第十一話 『人の縁』
――――翔英は現在、町の中をぶらぶらと歩いている。
今日は一日休みなのだが、家に居ても特にやることもないので、暇つぶしに散歩をしているところだ。
これまでも何回か都市を散歩していたが、今回は少し遠くまで行こうと思っている。
休憩を挟みながら一時間ほど歩いた頃、中心部から外れた場所にたどり着いた。
そこは木々に囲まれた地であり、この世界にやってきて一番最初に見た景色に似ていた。
自然に懐かしさを感じながら歩いていると、木の背後に誰かの影が見えた。
「……あれ、どうしたの?」
そこには小学校低学年くらいの少年が顔を伏せながら座り込んでいた。
こんなところに一人でいた子供に心配を寄せる翔英。
少年は顔を上げ、自身の状況について翔英に話し始めた。
少年はカズという七歳の子供で、友達たちと鬼ごっこをして遊んでいたようだ。
しかし、鬼から必死で逃げながら森の中に入った結果、どうやら帰り道が分からなくなってしまったという。
走りすぎて足も疲れてしまったので、木の影で休んでいたらしい。
少年の話を聞いた翔英は、彼を町に連れて帰すことをすぐに決めた。
「カズの家って町の方だよね? 俺そっちの行き方多分分かるから、一緒に行こっか」
少年は涙を浮かべてはいなかった。
すぐに立ち上がり、翔英の後について行くことにしたようだ。
町までは二十分くらいかかるだろう。しかもこんな小さい子供が一緒だ。
翔英はできるだけ会話をしながら歩くようにした。
彼が疲れて歩けなくなってしまった後は、おぶりながら町に向かって歩いた。
町に着いた頃、入り口にいた大男に声を掛けられた。
「カズ! よかった……! 君が見つけてくれたのかい?」
「はい、ここをずっと行った先の森に座り込んでて……カズ君のお父さんですか?」
「ああそうだよ。ありがとう。カズと遊んでいた子供たちにカズがどこかに行ってしまったと言われてね。今、探しに行こうと思っていたんだよ」
カズの父親を名乗った男は、山のような巨体が特徴的な人物で、ゆうに二メートルは超えている。横にも広く、正直に言ってしまえば太っている。
しかし、何より注目すべきはその声。
話し方も相まって、目を瞑って彼の声だけ聴いたら、気品と圧倒的なカリスマ性が感じられる。
めちゃくちゃ『いい声』だ。
その見た目と声のアンバランスさが癖になる、話すだけで笑ってしまいそうな男に、いつの間にか眠ってしまっていたカズを男に引き渡す翔英。
「――――僕はケバロー・ホサルトン。ぜひお礼をしたいから、よかったらうちに寄っていってくれ」
ここで人助けによる報酬イベント発生。
どうせここで帰っても暇だ。翔英は彼の誘いに応じることにした。
「俺ショウエイ・キスギっす。じゃあお言葉に甘えて」
ケバローの家は町の外れにあった。
玄関に入ると、三人の子供が出迎えに来た。
「おかえり!」
「あっカズ!」
「よかった!」
次々と言葉を口にする子供たち。彼らは全員カズと同い年くらいの男の子だ。
「ただいま。この方がカズを見つけてくれたんだ。みんなもお礼を言いなさい」
「そうなの!?」
「ありがとうお兄ちゃん!」
「ありがとう!」
彼らから礼をもらい嬉しくなる翔英。
それより気になるには、この子供たち。
「よかったよー見つけられて。えっと……みんなはカズ君の弟?」
「いや、この子達は孤児だよ。僕が引き取ったんだ。」
「えっそうなんですか!? この子達も全員!?」
「ああ、そうだよ」
家の中へ案内されるとさらに多くの子供の姿が見えた。
なんと計七人。
さっきの四人を合わせると、合計十一人。サッカーチームが一つできる。
一番大きい子が中学生ぐらい。小さい子は幼稚園児ぐらいの幼い子供だ。
「僕一人でこの子達を育てている。みんな親をなくした子供だ。この子達は僕の宝であり、僕の生きがいなんだ。だから、カズを連れてきてくれたショウエイ君には本当に感謝しているよ」
ケバローの言葉を受けた翔英は、この子達が大切に育てられ、本当の家族のように暮らしていることを感じとった。
それにしてもこの人数を一人でとは、この人は一体なんの仕事をしてるのだろう。
