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77 フェイのフォーク


その瞬間、ものすごい勢いでドラゴンの口からブレスが放出された。


光が、風が、熱が、爆風となってソラが立つ場所にまで届いた。


しかし、土地にも人にも何の変化も訪れなかった。その代わり、ブレスの衝撃で結界が砕け散ったのが分かった。

ドラゴンの攻撃に死を覚悟した人たちが、何も起こらなかったことに顔を見合わせている中、ドラゴンだけが楽しげな顔をしていた。


「ほぅ。懐かしい魔法を使う者がいるようだな。しかも我がブレスを防がれようとは──長く使わねば我とて力も衰えるということか」


遠くからでも分かるらしい。

ソラはドラゴンとバッチリ目が合ってしまった。


「ならばこれはどうだ」


ドラゴンの足元から沢山の魔獣が飛び出してきた。それは長い年月をかけドラゴンの魔力によって魔獣への変化を遂げた動物たちだった。


人間対ドラゴンの戦いの火蓋が切って落とされた。


「ソラ、白龍のところへ行こう!白龍を何とかしないと、どうにもならない」

「あの馬を使え!」


ジゼルが走っていこうとするフェイとソラに一頭の馬を指し示す。


「私の馬だ。白龍にも怯えず近くまでいけるはずだ。乗っていけ!私はここで戦うよう命を受けている。皆を頼む!!」

「義姉さま!ありがとう!!」


フェイはジゼルの馬に飛び乗ると、腕を伸ばしてソラを引き上げた。

 馬を駈り、魔獣と騎士たちの間を通り、ドラゴンの元に急ぐ。


(わぁ!物語で読んだスタンピードってこんな感じだったのかなぁ)


山から溢れ出る魔獣に、ソラは一瞬そんなことを考えて頭を振る。これは現実だ。物語ではないし、実際に人の命が奪われかねないのだ。

一体何をしたらここまでドラゴンを怒らせることが出来るのかとソラは思った。


「アイツは一体白龍に何を言ったんだ・・・!」


フェイもソラと似たことを考えていたらしい。

ドラゴンに近付くにつれ、魔獣の数が増え、その力も増していく。


「これ以上は馬では無理だ」


フェイが馬を降り、ソラを下ろす。


「ありがとう。ヴォカリーゼ辺境伯令嬢の元に戻っていいよ」


フェイがそう語りかけると、馬はその意味が分かったかのように元来た道を駆け出した。

ドラゴンまでは距離はある。しかも魔獣を倒さないと進めない。


「この魔獣たちはドラゴンの大切な仲間なのではないの?」


物語ではそうだった。山で人々を見守りながら仲間と過ごす白いドラゴン。


「は?こやつらが我の仲間?あり得んな」


 その呟きが聞こえていたようで、意外にもドラゴンがそれに答えた。


「こやつらは我に従うことを条件に我の山で暮らすことを許しているだけの魔獣に過ぎぬ。我の(めい)で命を賭して戦う、ただの駒だ」


「えっ!?」ドラゴンの言葉にソラの足が止まる。

周りを見ると懸命に人と戦う魔獣たち。人から見れば『敵』なのだけど、ドラゴン側から見れば共に戦う『仲間』なのだと思っていた。人と同じく大切な何かを守るために懸命に戦っている。

ソラは物語と全く違ったドラゴンと魔獣の関係に、ショックを受けた。


「ソラ、どうやらボクの魔法()では──いや、ただの属性魔法では白龍の相手は無理みたいだ。魔獣の相手が精一杯だ。ボクが道を作るからソラは先に白龍の元に行ってくれ。ボクも必ず後を追う」


先ほどから辺境伯領の魔法師が離れたところからドラゴンに属性魔法を撃ちこんでいるが、ドラゴンは痛くも痒くも無いようだった。となると、現在ドラゴンに対抗できる唯一の手段は先ほどドラゴンの魔法を弾いた古代魔法ということになる。

だけど古代魔法は──。


「いいかい、ソラ。白龍はその身体を覆う鱗の色が示す通り『光属性』だ」


ドラゴンの言葉を受けてか、ソラとフェイの前に魔獣が立ちはだかった。

ソラがドラゴンを見上げた。確かに光属性の魔石と同じ輝きをしている。


「分かった。やってみる」


カノンがそう言うと、フェイはニコッと笑って帽子に付いたフォークを手に取った。


出会ったばかりの時、フェイが頭に乗せた小さな帽子に付いているカトラリー(フォーク)が気になって、何故?と尋ねたことがある。

その時は、『無いときに困るから』と言われ、結局謎が深まったのだけれど──。


フォークはフェイが手に取ると、突然フェイの身長と同じサイズにまで、巨大化した。


「!」


急に現れた(ように見えた)巨大なフォークに、周囲で戦っていた騎士たちが目を見開き、魔獣たちも驚いたように距離をとった。

しかもフェイのワンピースと共布で作られたリボンも巨大化している。こんな時になんだが、ソラはセットで可愛いと思った。


「そ、それは?」


ソラが思わず尋ねると、フェイはフォークを頭の上まで持ち上げ、魔獣に向かって振り下ろした。


ドッゴーン!!


