83 いい魔法があります
フェイの攻撃で自身が傷ついた事への驚きが隠せないドラゴンは宙へ舞い上がった。
「ふん、お前たちはそこで指を加えて見ておれ」
ドラゴンはそう言うと、空中で翼を大きく羽ばたかせ、発生する風で攻撃を仕掛けてきた。その合間に王都に向かって放たれる何度目かのブレスにも闇結界は耐えているようだった。
「くっ!」
アッシャーが大盾を地面に突き立て自身の魔力を流す。すると、土が黒く染まり瞬時に土の盾が出来上がり、風を弾いた。
通常の属性魔法では防げないドラゴンの攻撃もこの武器ならば対抗することが出来るらしい。
が、
「どうにかして白龍に近付かないとどうにもならないよ・・・!」
フランツのいう通りだ。
これではカレリアの魔法以外の攻撃は届かない。ただの魔獣相手であればともかく、ドラゴン相手では直接攻撃を仕掛けられないのは厳しいだろう。
その時、ソラが「名案があります」と両手を合わせた。
「丁度いい魔法があるんです。アレでならドラゴンのそばまで行けるはず」
「本当か!?」
エイシスがソラに尋ねた。
「わたしには無理だったけど、皆さんであればきっと乗りこなせるハズです」
「え?それって──」
ソラのその言葉にフェイは少し嫌な予感がした。
ソラが収納から一枚の紙を出し、魔力を込めはじめた。
(やっぱり!)
フェイはその見覚えがある図柄を見ると腰を落とし、みんなに向かって叫ぶ。
「足元から来るから!振り落とされないように注意して!」
いい案があると魔法陣に魔力を込めはじめたソラと、それを見て慌てたようなフェイの様子に、一同は何かが来るのだと慌てて身構えた。
ソラの魔力が紙に書かれた魔法陣の文字をなぞるように黒く染まっていく。そして、すべての図柄が黒く染まった時、紙が地面に落ち、魔法陣が独立した。
「来るぞ!!」
「六!古代複合魔法──行っけぇー!」
その瞬間、ソラを中心にフェイと『暁の庇護者』の足元を含む広範囲にいくつもの黒い魔法陣が展開し、黒々とした何かが次々にドラゴンに向かって飛び出していった。
「「「「「「「「「「ひっ!」」」」」」」」」」
それを目にした者は皆、短い悲鳴を上げた。
この戦場には前回の戦いで同じ魔法を見た者も多数いたが、明らかに針の数もその動きも前回と比べ物にならないくらい──不気味だった。
突然足元から出現した大きな黒い針に『乗せられ』、フェイたちはその背後からドラゴンに向かって進む。
針と言いながらもドラゴンの視界から外れるように縦横無尽に進む様子に、もうこれは黒蛇と言った方が適切かもしれないと一同は思った。──白龍vs多頭蛇の戦いだ。
「こ、これはフェイの助言がなければ危なかったかもしれない」
エイシスはそうつぶやきながらドラゴンを見据えた。戸惑っている場合ではない。この一撃で勝負を決めなければならないのだ。
ソラの魔力はどんな魔法でも使える魔力だ。そのソラの魔力が流してある魔法陣だ──誰の魔力であろうと起動する。
エイシスは黒光りする剣に火魔法を付与する。すると、剣が漆黒の炎を纏った。この国を守るため、ただ一点、ドラゴンだけを見据えた。
ドラゴンは自身に向かって真っすぐ進み、腕や体に巻き付いたり攻撃を仕掛けてきたりする空の針を爪で攻撃し、落としていく。
「数は多いし動きに変化が見られるが既に見たことのある魔法だな」
余裕さえ見せるドラゴンは地上からフェイたちの姿が消えていることに気付いていないようだった。
「「「「「くらえっ!」」」」」
一発必中!ドラゴンが相手だ。
皆が武器に自身の最大限の魔力を込める。
これが最初で最後のチャンス。
古代魔法と闇魔法を──いや『古代複合魔法』を付与した五人の武器の同時攻撃がドラゴンを襲った。
結果、ドラゴンは地上に落下したものの無傷だった。
それでもダメージはあるようで、ドラゴンは再び飛ぼうとはしなかった。
「・・・僕たちの『力』を信じてもらえないだろうか」
エイシスがドラゴンに語り掛ける。
ドラゴンはフェイとソラ、そして『暁の庇護者』を見た後に、王都に魔獣を入れまいと懸命に戦う連合軍に視線を向けた。そして「ふっ」と笑うと──
