82 フェイのやり方
ソラはフェイと共にドラゴンが向かったという王都に転移した。
基本的にソラが一人で転移すると高確率でフェイの上に落ちることになるが、フェイと転移すると前回ジゼルの元に落ちたように、その時に一番考えている人の近くに飛ぶようだった。
その結果──
「なんだ。またお前か。今日はこの前のようにはいかんぞ」
二人はドラゴンの上に着地してしまったのだった。
突然ドラゴンの上に現れた二人の令嬢に周囲が驚く中、フェイはソラを軽々と抱き上げると、風魔法を上手く使って地上に向かって飛び降りた。
そこは丁度『暁の庇護者』が戦っている場所だった。
「あら、フェイ。時間通りね」
カレリアがそう告げると、フェイはマジックバックから黒い杖を取り出した。
「はい、姉さんの分。上手くいくといいけど」
「大丈夫よ。あなたを信じているもの」
そこへ、相手をしていた魔獣を吹き飛ばし、エイシスが近寄って来た。
「完成したのか?」
「はい、エイシス。用心してね」
フェイはそう言って黒い剣を取り出すとエイシスに渡した。
「ソラ。フランツとアッシャーにも武器を渡したいんだ。時間稼ぎを頼める?」
フェイはフランツたちの元に駆け寄ると、ソラにそう言った。
「わかった」
ソラは言われるがまま入れ替わるようにフランツが相手をしていた魔獣を引き受けた。
フェイがマジックバックから黒い槍を取り出すと、フランツはそれを受け取り、それまで使っていたシルバーの槍をマジックバッグに仕舞った。そして何かを確かめるようにくるくると振り回すと、にっこり笑って「ありがとう」と短く告げ、アッシャーが相手をしていた魔獣に向かっていった。
その後、フェイはアッシャーにも黒い大盾を渡すと、準備オッケーとばかりに自身も黒いフォークを手に取った。
ドラゴンまでは距離がある。
フェイ待ちだった『暁の庇護者』は、ドラゴンを見上げて武器を構えた。
冒険者もAランクになると相手にする魔獣のレベルも格段に上がるため、手になじむ武器をいくつか予備として持ち歩いている。四人はその中の一つをフェイに預けていた。
フェイの魔法によって手を加えられた武器は以前と若干バランスが異なっていたため、エイシスは剣に慣れるため黒い剣を振るう。アッシャーの大盾も若干重量が変わっていたが、何の違和感もなく使えた。迫り来る何十という魔獣を盾で押し返すと勢いよく魔獣が飛んでいく。たじろぎ、勢いを無くした魔獣にカレリアがエリア魔法で止めをさした。
フランツも既に黒い槍を違和感なく使いこなしているようだった。これまでも悪くはなかったが、見たこともない光沢の美しい黒い槍を一目見て気に入った。魔法を使う際に気持ちを押し上げるのは詠唱だけではない。人は美しいと思える物、好きだと思える物を与えられると、いつも以上のポテンシャルを発揮できるのだ。
「フェイ、よく分かっているじゃないか」
フランツは槍を魔獣に向け、恍惚とした表情で微笑んだ。
そうか、と、ソラは思った。先日フェイに空の魔石に入れるよう頼まれたのは闇属性の魔力。フェイはこの数日で光のドラゴンに対抗できる武器を作っていたのだ。
「小賢しい!まとめて消し炭にしてやるわ!!」
魔獣対連合軍の戦いを楽しげに見ていたドラゴンは『暁の庇護者』の何かが変わったことを感じとったのか、振り上げた腕を振り下ろしてきた。それらだけでもかなりの衝撃だ。
「ただの闇属性の武器が我に通じるわけがないだろう!」
それはソラもよく知っていることだった。もちろんフェイも。
ただの闇属性の武器ではドラゴンには対抗出来ないだろう。でも今はそれを気にしている場合ではない。
「ここからが本番っ。四!上がれッ──!」
ソラはそう言うと、みんなに支援魔法をかけた。
ソラはみんなを──フェイを信じている。
一気に勝負を決めようとしているのか、ドラゴンが口を開け魔力を溜めだした。
「ブレスが来る!」
「了解ッ!」
