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87 手で持つのも危険なんだ

「舞踏会も無事に終わったし、これでしばらく貴族たちも大人しいだろう。すまなかったな」


舞踏会終了後、フェイとソラ、『暁の庇護者』の面々に国王が伝えた。


(無事では・・・ない、かな・・・)


舞踏会が終わると同時にオルフェウスの姿に戻り、相変わらず不貞腐れているフェイをソラはチラ見した。


(あれ?もしかしてフェイってば言わないつもり!?え?わたしが言うの!?)


ソラは()()()()()()を当たり障りなく説明するのが苦手だ。

同席していたブライアンが、そんなソラの動揺を敏感に感じ取り尋ねた。


「ソラ、何か問題でもあったのかい?」


それでも口を開かないフェイにため息を付くと、ソラは先程の出来事を話した。


おそらくメサイアはフェイと二人きりになり、何かしら結婚を確約出来るよう悪事を働くつもりだったのだと思われた。


ブライアンは横目でオルフェウスをみた。

オルフェウスにして見れば、女性であるソラを差し置いて男に言い寄られたという屈辱を自分から話す気になれなかったのかもしれないが、この場合屈辱に思うべきはソラの方ではないだろうか。

本人は気にしていないようだが。




「あ!まさかその公爵令息をブラックホールに!?」


王太子を始め、そこにいる全員がギョッとしてソラを見た。


「いえ!普通に収納しただけです。安心してください」


あの時、フェイが繰り出した顔面パンチをまともに食らったメサイアの顔面は完全に崩壊していた。

鼻骨、頬骨は折れ、鼻血が出ていた。あ、あと歯が何本か飛んでいた。


(あ、これ、ヤバイやつだ)


そう思ったソラは咄嗟にメサイアを血飛沫と抜けた歯(証拠)ごと収納したのだ。直ちに回復魔法を掛けてもよかったが、それでは血痕が──フェイが隣国の公爵令息を殴った証拠は残ってしまう。

メサイア自体はおそらく出すと同時に回復魔法で問題はないと思うが、問題は「いつどこで出すか」だ。



「どうしたら良いですかね?」

既視感(デジャヴ)・・・」ブライアンが呟いた。

全然安心できない。






さすがにこの場に来ていなかったはずのオルフェウスがソラと共に帰宅するのも、婚約者でもないソラと一台の馬車に乗るのも不自然であるため、オルフェウスはいつものフェイの姿で馬車に乗り込んだ。


結局メサイアはあの場で出してソラが回復魔法を掛けた。騒がれては迷惑だと、カレリアが出した瞬間メサイアを眠らせたのだが、その魔法の仕組みは教えてもらえなかった。意味深な笑みを浮かべられたので、それ以上聞けなかったのだ。そう言えばカレリアは魔道具の力を借りて多属性を操っているが、実際に何の属性を持っているのかをソラは知らない。いつもと違って詠唱をしていたので、本来カレリアの持つ魔法であることは確かだ。

治療後、ソラは闇魔法の記憶操作でフェイに殴られた記憶を消した。あまり多用する魔法ではないが、国王陛下の許可があったので問題ない(多分)。

その後、ソラとフェイはメサイアに関わらない方が良いから帰るようにと促された。



「あ、わたし、色々お世話になったので『暁の庇護者』の皆さんにお渡ししたいものがあって」


ソラはそう言って、『収納(インベントリ)』から巾着を四つ取り出した。ずっと渡そうと思ってはいたが、オベルトの騒ぎでそれどころではなかったのだ。

出会ったばかりの頃に盗賊のお宝がアイテムボックスに入らないと言っていたので、こっちの方が容量は大きいはずだ。


「付与魔法の練習とお小遣い稼ぎで作ったアイテムボックスなんですけど、私の収納と全く同じ効果があるので、犯罪に使われたら大変だとギルマスから売っちゃダメだって言われて・・・」

「「「「「「は?」」」」」」


あ~、と、その場にいた皆が思う。

時間経過がなく、際限なく入る上に、人の収納もオッケーなアイテムボックスが出回るなんて、考えただけで恐ろしい。


「フェイには──」


このような容量と効果のアイテムボックスなど、ソラが作らなければ手に入るものではない。エイシスが自分は良いから錬金素材を集める必要があるフェイにと言いかけ、苦笑するフェイが答える。


「もっと恐ろしいアイテムボックスを貰ったから・・・」

「恐ろしいアイテムボックス?」

「手で持つのも危険なんだ」


「ひっ!」


誰かが短い悲鳴を上げた。




こうしてメサイアは再び『収納』され、『暁の庇護者』により元の位置で出された上で、立ち入り禁止区域にいたところを衛兵に捕まった上で、隣国に強制送還された。


あのオベルトにですら手を出さなかったのだ。

普段の冷静なフェイであれば外交問題とか自分の立場とかを色々考えて、メサイアを殴ることなどなかっただろう。


「フェイ、大丈夫?」


ボーッと外を眺めるフェイに、ソラが声をかけた。

今日はソラに迷惑を掛けてしまったな、と、フェイは思う。

そう言えばカノン(ソラ)が初めて自分の前でドレスを纏ったというのに何も声を掛けなかったし。

ふと、そう思ってフェイはドレスに身を包むソラに視線を投げた。


(青と金のドレス・・・自分の色のドレスを送るなんて、姉さんはソラのことをかなり気に入ってるんだな)


それは自分の色でもあるけれど。

ちなみにフェイのドレスを準備したのもカレリアだ。


(なんかムカつく)


「どうしたの?」

「・・・そのドレス、とても似合っているよ」


ちょっと悪い顔で、フェイは笑ってそう言った。


(凄くキレイにドレスを着こなしていた美少女に褒められても微妙なんですけど・・・)


ソラはそれに、曖昧な笑顔で返したのだった。






「フェイ、わたし、バーンスタイン王国に行きたい」

「え!?」


オルフェウスは遠目に送られてきたカノンからの『話がある』との合図──ケーキを食べるジェスチャーである──を受け、危うく学園で吹き出しそうになった。

なんで食べるふりをするだけなのに、あんなキラキラした目が出来るんだ。


そしてその日の放課後、『フェイ』になって向かったケーキショップで、ソラから「隣国に行きたい」という言葉を聞き、一瞬混乱した。


オベルトに今更話がある訳ではないだろう。

この間の舞踏会で気になるヤツでもいた?


いや、逆に気に入らないヤツがいたから制裁を──は、カノンの性格からして有り得ないな。


カノンが隣国に行く理由を考えるが、心当たりは思い浮かばなかった。


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