第九話 『新しい舞台』
待機場所へ戻った翔英。
そこでは、既に部屋に戻っていたラフェルが机に座って試験終了を待っていた。
足をバタバタさせながら、天井を見上げているようだった。
一瞬目が合う翔英とラフェル。
沈黙の後、翔英の方から先に口を開いた。
「――――あの、合格おめでとう。さっきのめちゃくちゃ凄かったよ! ……それから一応、俺も合格したからよろしく!!」
「え!? 合格!? すごいじゃん!!!」
「お前もな」と思ったが口には出さない。
「ありがとう……ていうかラフェルくん……だよね。今いくつなの?」
「十二」
「十二か……(向こうなら小学生じゃんか……)」
「ここの試験て十二歳以上じゃないとダメなんだよね。だからずっと受けられなくて、十二になるまで試験に向けて頑張ってきたんだ。俺には風を操る力があったから、それをコントロールできるようにね」
「……ああ、あの『ぐるぐるパンチ』か……」
自分が小学生だったころを思い出す翔英。
あの時は毎日のように、馬鹿みたいに外で遊んでいた。
雨の日も風の日も。
それに比べてこの少年は、もはや風になってしまっている。
だが、それは昔の話だ。
今、翔英は唯一この少年と肩を並べた男になったのだ。
「そういや兄ちゃん、名前は?」
「ああ、ショウエイ・キスギ」
「ショウエイか……よろしくショウエイ!」
「おう、よろしくな」
そんな会話をしていると試験官のガロトが部屋へと戻ってきた。
これから入隊説明会が行われる予定だ。
「――――待たせたね、ラフェル・フルミーネ、ショウエイ・キスギ。明日から君たちは聖鳳軍の一員だ。そのため明日以降から、各々に仕事が与えられる。……最初は近場の調査がメインになると思うが、慣れてきたら各施設の運営や遠方へも行ってもらう。そして現在、魔物の存在を強く感じるようになっている。奴らから人々を守るのが、我々の最も重要な責務だ」
ガロトの説明に対して二人は強く頷いた。
いよいよ始まるのを実感する。
『新しいステージ』での戦いが。
「――――よし。それから、二人にはこれを配る。」
ガロトは二人に、白い腕章を配った。
そういえばガロトはずっと同じような黒い腕章を着けている。
「――――これは聖鳳軍の証となるものだ。階級ごとに色が違うのだが、君たちは五軍。白ということなる」
「五軍」という響きに、翔英は苦い顔を見せる。
もちろん、「五軍」でも誇れることなのだが、語感が語感だ。
『まあ、こっから上がっていけばいい』
「――――これを着けていれば、本部の施設や宿屋にも出入りできる。明日はまた本部に来てほしい。何か指示があるだろう。話は以上だ。何か質問はあるか?」
「あのー 宿屋の説明をお願いしてもいいですか?」と、翔英は手を挙げて質問した。
これから身を委ねる場所になるのだ。
できるだけ知っておきたい。
「わかった。宿屋は聖鳳軍本部のすぐ側にある建物で、聖鳳軍関係者は無料で利用できる。彼らの中にはそこで暮らしている者もいるし、集会に使われることもある。もし空いていれば帰りに見ていくといい」
「ありがとうございます」
「――――もう質問は大丈夫かな? ――――では今日は解散とする」
翔英はガロトへの挨拶、ラフェルとの別れが済んだ後、ガロトに言われた通りに、聖鳳軍の宿屋へと寄ることにしたのだった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……ここかな」
数分後、宿屋に着いた翔英は建物の中へと入っていった。
宿屋は、高級ホテルとまではいかないが、歴史と風流を感じさせるいい雰囲気の建物だ。
この場所を無料で利用できることに、合格したことへの喜びが改めて身に染みる翔英。
しばらく宿屋の中を観察していると、翔英は何者かに声を掛けられた。
「――――あれ? 君、ショウエイくんじゃない。なんでここに……」
「あっ! ヒナノさん!! お久しぶりです!」
ヒナノ・スエリア。かつて魔物との戦いで負傷した翔英を助けた、一軍の一人だ。
同時に翔英が絶賛お世話になっているスエリア荘の大家さん、クーレ・スエリアの娘でもある。
