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第十五話 『一軍の力』

 ――――分身魔法。

 リュノン・アーリーが得意とする彼の代名詞である。

 分身魔法を使用できるのは、聖鳳軍の中ではリュノンとヒナノ・スエリアの二人だけであり、ヒナノの最大分身数は三人までだ。

 リュノンは分身魔法への適正を持ち、長い鍛錬を重ねることで十六人まで分身を可能にした。

 分身魔法に関しては、リュノンは軍一番の使い手なのである。

 

 リュノンが使用する分身魔法には、主に二つの特性がある。

 

 まず一つに、彼の分身体は本体と同じという点だ。

 強さや速さ、頭脳や肉体に至るまで、完全にそのままの自分を増やすことができる。

 数に応じて、分身の性能が劣ることはない。

 今飛び出した十人のリュノン全員が本体と同じスペックを持っているということだ。


 二つ目の特性として、全ての分身は感覚を共有しているという点がある。

 視界や音も共有しているため、多くの分身を出せば出すほど、疲労が溜まりやすくなり、より高い集中が求められる。

 さらに、痛みや命も共有しているため、一人の分身がダメージを受ければ、それは全員に伝染してしまい、一人の分身が命を落とせば、リュノン本体も死ぬことになる。

 分身は本体の意志でどこにいてもすぐに消すことができるが、判断を誤れば、たちまち命の危機に陥ってしまう。

 

 総じて、リュノンの分身魔法は、数のアドバンテージを得ることができる強力な魔法だが、慎重な使用が求められる能力なのだ。


 「――――よし、今、分身にキノコを探させてる。……俺たちも探しに行こうか」


 リュノン本体と翔英もキノコ探しを開始した。

 分身たちはバラバラに散り、もう姿は見えなくなっている。

 

 「――――なあリュノン、もしキノコが見つからなかったら、この調査はどうなるんだ?」


 「んー。まあ多分、打ち切りだな。それしか当てがないわけだし」


 「そっかあ…………ていうか、あんな分身出しながら、普通に会話できるんだな。感覚共有してんでしょ? 俺だったら多分、一つ感覚増えるだけで気持ち悪くなっちゃいそうだけど」


 「めちゃくちゃ鍛えたからね。最初のうちは俺もそうだった。まあ、今は走ってるだけだから全然平気だよ。戦うってなると数はかなり限られるけど」


 深い山の中を会話しながら、進んでいく翔英とリュノン。

 話ながらの方が気持ち的に楽なようだ。

 しかしリュノンは軽く言っているが、走りを共有するのは平気じゃないんじゃないんかと心配だ。


 「……そういえばさ、リュノンはなんで聖鳳軍に入ろうと思ったんだ?」


 リュノンは突然立ち止まった。

 いつも明るい雰囲気の彼は、かげのある表情で言った。


 「………復讐」


 「えっ……? 復讐……? それって……」


 「――――あ、やった! 分身がキノコ見つけたってよ! 早速行こうぜ、ショウエイ!!」


 いつもの笑顔に戻ったリュノン。

 キノコを見つけたという報告を受け、その場所へと急ぎ足で向かい始めた。


 「おっ! こっから結構近いぞ! 一旦分身解除するわ!」


 分身を消したリュノンの後ろ姿を追いかける翔英。


 さっき見せた悲しそうな顔が気になるが、それを聞くにはまだ『時間』が足りない。

 何より、話を遮ったようにも見えたし、聞かれたくない可能性も高い。 

 

 『今は忘れよう』 


 ――――三分後、二人はキノコが生えている場所に辿り着いた。


 「――――ホントだ、結構生えてんな。……あんまりうまそうじゃないけど…………で、こっからどうすんの? リュノン」


 「……魔物が来るのを待つ、かな?」


 「やっぱそうなるのか…………意外と地味なのな。聖鳳軍の任務って」


 「いや今回のはちょっと手がかりが…………な」


 二人は草木の物陰に身をひそめ、魔物がやってくるのを待つことにした。

 もしこのまま誰も来なかったら、今日はお終いになりそうだ。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 一方、ミネカ&ガロトサイド。


