78 絶体絶命
「大丈夫か!?」
辺境伯がソラに駆け寄ってきた。結構飛ばされたらしいが、支援魔法のお陰で上手く着地出来て無傷だ。
「かなり力のある魔法師殿だとお見受けするが、君はまだ若い。無理はするな。我らはこの国を最後まで守る責務があるため戦うが、白龍殿は盟約に従い行動しているだけなのだ」
「その盟約って・・・?」
「はるか昔、この国の初代国王と白龍殿との間に盟約が結ばれた。
『この山以外の土地をバーンスタイン王国の領土とする代わりに王族は白龍の山の安寧を維持するために国政を行う』といったものだ。
『もしこの盟約を破り、白龍に干渉することがあれば、直ちにバーンスタイン王国を滅ぼし、この国の土地すべてを白竜に返還するものとする』と。この山は白龍殿の住処であり、バーンスタイン王国の国土ではないのだ。
普段は白龍殿も穏やかであるのだ。国民が山に食べ物などを求めて立ち入る分には見逃してくれていた。
しかし第二王子殿下が白龍殿に『鱗を寄こせ』『寄こさねばこの山から追い出す』と告げてしまったため、白竜殿は盟約が破棄されたと判断した──」
辺境伯が話してくれた内容は物語とは全く違う、この国の歴史だった。
(あんの馬鹿!王族であるあんたがなんでこの話を知らないのよっ!!!?)
王子教育に入っているであろうこの盟約。どうせ宰相にいいように扱われていた時に「ドラゴンがいる」ということだけを頭に入れ、それ以外のことは右から左だったに違いない。
「話は終わったか?」
意外なことだが、余程オベルトと一緒にされるのが嫌だったのか、ドラゴンはソラが事情を理解するまで待ってくれていたらしい。
「それでもこれまで我の生活の安寧を維持してくれていた者たちを始末するのは早計かと思い、その者だけを差し出すように命じたのだ。しかし期限になってもその者が我に差し出されることはなかった。
しかもアレは王族という立場にありながら逃げ出したというではないか。
そのような無責任な者の血族が治める国に、今後の安寧を維持することは出来ないだろうと判断した」
例え盟約があっても『この国の土地を白竜に返還する』のに『バーンスタイン王国を滅ぼす』必要性を全く感じない。
それにしても──
「あの馬鹿は一体なんでドラゴンの鱗なんか欲しがったのよ!?」
思わず口から出たソラの疑問にドラゴンが答えた。
「カノンとかいう娘に私の鱗を送るのだと宣っていたぞ」
それを聞いた瞬間、ソラは意識が遠のきそうになった。
「さぁ、話は終わった。娘。理解したのであれば、邪魔をするな」
「そういうわけにはいかない!」
再び攻撃をはじめようとするドラゴンにソラが答える。
「魔法師殿、白龍殿は今よりも魔法が盛んであった古来より生きている。現代の属性魔法では太刀打ちできまい」
そうだった。フェイにもそう言われたのだった。
結界が効いたように、ドラゴンに唯一通じるのは魔法陣──古代魔法だ。
再び口を大きく開き魔力を溜めだしたドラゴンを見たソラは収納から紙を取り出し魔力を込めた。
相手は光属性のドラゴンだから回復魔法が使えるはずだ。
ソラが魔力を込めると手に持つ紙に書かれた火の魔法陣が今度は赤色で縁取られていく。そして、その変化を追うように黒い闇の魔力が魔法陣を染めていく。
すべての図柄が黒紅色へと色を変えた時、魔法陣は紙から独立し宙に浮き上がった。白紙になった紙がはらりと落ちる。
「五!火の古代魔法を火と闇の魔力で起動した魔法ならどうだっ!名付けて古代複合魔法っ!!」
魔法陣の起動に使うのは純粋な『魔力』だ。現代に生きる者たちはこれまでの歴史の中で魔力の属性が偏ってしまっている上に弱い。その点ソラは全属性だ。属性に偏りがないうえにこの世界にある魔法なら『使える』ため、難なく魔法陣を起動できる。
