第十二話 『戦う武器』
――――今日は聖鳳軍本部に用がある。
やがて訪れるであろう実戦に向けた準備のためだ。
午後一時にガロトと会う約束をしている。
ここに入るのは三度目だ。
さすがに慣れてきた。
受付を済ませると、彼は修練場に案内された。
今となってはもう思い出深い、『スタート』となった場所だ。
そこでは、すでにガロト・クラーニクが待っていた。
「おはようございますガロトさん! 今日はよろしくお願いします!」
「おはよう。……今日は、君の特性について知ろうと思う。よろしく」
「はい!」と、元気よく返事をしたのはいいものの、自分がなんの役に立てるのかはまだ分かっていない。
そして何をするのかも。
「――――じゃあショウエイ。今から何か君の武器を見せてくれ。まあ精神的な強さを持っていることはもう知っているがね。それ以外に、ラフェルが試験の時に見せたような技や魔法など、戦うための攻撃手段を見せてもらいたい」
「え……はい、分かりました……」
隠していたことがバレてしまった時のように、いやな緊張感を覚える翔英。
『武器』
思いつくことは一つしかない。
――――翔英は今、あの時の事を思い出していた。
この世界に飛ばされてからの最初の戦いの事を。
あの戦いの時、翔英は魔物と戦うための武器を手にしていた。
赤い輝きに包まれた剣だ。
戦いが終わった後、剣は元の宝石に戻ってしまったが、この剣を常に使うことができるようになれば、魔物の戦いに対して強力な力になるだろう。
確かあの時はミネカを守る力を宝石に願ったことで、剣を作り出すことができた。
ならば、再び宝石に力を込めれば、何かが起こるかもしれない。
「……ちょっと待っててください。今やってみるので……」
翔英は父から貰った宝石に祈った。
イメージは『剣』
あの時と同じだ。
祈りを捧げて数秒後、ネックレスの宝石に光が灯り始めた。
「――――これは……!! ……よし……前と同じだ……!!」
そして、輝きは形を成していき、彼の手に剣となって現れた。
「……剣……? どこから……?」
その光景にガロトも釘付けになり、思わず驚きの声を漏らす。
「……お待たせしました。これが俺の武器です」
剣を構えてかっこつけながら翔英はキメた。
と、同時にめちゃくちゃホッとしていた。
これ、また『命の危機』が起きないと使えないのでは、と思っていたので、無事できたことは嬉しい。
「……なるほど。ではその剣を使って私と模擬戦闘をしよう。君の実力を測らせてもらう」
「……りょ……了解です…………じゃあ、行きます!」
翔英は突撃した。そして、剣をガロトに打ち込んだ。
試験の時と同じように、ガロトはマフラーで止めに入る。
衝突。
マフラーの方が硬度が上で、翔英の攻撃は弾かれてしまった。
「くっ!! やっぱりあのマフラーめちゃくちゃ硬え!! ……そのマフラーって何でできてるんすか!?」
「このマフラーは私の体の一部だよ。何でできているかと言うならば、私でできている。それより、鍛錬はまだまだこれからだ。どんどん来てくれ」
質問の回答が理解できなかった翔英だが、言われた通りに再びガロトに向かっていった。
だがやはり防御の方が精度が高く、剣は弾かれてしまう。
「すいません!! ちょっと時間貰えますか!?」
「うん? ああ、いいよ」
翔英は一旦攻撃をするのを辞め、作戦を考えることにした。
はっきり言ってあの防御の速度にはどうやっても追いつけないだろう。
この前のように、ガロトの意識がそれるなんてことも絶対ない。
ならば、あの鉄壁の盾を正面から打ち破るしかない。
剣を構えた時、彼は再びあの事を思い出した。
それは、最初の戦いとなった魔物ジャイとの戦いだ。
その最中、共闘した戦士、ルンベが魔物の動きを抑え、彼もろとも斬ってしまうかもしれない勢いで剣を振り下ろした。
しかし、ルンべは切り傷一つなく、魔物のみを倒すことに成功したのだ。
「(そういえばあれって偶然だったのか……? いや、もしかしたら……!)」
彼は三つの予想を立てた。