「そうだな。我を相手にしても心が折れることなく、これだけ国を守ろうという思いが強いのであれば、もう少し我の山の安寧を任せてもいいのかもしれん・・・」
ドラゴンの声は戦場に響いた。その言葉を聞いた騎士や私兵が勝鬨をあげようとした瞬間──
聞き覚えのある、しかし聞きたくなかった声がしたのだ。
「おい!ソラ!!お前らッ!!何をボーッとしている!!チャンスを逃すな!命令だ!!!今すぐそのドラゴンの息の根を止めろ!!そして俺を助け出せ!!」
魔獣たちとの戦いの余波から逃れて来たのか、飛ばされてきたのか、傷だらけで地面に転がるオベルトがこちらを見て余計なことを、叫んでいた。
「もう、あれは殺ってしまっても許されるのではないか?」
『暁の庇護者』の中でも一番優しく穏やかなはずのアッシャーが、そう、呟いた。
あの後、オベルトがどうなったのかをソラは知らない。
自分勝手なオベルトの発言を聞いて、折角矛先を納めようとしてくれていたドラゴンが再び怒りだすのではと、ソラはドラゴンを見た。
「案ずるな、前回のお前の『呪い』もあって、アレだけが特別におかしいのだと我にも分かる。──あぁ、そういえばアレは我の鱗をお前にプレゼントするのだと言っておったな」
ソラが心底嫌だというような顔をすると、ドラゴンは笑いながら言った。
「我の鱗にはそれなりの価値があるのだぞ。そう嫌そうな顔をするな。傷付く」
そして、フェイを見ると「あそこにお前の一撃で外れた我の鱗がある」と言って、ある場所を指し示した。
見るとオベルトの目の前にドラゴンの魔力に応えるかのように光る、美しい鱗が一枚落ちていた。
ドラゴンに促され、フェイがオベルトの目の前でドラゴンの鱗を拾った。
ドラゴンの声はどこまでも通るためその会話はオベルトにも聞こえていたらしいが、拘束されているオベルトはそれを拾うことすらできない。
「あっ!オイッ!!フェイ!それは俺が先に手に入れようとしていたモノだ!俺に寄越せ!!」
オベルトが必死に怒鳴り付けるが、フェイは彼に視線を向けることもなくその場を立ち去ろうとした。
「いいのか!今俺の言うことを聞かねばお前たち二人とも学園を去ることになるぞ!!」
こんなこともあろうかと、オベルトは『奥の手』を残していた。
いつもの恫喝──なのだが『学園』というあまりにもこの場にそぐわない単語が出てきたためか、フェイが足を止めた。
「・・・今度は何?君と会うのも本当にこれで最後だろうから聞いてあげるよ」
「ふんっ!学園は学生の冒険者活動を禁止しているっ!お前たちが冒険者活動をしていることを俺が学園側に話せば──お前の頭でもどうなるか分かるだろう!!」
「・・・・・・そういえば、君は馬鹿だったね」
「は?」
呆けるオベルトを置いてフェイが戻ってきた。
ソラは少し──ほんの少しだけオベルトが気の毒であるような気がしなくもなかった。
「その鱗はお前にやろう。好きに使うがいい。
さて、魔獣は引き下げよう。我も山に戻る・・・が、闇のダメージを受けすぎたためかあそこまで飛べるだけの力は残っておらん。カノン、お前は転移魔法が使えるのだろう?」
「ソラ」
「ん?」
「わたしの名前はソラって言うのよ」
ソラはドラゴンにそう言ったあと、小声で(わたしがカノンだとバレると色々不都合があるから、青い髪と瞳の時はソラと呼んで、茶色の髪と瞳の時はカノンと呼んで欲しいの)と、付け足した。
「なるほど、ではソラ。我を山まで送ってはくれぬか?」
ドラゴンにそう頼まれたソラがエイシスを見ると「ここはバーンスタイン王国だ。後の処理は彼らに委ねていいだろう。ソラたちはそのままファランドール王国へ戻っていてくれ。また、報告がてら会いに行くよ」と言われた。
「分かりました。フェイ、行こう!あ、その前に七、みんな治れっ!」
ソラが手のひらを上に向けそう叫ぶと、地面に転がるオベルトを含めその場で戦っていた者たちの傷が癒えていった。
「あっ!おい!!ソラっ!!!俺を助けろ!フェイもそれを寄越せっ!!学園を退学になってもいいのか!?」
そう、ソラはドラゴンに頼まれフェイと一緒に山に転移したため、この後オベルトがどうなったのかを知らないのだ。
──こうしてソラとフェイは無事にファランドール王国へと帰ることが出来たのだった。




