第二十話 『虫と人と魔物と』
――――続く翔英とステップラーの戦い。
ステップラーの攻撃を受けた翔英は、突然肩に『小さな針』が刺さってしまった。
――――そう、この力こそがステップラーの『魔能』である。
彼の魔能の発動条件は、同じ箇所に二度攻撃を当てることだ。
この条件をクリアすることで、能力の持ち主が死亡するか能力を解除するか以外、絶対に外すことのできない針を打ち込むことができる。
翔英は既に二度、左肩にステップラーの攻撃を受けてしまっている。
針自体の殺傷能力は高くないが、時間が経過するにつれジリジリと効果を発揮していく。
「くそっ! 抜けねえし……肩に力が……入らねえ……!!」
「くっくっくっ、放っておいてもお前は力尽きるだろうが、長い時間この姿でいるのは避けたい……さっさと終わらせてやる……!!」
左手を封じられた翔英。
片手で剣を振るい敵の攻撃に対処しようとする。
特に顔は重点的に守っているが、耐える時間が続く。
しかし、針の痛みもあり、次第に追い込まれていく。
「(ちくしょう……やべえ……痛え……!! このままいったら確実に俺の負けだ……!! なにか……反撃の手を見つけねえと……! 考えるんだ……!!)」
「そおらくらえっ!!」
右腕にも攻撃を受けてしまう翔英。
さらにもう一撃、同じ箇所に叩き込まれてしまった。
「な!? くそっ……! こっちにもかよ……!!」
右肩にも突き刺さる鋭い針。
両肩に針が刺さっているという痛々しい姿となってしまった。
「くっくっくっくっ、腕に力が入らないだろう……! そうなれば、お前は無力!! 武器すら持てなくなったお前に……! トドメをさしてやるぜ!!」
ピンチを迎える翔英。
右腕の力が尽きてしまう前に、反撃の道を見つけようとする。
「(……剣を持つ力すらなくなるのも近い……なにかないのか……!! あいつの隙を突ける方法は……!!! …………はっ!)」
翔英は再びガロトとの修業を振り返る。
そしてその際に――――ガロトに言われたことを思い出す。
『いいかショウエイ……敵の攻撃を受ける際には、敵の動きをよく観察することが重要だ。もちろん、敵に対処するためでもあるけど、相手が攻撃に転じたときの隙を見つけるためにもね。『攻撃は最大の防御』という言葉があるが、どんな攻撃にも必ずつけ入る隙ができる。……ピンチの時こそ、攻める気持ちを持たなければ、勝利は得られないよ……』
「『ピンチの時こそ、攻める』……!!」
と、翔英は痛む右腕を奮い立たせ、再び剣を構える。
「くたばれガキいっ!!」
翔英に向かってぴょーんと大きく飛び上がり、攻撃を仕掛けるステップラー。
翔英はその際にできた隙を見逃さなかった。
「ここだあ!!!」
と、逆に敵の懐に入る翔英。
そして、飛び上がったことで大きく伸びていた足を切り落とした。
「でええ!!? あ……あし……! 足が……!!!」
足を失ったことでバランスを崩し、着地できずに転げるステップラー。
さらに攻撃を畳み掛ける翔英は、もう片方の足に狙いを定めた。
「な……! ……やらせるかあ!!!」
と、ステップラーも必死だ。
伸び切った足を咄嗟に畳み、翔英の斬撃を回避しようとする。
――――結果は、長い足の半分ほどを切り落とすことに成功した。
二度も剣を思いっきり振るったことで刺し傷が悪化し、剣を下ろしてその場に座り込む翔英。
「お……お前え……! 悪魔かお前は!! 人の足を二本ともぶった切りやがってっ!!!!」
半分となった片足だけで、ステップラーは何とか起き上がる。
――――その顔は激しい怒りと痛みに満ちている。
「な……なに言ってんだ……あんただって、俺の両手を奪おうとしてるじゃねえか……!! ……これで……お互い様だろ……」
