第十七話 『魔の忠義』
――――ここは、中央都市の東にある『ロッツ山』
その場所で、人間と魔物の『小さな戦い』が起こっていた。
魔物の一体、蟹のハサミを一撃で葬ったガロトに、もう一体の方、グーリュが突撃する。
ガロトは棒立ちで敵の攻撃を迎え撃つ。
しかし、グーリュにはある作戦があった。
ガロトに対して拳を振るうグーリュ。
例によって、彼のマフラーが防御に入る。
「ここだ!! 吸引フルパワーァ!!!」
――――ここでグーリュの『魔能』最大出力。
ガロトの予想通り、グーリュの魔能は、狙ったものを手のひらに吸い付かせるというもの。
吸い付かれてしまったら最後、彼の意志でしか離すことができない。
ただ、グーリュの意識が飛んだ場合と、許容範囲を超える痛みが生じた場合は例外である。
先はぶん殴られて離してしまったが、今度はそうはいかない。
グーリュはガロトの『生命線』となっているマフラーを捉え、両手に吸い付かせることに成功した。
だが、これでは先ほどと同じだ。
しかし、
「はっ!! 貴様の命であるこいつはいただいたぜえ!!!」
マフラーを吸い付かせた後、グーリュはガロトとの距離をすぐに取り、彼のマフラーを奪うことに成功したのだった。
――――そう、もはやガロトの肉体の一部であるようなマフラーだが、あくまで彼が巻いているものなのだ。
「あっはっはっはっはっ!! 作戦成功!!! これで同じ条件だなあっ!!」
グーリュは手に吸い付いていたマフラーを遥か遠くに投げ飛ばした。
中々の剛腕の持ち主だったようで、見えない距離にまで飛ばされてしまった。
「あれがなければ貴様ももう終わりだ!! さあ、ここからが本当の戦いだぜ!!!」
狙いが上手くいってテンション爆上げのグーリュ。
マフラーを失ったガロトに向かって、勢いよく飛び出していった。
「そらそらそらそらあ!!」という中学生男子みたいな掛け声とともに、ガロトに張り手を食らわせようとする魔物グーリュ。
今度はガロト本体を吸い付かせて、無力化してから一気にトドメをさすつもりだ。
グーリュの張り手連打を全て紙一重で回避するガロト。
彼にも何か狙いがあるようで、それを待っている様子だ。
「どうしたどうした!! 避けてるだけじゃいつまで経っても勝てねえぞ!! まあ、あれが無くなっちゃあ! どうすることもできないんだろうがよ!!!」
「………………」
騒ぐグーリュと無言のガロト。
傍から見ると押しているのは確実にグーリュだ。
「ガロトさん…………今、お手伝いいたします……!!」
ガロトの助太刀に入ろうとするミネカ。
――――しかし、一瞬こちらに向けたガロトの目を見たことで、再び立ち止まった。
「(あの目は………………分かりました。見ています……最後まで……!!)」
「もらったあ!!」
ついに、グーリュの張り手がガロトの腕を捉えた。
ガロトの左腕が完全にグーリュの手のひらに吸い付いている。
「さらにもう一丁!!」
グーリュの左手のひらにガロトの右手までもが吸い付いた。
両腕がグーリュの片手に捕まり、マフラーも奪われてしまい、初めて敵に防御手段を持っていかれてしまった。
グーリュは空いている右腕を構え、ガロトの顔面に叩き込もうとする。
「はっはっはっはっ! 覚悟しろよ! やっと!! 貴様を殴ることができるぜえ!!!」
その時、
「な……! なにこれ!!!」
「悪いな……お前には、拳の一つもくれてやれない……」
グーリュの体にガロトのマフラーが巻かれ、身動きが取れなくなっていた。
グーリュは拳を構えたままの姿勢で止まっている。
「ど……どうなってんのこれえ!!? 遠くに投げたじゃねえかよお!!」
「私のマフラーは私の意志で動いている。まあ、私の体の一部のようなものだ。手元を離れようとも、私が無事な限り、自由自在に動かすことができる。――――つまり、どこに飛ばそうが意味はない」
ガロトの意志により、より強く、グーリュの体を絞めるマフラー。