まず一つ目に、この剣は『魔物のみを捉えることができる』というもの。
この予想が正しければ、ルンベへの攻撃がすり抜け、魔物のみにダメージが通ったことにも納得できる。
しかし、もしそうだとしたら、人と戦う場合に攻撃ができなくなってしまう。ガロトのマフラーは彼自身と言っていたため、ガロトとの修業にも影響が出るだろう。
二つ目の予想は、翔英が『斬ると決めたものを捉えて斬る』ことができるというものだ。
これは、自身が魔物のみを斬ろうとしたため、対象にならなかったルンベが無事だったことから考えた。
もしこの予想が当たっていれば、鋼鉄を誇るあのマフラーを斬ろうとしたため弾かれてしまったので、その奥の体の部分に狙いを定めれば攻撃が通るかもしれない。
もっとも、味方の体を斬るというのは気は進まないが。
三つ目は、ただの偶然でルンべが無事だっただけ。
一つ目と二つ目の予想のどちらも、信じられないような素っ頓狂な力だとも彼は分かっていた。
しかし、そもそもこの剣自体信じられないような誕生経緯を持っている。
何よりここは、現世ではない。
別の世界だ。
そんな能力を持っていてもおかしくない。
「――――お待たせしましたー! ……行きます!!」
三度、彼は鉄壁へと向かっていった。
「(狙いはマフラーの先……! ガロトさんに直接……!)」
剣を振り下ろす翔英。攻撃地点はガロトの胴体だ。
すかさず飛んでくるマフラー。
しかし……
斬れたのはガロトの胴体だった。
「(……やっぱり、この剣って斬ると認識したものを捉えることができるみたいだな……)」
仮説の一つが確信に変わる。
ガロトは試験の時と同様に驚きを見せている。
こんな短時間で彼を二度も驚かせたのは、翔英が初めてだった。
「……どうやったんだ、今のは。私に直接攻撃を当てるなんて」
「……この剣、俺のネックレスについてる宝石から生まれたものなんです。そんな不思議な物だから、この剣には能力が備わっている。おそらく、狙った場所を斬ることができる力が」
「……なるほど。その特殊な剣が持つ力というわけか…………すごいじゃないか。やはり君は我々の大きな戦力となるかもしれない。――――いや、なるだろう」
相も変わらず話し方は淡々としているが、内心では大いにワクワクしているガロト。
ガロトはこの青年に希望を見出したのだった。
かつての戦友の面影を思い出しながら。
「……では気を取り直して再開しよう。君の攻撃についてはだいたい分かった。その力と武器があれば、有効打を与えることができるだろう。次は防御だ。敵の攻撃を見極められるようにする」
「……はい! お願いします!!」
ガロトが攻撃の構えをとった。翔英も剣を身を守るように掲げている。
彼の攻撃を見るのは初めてだ。
今までひたすら防御をしていた男が、動くのを見るのも。
「……いくぞ……!!」
拳を振るガロト。
当然、翔英の防御は間に合わず、まともに食らってしまった。
「まだまだ……! 慣れるまで受け続けるんだ」
「……っ……! はい……!!」
翔英はこの国の最高戦力の攻撃をただひたすら食らい続けた。
傷が深くなったらガロトが治療し、再び回避の練習。その繰り返し。
その後も、この修業は三時間以上続いた。
拳を打ち込まれる度、ほんの少しずつ見えるようになっていった。
しかし、攻撃を防ぐことは一度もできなかった。
「よし……今日はこの辺りで終わりにしよう。明日もあるしね」
「は、はい……ありがとうございました……」
既に疲れ切っている翔英。
ガロトの修業は想像よりずっとハードだったようだ。
「……先に初任務の日の話をしようと思うのだが……当日は午後一時に本部に来てほしい。詳しい任務内容を話した後、調査に出る。メンバーは私とショウエイ、それと……」
「――――こんにちは! ガロトさん、ショウエイさん」
修練場の入り口から声が聞こえてきた。
その声と話し方、絶対『あの子』だ。
声の主は二人の元へ足を運び、続けて言った。
「お二人とも、お疲れ様ですわ」
ミネカ・ベルギア。
三度登場。