「――――だから君にお礼をしたいんだ。……今から夕食を食べてもらうってのはどうかな? 今日は豪華なもの作ろうと思うからさ」
「ラッキーだねお兄ちゃん! 父ちゃんめちゃくちゃ料理上手なんだよ!!」
そう言ってもらえるなら遠慮なくいただこう。
子供たちの言葉に押され、翔英は決めたのだった。
「じゃあいただくことにします!」
「よし。そうと決まれば早速準備するからちょっと待っててね! ショウエイ君はなんか食べられないものとかある?」
「いや! なんでも食べられます!!」
ケバローが夕食を作ってくれるまでの間、翔英は子供たちと交流を深めながら待つことにした。
カズを含めたさっきの四人や話しかけに来てくれた三人の男の子とはすぐに打ち解け、ケバローが作ってくれるご飯の話や普段遊んでいることの話を楽しんだ。
カズが鬼ごっこしていた友達というのは、玄関に迎えに来てくれた三人だったようだ。
カズ、ハン、イル、ザウの四人は同い年で同じ町の出身であり、ケバローに引き取られる前から仲が良かった。
彼らの故郷は魔物に襲われてしまったらしい。
その話を聞かなかったが、ケバローが彼らを引き取るまでの経緯がなんとなく分かったのだった。
三人の男の子は、ジュン、ユウ、トモの三人。
一番年長のトモは翔英よりも落ち着いている。
ユウとジュンはまだ十二だが、下の子達を守りたいという黄金の意思を持っていた。
子どもたちの中には女の子も三人いた。まあ、人見知りなのか警戒しているのか、翔英に近づいては来なかったが、気になる様子で何度かこちらを見ていた。
「みんな! お皿を運んでくれ!」
厨房からケバローの渋い声が届いた。
行儀の良い返事と共に、翔英と話していた子供たちが厨房へと向かっていく。
翔英も手伝いに行こうとしたが、「あなたは客人だ」と止められ待つことにした。
翔英の前に、次々と豪勢な料理が運ばれてくる。
料理が醸し出す幸せな匂いに、思わず釘付けになってしまう翔英。
「あのー……こっちです……」
一人の女の子に呼ばれ、翔英は食卓についた。
まだ話してない子だ。
「ありがとう。えっと、君名前は?」
「……レナです…………十三歳です……」
「よろしくねレナちゃん。……レナちゃんは何か好きなものとかあんの?」
「……読書が好き…………あとは、この家のみんな……」
レナは手に持っていた本を翔英に見せた。
何やら難しそうな小説だ。
内容が分からない翔英にも伝わるくらい文字がぎっしり。
「――――お待たせー」
と、
いつのまにか食卓に料理が並び、子どもたちが集合していた。
ケバローが言っていた通り、見るからに美味しそうで豪華な料理だ。
香ばしい肉の匂いも合わさって、よだれが出るのを抑えらない。
ケバローも戻り、翔英からは少し離れた席についた。
「いただきまーす!!」
何人かの子供たちも料理に手を付け始めた。
翔英もまた、食事を頂こうとする。
「いただきます」
一口。
旨い。旨すぎる。
翔英が生きてきた二十年の人生で、一番美味しいと言っても過言ではなかった。
「……!! うま……!!」
翔英の食べている様子を見ていた子供たちが話しかけ始めた。
「父ちゃんの料理美味しいでしょ!! 父ちゃんはこの国で一番料理が上手なんだよ!!」
「一番? この国で?」
まあ、一番と言われても納得できるほどの味だ。
「そう! 父ちゃんはこの国で一番人気のお店を開いてるの!」
「……ケバローさんって料理人だったのか、なるほど。確かにこの料理なら子供たちを育てられるかも……?」
こんな料理を毎日食べれるなんて羨ましいとは言わないようにした。
あくまでも、彼らは孤児なのだ。
その後も、一時間ほど料理を味わい、ケバローファミリーとの交流を深めた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
こうした偶然が招く『人の縁』というものは、また未来で巡ってくるものである。
翔英が出会ったこれもまた――――例外ではない。
――――そして束の間の休日が明け、いよいよ聖鳳軍としての一日目が迎えにきた。