針の刺さった両手を見ながら言う翔英に対し、ステップラーはでかい目を大きく開きながら、
「バカかお前!!! 全然違うだろうが!!! お前の手はくっついてる!!! 俺の足は……無くなっちゃったろうが!!!!」
と言い返す。
「……こんなものを刺すのも、十分悪魔でしょ……でも、これであんたのあの動きは封じた…………ここから、反撃開始…………だ…………くそっ……」
三度剣を持とうとする翔英。
しかし、血を流しすぎたからか、痛みが限界を迎えてしまったからか、持ち上げることができずにいた。
「はっ……はっはっはっはっ……! その腕ももう使えないようだな…………足を斬られたとはいえ、お前を殺すぐらい訳はない……!!」
足の心配は決着後にお預けだ。
体を引きずり、四足歩行、いや、三足歩行で翔英に近づくステップラー。
「ぐ、くそ……お前のおかげで、この距離を動くのも一苦労だぜ…………だがな!!」
座り込む翔英の元に辿り着くと腕を振り上げ、
「これで終わりだ……! ……くたばれ!!!」
と、翔英の首に狙いを定めた。
――――だが、翔英は諦めない。
ここで決着を着けようと、残った力を振り絞り、もう一度剣を上げる。
――――そして、また全力で剣をブン回した。
その場に倒れ込む翔英。
対するステップラーも真っ二つとなって地面に転がった。
ステップラーの攻撃が届くより一瞬早く――――敵の体を切り裂いたのだ。
「――――な……なんてことだ……これは夢か……? ……俺の足がなくなるだけでなく……体まで……なくなってしまった……」
「そんなになっても……まだ、生きてるのか………」
真っ二つになっても生きているステップラーの生命力に驚愕する翔英。
その生命力は彼が何によるものなのかは聞かなかった。
「く、くそ……これじゃあまるで……」
「虫だな」
生きようともがくステップラーの前にジックルが現れ、何かを言いかけた彼を遮る。
いや、遮ったというよりは、言葉の続きはジックルが言ったという方が正解か。
「む、虫…………この俺が…………」
「そうだ。今のお前はもう、それにしか見えない」
ステップラーはその目に涙を浮かべながら、力尽きようとしていた。
その様子を見ていた翔英は、戦闘中にあった彼との掛け合いを思い出す。
――――そして、翔英は命尽きようとするステップラーに目を向け、彼に言葉を掛けた。
「……いや、あんたは虫なんかじゃなかったぜ!! あんたのその強さは、虫なんかより全然凄かった!! 戦った俺が言うんだから間違いない!! …………ステップラー!! あんた、強かったぜ……!!」
「――――へっ、お前なんぞに言われたって……全然……嬉しくねえぜ……」
最後に見せた表情は、人間のそれだった。
微かな笑みを浮かべながら、ステップラーは消滅した。
翔英の肩に刺さっていた二本の針も、ステップラーの死によって消え去った。
「――――か、勝った……」
翔英はその場に座り込んだ。
聖鳳軍入隊後、初勝利だ。
だが、
「…………まさか、ステップラーがこんな小僧にやられるとはな…………」
と、ジックルが重い腰を上げる。
彼の面持ちからは、少なくない悲しみの気持ちが読み取れる。
――――だが、そんな感情は自分たちには相応しくないと、すぐに戦闘モードに切り替えた。
「――――理由はどうあれお前がステップラーを倒したのは事実。お疲れのところ悪いが、死んでもらおう」
「く、くそ……!」
と、ボロボロの腕でまた剣を持ちあげようとする翔英。
しかし、腕に力が入らず、持つことができない。
「……そうだリュノンは……!? あっちはどうなった!?」
一人でこいつに勝つのは、無理だ。
唯一の頼みの綱を探そうと、辺りを見渡す翔英。
だが、リュノンも、彼と戦っていたルラールの姿も『どこにもなかった』。