たった一振で周囲の魔獣が吹き飛んだ。騎士たちはその余波(よは)を喰らわないように咄嗟に剣を地面に突き刺して耐えたらしい。


「え?ソラに話したことなかったっけ?()()()無いときに困るからって、これも魔道具のひとつだよ。剣だと小型化して持ち歩くとしても危険だからね。フォークが殺傷能力的にも中途半端で丁度良いんだ。リボンにも色々付与してある。


滅多に無いけど数を相手にするときはあった方が便利だからね──()()


「無いときに困る」が、そういう意味だとは思わなかった。


呆気にとられているソラをフェイが促す。


「さぁ、ソラ!」


フェイはもう一度、今度は風の魔法をのせてフォークを振り下ろした。

あっという間にドラゴンまでの一本道が出来る。


(さん)!行くよっ!!!!」


支援魔法(バフ)で準備万端!

二人は顔を見合わせると、ソラはドラゴンに向かって、フェイは魔獣に向かって走り出した。




ソラが物語の主人公であれば、ドラゴンはソラの到着を待ってくれるのかも知れない。だけどそんなことはない。いくら剣と魔法の世界であろうとここは現実。見るとドラゴンは魔獣を放つだけでは飽き足らず、自ら攻撃を加えようと腕を振り上げていた。

その目線の先には沢山の辺境伯の私兵が戦っており、ジュール()が婚約するときに一度顔を合わせたことのある辺境伯本人と、次期辺境伯であるジゼルの兄の姿も見えた。

ドラゴンがその鋭利な爪で何をしようとしているのかは、一目瞭然だった。指揮系統を潰すことで、一気にこの戦いを終わらせようとしているのだ。


(よん)!ちょっと待ったぁ~!!」


カノンは通常の数十倍の風刃(ウインドカッター)を五発、ドラゴンに向かって打った。そのすべてが威力を保ったままドラゴンの腕に当たったにも関わらず、ドラゴンは無傷だった。その手を止め、気を反らす程度の事しか出来なかったのだ。


(でも今は気を反らすだけで十分)


ソラはドラゴンに向かって叫んだ。


「ドラゴンっ。そこにはあなたのために戦う魔獣もいるじゃない!当たったらどうするの!?」


ドラゴンがその爪を振り下ろせば、辺境伯の私兵だけでなくドラゴンの命令で戦っている魔獣もただでは済まないだろう。


「そのようなこと、我の知ったことではない。魔獣が死のうが生きようが、我にとってはどうでもいいことだ。が、あれらは我の光の魔力を取り込んでいるからな。足の一本や二本失ったくらいでは死なぬであろう」

「「「「!」」」」


自己回復する光属性の魔獣!

ドラゴンのその発言は戦う者たちに少なからず衝撃を与えた。

そしてその発言は、幼い頃からドラゴンの物語を読んでいたソラにとってもショッキングなものだった。

ドラゴンが続ける。


「この国の王族が、我との盟約を違えた。この国を潰すのだ。どのみち魔獣(ヤツ)等も生きてはおれん。元よりどうでもいい奴らだがな」


このドラゴンはこの騒ぎを引き起こした馬鹿(オベルト)と同類だ。自分以外の存在のことをなんとも思っていない。


「はぁ!?何があったか知らないけど、オベルト(たったひとり)のために魔獣ごとこの国を潰そうっていうの!?

そんなのっ!あなたの言っていることもやっていることもオベルトと変わらないじゃないっ!!」


そう叫びながらもドラゴンに向かう足は止めない。


「我がアレと同等と申すか?」


ドラゴンはオベルトと一緒にされることに腹を立てたようで、完全にその意識がソラに向いた。


「だって自分のために戦っている魔獣たちを軽視しているじゃない。国のために戦っている国民を見殺しにして逃げ出したあいつと、言っていることもやっていることもたいして変わらない」


傲慢で尊大、周囲の(魔獣)のことなど全く考えない自己中心的なところは絶対通じるものがある──!本当は「ばーか」と言ってやりたかったがそれは何となく止めた。しかし、余程頭に来たのか、ドラゴンはソラめがけて爪を振り下ろしてきた。

言葉は通じるが話は通じない──本当にオベルトにそっくりだ。

オベルトは口だけだけど、こっちは手も出るから質が悪い。


「気に入らないことがあったらすぐに暴力を振るおうとする。そんなところもそっくりじゃん」


属性魔法で盾を作ってもこの攻撃を止めることは出来ないだろう。ソラは支援魔法(バフ)を重ね掛けし、なんとか避けることは出来たが、衝撃で起こった風に吹き飛ばされてしまった。



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