 「――――なかなか見つかりませんわね……もう全て狩られてしまったのではないでしょうか?」


 「もしそうだとしたら、この調査は一旦終了だな。まあ、これだけ広いんだ。地道に行こう」


 翔英たちとは反対の道を進んでいるミネカとガロト。

 こちらではまだ手掛かりなしだ。


 「リュノンがいるんだ。向こうのペアの方が見つけられる可能性は高いだろうな」


 「そうですわね…………あっ! ガロトさんこれを見てください!!」


 ミネカが指を差した方向には、キノコの生えていた跡があった。

 それに、ふもとには何者かの足跡が確認できる。


 「これは、誰かがキノコを狩っていた痕跡か。……しかも、まだ時間はそれほど立っていないようだ。微かだが、向こうから邪気も感じられる」


 「行ってみましょう……!」


 二人は足跡を辿り、邪気が感じられる方へと向かった。

 その向こうに何かがいるという緊張感を抱きながら。


 「……少しずつですが、邪気が強くなっていますわね……」


 「間違いない。この先に魔物がいる…………待て!」


 ガロトとミネカの視線の先には、見知らぬ二人の姿があった。

 一匹は派手な衣装を着た人間に近い姿をしているが、二本の角が確認できる。

 もう一匹は明らかな人外だ。

 その風貌はまるで『蟹』。そして籠を背負っている。


 「――――よし、これで今日は十分じゃねえか?」


 人外の方がもう一匹に話しかけた。

 どうやら、まさにキノコ狩りをしていた最中だったようだ。


 「いや、もう少し欲しいな……これだけだと足りないかもしれない」


 「そうかよ! もう大分採っちまったけどな!」


 二匹の魔物は再びキノコを探そうとする。

 ミネカとガロトは魔物の追跡を開始した。

 

 「ミネカ……このまま奴らをつけて、敵の本拠地を突き止めよう……おそらく、取った食材を持ち帰るはずだ……」


 「ええ……了解しましたわ……」


 木々を利用しながら、尾行を続ける二人。

 少し山を進むと魔物は再び立ち止まった。


 「おいおい! またあったぜ! やったな!」


 どうやらまたキノコを見つけたようだ。

 蟹は嬉しそうに手のハサミでキノコを採り始めた。 


 「――――よし、今日はこれで十分だろう。さっさと採って帰るぞ…………と、その前に……そこに隠れてる奴出てこい!!!」


 「っっ!? なんだ!? 誰かいんのか!?」


 バレていたようだ。

 ミネカをその場に留まらせ、木の陰から姿を見せるガロト。


 「……気づいていたのか」


 「当たり前だ。俺の耳は一級品なんでな。…………もう一人も出てこい!! いるのはとっくに分かってるんだ」


 ミネカもまた、二体の魔物の前に姿を出す。


 「こ、こいつら何者だ!? どっから現れやがった!?」

 

 「黙ってろハサミっ!! そいつは今から俺が聞くんだ……!! まあ、大方予想はついているがな。……この辺りを調べに来た聖鳳軍ってところだろ? そして、俺たちの拠点を知るためにつけてきていた。違うか?」


 ハサミと呼ばれた蟹の魔物は、二人の姿を見てギャーギャー騒いでいる。

 しかし、もう一体の方は中々の観察眼を持っているようだ。


 「その通りだ」


 表情一つ変えずに、言葉を返すガロト。

 ミネカの方は、さすがに険しい顔だ。


 「おいグーリュ! どうするんだこいつら!? 早くキノコを届けなきゃいけないってのに!!」


 変わらずうるさいハサミに対して、グーリュと呼ばれた魔物は不敵な笑みを浮かべながら返答した。


 「簡単なことだハサミ。こいつらをここで殺して、何事もなかったかのようにキノコを持って帰る。どの道、聖鳳軍は潰せって言われてるんだ。キノコも採れて敵の首も取れる。一石二鳥ってやつさ」


 「なるほど! そういうことなら殺ってやるぜ!!」


 キノコが入った籠を置き、戦闘態勢に入るハサミ。

 その隣でグーリュもまた、気合いを入れている。


 「おいハサミ! お前は後ろの女を殺れ。俺はこいつの相手をする。おそらく、こいつは『一軍』てやつだろう。他の奴らとは少し違う。お前じゃきつい。……だから……!! 俺が倒す! 俺ならやれる!」


 自分を鼓舞するように前線に出るグーリュ。

 それを受けてガロトもまた、敵との距離を一歩近づけた。

 

 「ミネカ。君は下がっててくれ。こいつらは私がやる」


 「ガロトさん……わかりました……!」


 対峙するガロトとグーリュ。

 山の中、静かな緊張が地を走る。

 そんな中、


 「……君は少し見立てが甘いね。分かってないようだから教えよう。『一軍』とは……何かを」


 と、大胆不敵にかつ、冷静沈着にガロトは言った。

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