さらに、硬度は鋼鉄並みだ。
鈍い音を出しながら、グーリュの肉体にどんどんと食い込んでいく。
「うぎゃあああああ!!! い、いてえ!! いてええ!!!」
「君たちの本拠地の場所を教えてくれるのなら、これ以上絞めるのはやめよう。こんな悲痛の声を聞かされて、気分が良い私ではない」
冷たい視線を送りながら、敵の情報を聞き出そうとするガロト。
マフラーが奪われてからここまでのことを全て読んでいたかのようだ。
「ぐああああ……くっくっくっくっ、言えない……言えるわけがない…………俺の心は既に……レウラ様に……渡している……!! ……レウラ様に、害をもたらすことなど……できん!!」
グーリュは精一杯強がって笑みを浮かべながら、自身の主への忠誠を口にした。
名前を言ってしまうのはちょっと配慮が足りないと思うが。
さらに絞めを強くしながら、ガロトは淡々とした口調で、
「……分かった。君の忠義に免じて、これ以上の質問はやめにしよう。……そして……さよならだ」
と言い放つ。
「ぐっ! くそおおおおおお!!!!」
――――グーリュの肉体は真っ二つ。
その後、体は崩壊し塵と化した。
「終わったか…………なっ、これは……」
身体は消え去ったがただ一つ。
先のグーリュの『左腕』だけが、ガロトの両手に張り付いていた。
「……これは、奴の執念か……」
マフラーを操り、残った左腕も落とすガロト。
ガロトは死してなお自身の腕を捉えていたことを受け、グーリュに対し一種の敬意を払った。
最期に見せたグーリュの主への忠誠。
それが死よりも強い力で働き、ガロトを主の元へ行かせぬと腕だけが残ったのだろう。
「お疲れ様でした。さすがでしたわ、ガロトさん。魔物二体相手に、すごいです」
「ああ、ありがとう。だが、まだ任務は終わってないからな。最期に奴が口にしていた『レウラ』という名前。……これが誰なのか……何にせよ、『レウラ』を探そう」
「はい、わかりましたわ……! ……そういえば、リュノンさんとショウエイさんは大丈夫ですかね? 魔物がこの山に生息していることは確定したわけですし……」
マフラーを首に巻きながら、再び歩を進め始めたガロト。
ミネカの疑問に対して、来た方向を振り返りながら言った。
「あいつらのことだ。そう簡単にやられはしないだろう。リュノンには、冷静な判断力と機転。ショウエイには、精神力と底力がある。我々は我々で、調査を進めよう」
遭遇した魔物二体を相手に、全く苦戦することなく勝利したガロト。
戦場となった地を後にし、次なる調査へと向かったのだった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――場面は戻り、翔英&リュノンサイド。
「おいリュノン……! あれ、見てみろよ……!!」
「まじかよホントに来やがった……!! ショウエイ……ここはまずは見張っとくのが最善だぜ……!!」
リュノンが発見したキノコを張り込むこと約三十分。
彼らの前に、二体の魔物が姿を見せたのだった。
魔物たちはキノコを採った後、喋ることすらなく、すぐに移動を開始した。
「あっもう行ったぞあいつら! 追いかけるよなリュノン!?」
「もちろん。このままつけてって、奴らのアジトを見つけようぜ……! そうだ……! ガロトさんたちのために一応目印をつけておこう」
持っていた短剣で矢印と名前を掘るリュノン。
二人は魔物を追跡することにした。
魔物の後をつけること、五分。
リュノンと翔英は地中に埋もれた洞窟へと、二体の魔物が入っていくのを確認したのだった。
「……ここがそうなんじゃないか!? やつらの住処」
「ああ、間違いない……!! 大手柄だぜ俺たち……!」
「で、どうするの、リュノン」
「……んー…………行こう」
――――恐れを知らぬ、二人の若人。
リュノンと翔英は魔物の住処と思しき場所へと足を踏み入れた。