ソラは収納から結界の魔法陣を取り出し魔力を込める。前回は相殺するのが精一杯だったけど今回は違う。
「五!──守れっ」
ソラの声に応えるように黒い魔法陣が王都の隅々にまで拡大し、覆った。まるで結界の方が禍々しいものであるかの様だがそこは勘弁して欲しい。
闇属性の結界はその直後に発射されたブレスを完全に弾いた。
「なっ!」
「今度はソラだけに戦わせたりはしない!!」
驚くドラゴンをよそに、フェイはそう叫ぶと黒いフォークに自身の風魔法をのせ、ドラゴンの周囲を固める魔獣めがけて振りおろした。
その攻撃は魔獣を吹き飛ばしながらもドラゴンに届いた。ドラゴンは闇属性を付与しただけの攻撃などとるに足らないと思っているようで、避けなかった。
「っ!なんだと!」
ドラゴンが信じられないものを見るような目でフェイを見た。フェイの攻撃が当たり、ドラゴンの鱗が一枚剥がれ落ちたのだ。
フェイが不適に笑い、ドラゴンに言った。
「白龍の相手をするのに属性魔法だけでは駄目なことは百も承知だよ」
ドラゴンは人の知能がそんなに劣っていると思っているのだろうか、そうフェイは思った。ならばこの事態も頷ける。フェイは無策でドラゴンを止めに来たわけではない。
──ソラが寝ている間に『暁の庇護者』とフェイで話し合いが持たれた。
「ドラコンは倒す必要はない」
倒す必要がないというか、『倒せない』が正しい。それがここに集うすべての人の共通認識だ。
今回、事の発端はオベルトの暴走だ。彼は王族だと権力は振りかざすくせに、その言動には王族としての責任感が伴っていない。
例えドラゴンのことを知らなかったとしても、宰相の件が片付いた時点で自身の置かれている状況を見据え、フォスターのように王族として不足している知識を学び直していればこのような事態にはならなかったのだ。己を振り返ることなく、全て宰相が悪いのだと現実を見ずに、自分勝手にこれまで手に入らなかった自由を満喫する──ドラゴンはそんな王族を見て、自分の山を守る一族に不安を覚えたのだ。
ただ、王族はオベルトだけではないし、国を守っているのも王族だけではない。
個ではなく集を。ドラコンに我々を含めた国の力、国を『守る』力を見てもらい、山の安寧を守るに足る力があると認めて貰えればこの戦いはきっと終わるのだ。
前回の戦いでは自身が古代魔法を使えないためにソラをひとりで戦わせてしまい、危うく彼女を失うところだった。あの時の恐怖は言葉では言い表せない。
だから今回は自身に与えられた自分の持てる力──錬金魔法と付与魔法──をすべて使うのだとフェイは決めていた。
「ボクに考えがある。詳しくは話せないけど、みんなの対ドラゴン武器を作るよ」
それからフェイは部屋に閉じ籠りある実験を行っていた。ソラが寝ている間もずっと。
ある日、ふとそんな気がしてソラの眠っている部屋を覗いた。
フェイがベッドサイドの椅子に座り、しばらくするとソラが目覚めた。
「おはよう、ソラ。よく寝ていたね」
「えーっと?」
「今、朝食を持ってきてもらうね」
寝惚けているのかソラは頭を捻っていたけれど、食事を食べ終わる頃には落ち着いてきたようだった。
「調子はどう?」
「え?とってもいいよ」
「ならちょっと頼まれてくれない?」
フェイは、ソラの目の前に空の鉱石をいくつか置いた。
古代魔法と『闇の属性魔法』の武器への『付与』。それがフェイの考えた作戦だった。
預かった武器にソラの闇属性の魔力を通した古代魔法を『付与』する。
実験の結果、魔石やフェイの魔力では失敗したが、ソラの魔力だけがそれを可能にするのだということがわかったのだ。
エイシスには火、アッシャーには土と、それぞれの属性に合った魔法陣に、ソラの闇属性の魔力を流し付与しながら、更にその魔法陣を武器付与する。
(ボクはボクのやり方でソラを守って見せる)
フェイは、今度こそソラと共に戦うために、部屋を出た。




