだ。
自信あり気に解説するルラールを前に、不敵な笑みを浮かべながらリュノンは言い放つ。
「――――いや、そうでもねえぜ。確かに今のままなら止められちまうが、それは分身が一体ずつだからだ。……だから、こうすればいい……」
リュノンはさらに四体、分身を増やした。
「え……!?」と、ルラールはびっくり。
てっきり、分身の数をこれが限界だと思っていたから。
リュノンの分身は二体ずつ、二本の武器の方にそれぞれ向かった。
三人のリュノンに取り囲まれた武器は、攻撃後に離れた場所にもリュノンがいるという逃げ場の無い状況に陥り、武器のヒットアンドアウェイ戦法は封じられた。
それぞれのリュノンは武器を捉え、三人の一斉攻撃で武器の破壊に成功する。
「え……なにそれ……ずるじゃん…………」
「悪いな。俺の分身の数の限界はこんなものじゃないんだ。……勝負ありってとこかな? わざわざ取りに帰った武器をなくしたんだ」
リュノンは勝利を確信し、ポケットに入っていた短剣を取り出しながら、ルラールに近づいていく。
ルラールはやる気のない笑みを崩さない。
「…………そうね。私の勝ち目はほとんどない。……一対一ならなんとかなるって思ったけど、そんな数を相手にはね……」
――――するとリュノンは全ての分身を消した。
「いや、決着は一対一でつけよう。魔物とはいえ、女の子相手に集団リンチなんて真似、俺にはできねえよ」
「ふふっ、そう……甘いのね……」
リュノンとルラールは向かい合い、互いに攻撃の構えをとった。
ほとばしる緊張感の中、敵の動きに集中する両者。
勝敗は一瞬で決まるだろう。
二人はどちらかが倒れることを予感した。
そして。
全く同時に、対峙する二人は攻撃を繰り出した。
魔物であるルラールは鋭く尖った長い爪をリュノンの首元に。
対するリュノンは短剣でルラールの胸を切り裂こうとする。
――――一瞬早く、先に攻撃が届いたのはリュノンだった。
「あ…………! ……く…………!」
――――決着。
胸を切り裂かれたルラールはその場に倒れ込んだ。




