9 王都到着
一行は予定通りその日の夕方に王都に到着した。
王都へ入場するための門前には日が落ちる前に荷を下ろしたいと、長蛇の列が出来ていた。
そこに幌馬車に繋がれ一心不乱になって走る総勢六十名超の屈強な男たちが到着したのだ。一帯は騒然とした。大人は二度見し、子供は泣き出し、馬は怯え嘶く。その騒ぎを聞きつけた騎士が詰所からワラワラと出てきて、目にした光景に絶句した。
「うわっ、夢に出てきそう・・・」そう、誰かが呟いたとき、馬車は騎士たちの前で止まった。
「アッシャーさん・・・お疲れ様です」
アッシャーの知り合いらしい騎士の一人が、横目で盗賊たちを見ながら苦笑いを浮かべ、馬車に近付いて来た。
どうやら昼過ぎにドアと馬車内にべっとりと血の付いた長距離馬車が到着したため大騒ぎとなったらしい。『アンデッド』に関してはよく分からなかったが、護衛の冒険者から『暁の庇護者』が残り、盗賊を討伐していることを聞き、彼らが到着次第すぐに盗賊を回収に行けるよう王都正門横の詰め所に待機していたらしいのだが、・・・無駄足に終わったようだ。
こうして盗賊たちは若干引き気味の騎士団に、無事引き渡された。
「盗賊の集落を潰してくれたんだってな。あいつらは最近派手にやっていた盗賊で、Cランク以上で討伐依頼を出そうかと思っていたところなんだ。まさかあんなに大所帯だったとは・・・Cランクが依頼を受けていたらと思ったらゾッとする──本当に助かったよ」
冒険者ギルドに到着後、カノンたちはすぐにギルドマスターの部屋に通された。
そして開口一番お礼を言ったギルドマスターは、彼らと共にいるカノンを見て首を傾げた。
「で、そのお嬢さんは?新しいメンバー・・・というわけではないよな?」
「アドルフさん、そのことで相談があるんだ。──カノン嬢」
エイシスはカノンをそばに呼び、紹介した。
「この子はカノン・クライスラー子爵令嬢だ。カノン嬢、こちらはギルドマスターのアドルフ・リンデンさんだ。今回俺たちは彼女の護衛中にあの盗賊に遭遇したんだ」
アドルフは焦げ茶色の髪と瞳の筋肉質な大男だった。冒険者ギルドの長であるアドルフは、本来のカノンであれば委縮して言葉も交わせないのではないかと思われるほどに中々に存在感がある男だ。
しかしカノンはローブを脱ぐと髪と瞳の色を戻し、「初めまして。カノン・クライスラーと申します。よろしくお願いいたします」と丁寧に挨拶をした。
魔法が発現してからのカノンは、まるで別人になったかのようだった。でもそれは一時的なもので、待ちに待った魔法の発現に気分が高揚しているだけなのだと思いきや、この様子を見る限りカノンは未だ『別人』のままらしい。
エイシスたちが受けた依頼は学園の入学試験に落ちたカノンを無事に領地に送り届けることだ。その試験に合格することが確定した今、依頼は片道で終了となる。
しかし、万が一あの特異な魔法を悪意のある誰かに知られた場合、カノンが面倒ごとに巻き込まれることは目に見えている。そのため何かがあった時にすぐ相談できる人が今後、必要となってくる。
そこでエイシスが白羽の矢を立てたのがアドルフだった。
彼はギルマスという地位に就いているだけあり、権力がある上に立場上王都から離れることが滅多にない。意外と面倒見もいいためカノンの相談役には適任だ。何より心から信頼出来る。
勿論彼に相談することは事前にカノンに説明し、了承を得ていた。
エイシスは自分たちがここに来るに至るまでの経緯をアドルフに話した。
「魔法が物理的な刺激で発現したなど聞いたことがない──いや、それはどうでもいい。回数制限付きだがこの世界にあるならどんな魔法でも使えるだと!?」
「信じられないだろうが俺たちはここに来るまでに光、水、風、土、空間魔法を使えることを確認している」
エイシスの言葉に他の三人が頷いた。
「──『暁の庇護者』が嘘をつくとは思っていないが、やはり見るまでは信じることが出来ないな」
当然と言えば当然なのだが経験豊富なアドルフも初めて聞いた魔法に、話だけでは信じることが出来ないようだった。
「しかし魔法に回数制限があるからおいそれと見せるわけにはいかない。それに今日は盗賊の捕縛で既に半分使っている。この後何があるかは分からないし、無駄打ちは出来ない」
「それもそうだな」
うむ、と難しそうな顔をして考え込むアドルフだったが、ふとカノンの膝に掛けているローブを視界に入れるとカレリアに尋ねた。
「それは?魔道具か?」
「ええ、私からの入学祝よ。素敵でしょ」
「で、そんなモンまで使ってここに連れて来たということは、冒険者登録をするということでいいのか?学園ではどうするつもりだ?」
「カノン嬢は学科がかなり苦手だそうだから、合格を確実にするためには二属性持ちということにする必要があるだろう。子爵令嬢だから目立つだろうが、学園の合否は将来に直結する。
子爵には従魔便で知らせようとは思っているが、カノン嬢の将来のためだ。否やはないだろう」
従魔便とはファンタジーの物語で言うところのテイムされた鳥型の魔獣を使って、確実かつ迅速に郵便物を届けてくれる手紙の配送サービスだ。王都など大きな町には従魔便を扱う店があるが、珍しい魔法であるため中々高価だ。
「無難だな」
アドルフが答える。確かにカノンの両親も試験に落ちるよりは、多少目立とうが受かる方を選ぶだろう。
「で、折角貴重な魔法が発現したわけだし、面白・・・いや、有事のためにも冒険者登録をしてみてはどうかと思ったんだ♪」
フランツが楽しそうにそんなことを言う。
今、絶対「面白いから冒険者登録をしてみては」って言いかけたなと、カノンは恨めしそうにフランツを見た。