今日はピンクのワンピースに赤いジャケットを羽織っており、この間とは色合いが逆だ。
彼女は何故翔英がここにいるのかを聞いたが、彼が答えるまでもなくすぐに理解した。
「……その腕章…………まさか、ガロトさんの試験に合格するなんてね、すごいじゃない。あの時もそうだったけど、やっぱりあなた、只者じゃなかったみたいね」
「いやーホントに、俺もびっくり。最初にガロトさんの説明を聞いた時は、ダメかと思いましたよ。でも、さすがに合格出したこと無いっていうのはちょっとおかしいですよ……」
「――――あーそのことならね……一応あの人のために言っておくけど、彼、仲間を失うのを何より恐れているのよ」
冗談半分でガロトの話題を出した翔英だったが、ヒナノの言葉を聞いていつにもまして真剣な表情に移り変わる。
そして、彼女が言った『仲間を失うのを恐れている』をそのまま返す。
「――――そう。試験に合格するということは、当然、戦いに巻き込まれるのは避けられないわ。そうやって死んでいった仲間を何人も見てきたの。だから、あの人は生き抜くための十分な実力がある者しか、合格させないようにした。その基準を初めて満たしたのが、君って訳ね」
「……なるほど……」
ガロトへの印象がガラリと変わった。
あのおっかない見た目で、受験者たちの『未来』を考えた結果が『あの答え』だったのだ。
「(ならば本当は、今日も合格を出したくなかったのでは?)」と考える翔英。
「――――まあ、合格出さなすぎるのもダメだと思うけどね。だから私は、毎回最低一人は合格者出してる。…………あっそういえばショウエイくん。今確か、お母さんのとこに住んでるんだよね? この間お母さんから連絡あってさ」
「お母さん……ああ、そうですよ!! めちゃめちゃお世話になっております!!」
ヒナノの顔をまじまじと見つめながら翔英は思う。
「(言われてみれば……結構似てるな)」と。
「――――ところで、ここに用があったのかしら?」
「あ、いやちょっと見学に来ただけです。宿屋ってどんなところかなって」
「そう、今日は試験だったんだからゆっくり休みなよ。まあ、何かあったら、何でも言って。一応、私はあなたの『先輩』になるんだから。じゃ、私、ここの二階の部屋に住んでるから。またね」
「あっはい! お疲れ様です!」
ヒナノはまたしても『ふわっ』と上の階に行ってしまった。
彼女はとても話しやすい。
異性の先輩なんてこれまで全然いなかったし、ああいってくれる人がいるのは幸せなことだ。
ヒナノと別れた後、翔英はすぐに宿屋を後にしたが、「あ……そうだ……!!」と隣の建物を見て何かを思いつき、そのままそこに入った。
やってきたのは『図書館』だった。
翔英は合格しようがしまいが、やろうと決めていたことがある。
それは、『文字の勉強』だ。
司書さんに事情を伝えると、初心者からの勉強本を渡してもらった。
『今日はもう帰ろう』
翔英は本部から歩いて、懐かしのスエリア荘へ向かった。
スエリア荘に到着した彼は、背中を押してくれたクーレに挨拶しようと、彼女の部屋へをノックする。
勢いよく出てきたクーレは、翔英の顔を見てホッとしたような、驚いたような表情を浮かべた。
伝わったのだ。彼の果てしない喜びが。
「クーレさん! 合格しましたよ!」
「すごいじゃんショウエイくん!! びっくりよ!!」
「はい! でもクーレさんが支えてくれたおかげです。本当にありがとうございました!!」
クーレは翔英を部屋へと案内すると、またしても手料理を振舞うと言ってくれた。
そういえば昼ご飯も食べていないのに、もう六時前になっている。
お言葉に甘えて、頂くことにしよう。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クーレと談笑したのち、彼は自分の部屋へと戻った。
――――そして、今日という忘れられない日を振り返った。
――――長い一日が終わった。
寝床についたあとも、今日の体験や明日のことが気になってしばらく目が冴えていたが、しばらくたつと緊張や精神的な疲れが訪れ、彼は眠りについたのだった。