そして、例え魔力の属性が偏っていても、当然『使える』のだ。
詠唱と共にソラの手元にあった魔法陣が消え、ドラゴンの足元で展開した。するとその瞬間、ブレスを吐こうとするドラゴンを黒い炎が包み込んだ。
古代魔法の良いところは魔法を飛ばすのではなく、任意の場所に展開でき、更にその範囲を指定できるところだ。
「古代魔法の使い手?存在するのか!?」
「古代魔法と属性魔法の複合魔法だって!?」
「ま、魔法陣・・・!」
「ち、違うだろ!?紙に書いた魔法陣が起動するはずが・・・」
辺境伯たちが驚いているようだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「なっ!」
やはり光属性のドラゴンなだけあり、古代魔法と闇魔法の複合魔法は効いたようだ。
チャンスとばかりにソラが更にドラゴンの方に駆け出した。なるべく騎士や私兵から離れないと、ドラゴンがソラに反撃してきたときに巻き込んでしまう可能性があるからだ。
ドラゴンを包んでいた闇魔法の炎がドラゴンの光魔法で相殺されていくのがわかった。
「なかなかやるなっ!」
ドラゴンが爪を振り上げてソラ目掛けて振り下ろす。その風圧だけで周囲の家屋がバラバラになって飛んで行く。
ソラは継続してかけている支援魔法で避けながらも、収納からもう一枚紙を取り出した。
実は古代魔法に『攻撃魔法』というものはない。古代魔法は古い時代を生きていた人々の『生活魔法』だからだ。
しかしそんな中、ひとつだけ攻撃に使えそうなものがあった。それがこの魔法陣だ。ドラゴンの爪に対抗出来るかは分からないが、試してみる価値はある。
ソラはインベントリから取り出した紙に闇属性の魔力を込めた。
「六!古代複合魔法、貫け!!」
ソラの足元から複数の黒い針のようなものが現れ真っ直ぐドラゴンの方に襲いかかっていく。さっきはソラが物語の主人公であれば──などと思っていたが、魔獣を従えるドラゴンに対抗するためとはいえ”黒い何かを操るソラ”と”光のドラゴン”ではどちらが悪役にみえるだろうか。
しかし、それでもドラゴンが振り下ろす爪に抵抗するにはこれしか思い浮かばなかったのだから仕方がない。
「え!?」
考えごとをしながらであったため手元(足元?)が狂ったのか?
気付けばソラは足元から出た針に跨がり、ドラゴンに向かって突っ込んで行っていた!!
(あぁ~!まるでホウキの代わり!!
──って、こんなの魔法少女じゃなーーーい!!)
「きっ、きゃぁぁぁぁぁ!」
支援魔法を掛けているとはいえ、縦横無尽に動く物体にずっと捕まっていることなんか出来るハズもなく、ソラの体はかなり高い位置から宙に投げ出された。
体感ではスローモーションだった。
うわぁ!これ絶対痛いよね?
地面に叩きつけられる前に、気を失うのかな?
意識があるうちに皆に回復魔法をかけた方が・・・?
でもこの状況で魔法使える?
あ、父さま、母さま、先立つ不孝をお許しください・・・
皆、ドラゴンを止めることが出来なくて、ごめんねぇっ。
・・・フェイ。
「カノン!来いっ!!!」
ソラが諦めかけた時、フォークで魔獣を凪払いながらこちらに駆けてくるフェイの姿が見えた。
(フェイっ!)
そう思った瞬間、ソラはフェイの腕の中にいた。
「間に合ってよかったっ!心臓が止まるかと思ったっ!!」
フェイがそのまま、力を込めてソラを抱き締めた。
「ありがとう、フェイ」
ソラがそう言ってフェイの頭を撫でた。
しかし、ほっとしたのも束の間、
「今、カノンと言ったか?」
ドラゴンが低い声で、そう言った。
あ。




