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75 オベルトの行き先


「第一王子殿下!第二王子殿下の姿が見当たりません!!」


翌朝一番にオベルトの侍従が第一王子の執務室に飛び込んできた。

これまで色々やらかしすぎたオベルト。そしてその全ての対応が後手へ回り、友好国であるにも関わらずファランドール王国に頭が上がらなくなってしまった。これ以上何かを起こされてなるものかと警戒したフォスターは、彼にオベルトを見失ったときに限り問答無用で執務室に踏み入る権限を与えたばかりだった。

離宮に立てた監視の騎士の目も掻い潜って消えたとなると、王家に伝わる秘密の通路を使ったのか──あれの出入り口は限られた者しかしらない!


「探せ!探し出せ!!見つけ次第拘束しろ!多少、怪我をしても構わない!!」


第一王子の(めい)により、オベルト捜索部隊が組織された。


行き先の心当たりといえばファランドール王国王都──カノン・クライスラー子爵令嬢の元だ。入国が禁止されている状態で密入国し捕まるようなことになれば、ファランドール王国の法で裁かれてしまう。()()()()でもこの国の王族だ。騎士による必死のオベルト捜索がはじまった。




その頃オベルトは広い車内で自身の素晴らしいアイデアにほくそ笑みながら目的地に向かっていた。城の馬車を使えばすぐに見つかり邪魔が入るだろうと、単身街に出て民に目的地への行き方を聞いたところ、長距離馬車というものがあると教わった。

そのまま乗り場に向かうと適当に金を払い、そのひとつを貸し切った。




「あぁ、昨日の夜の最終便を貸し切ったあの変な兄ちゃんか。『俺が平民と同じ馬車に乗る訳がないだろう!』とかなんとか言って、馬車が定員いっぱいの時の運賃の倍の金を出してたから、皆驚いて何にも言えなくなったんだ」


オベルトの目的地はまさかのヴォカリーゼ辺境伯領だった!隣国への入国阻止を急務としていた騎士たちは完全に出遅れてしまった。


「ヴォカリーゼ辺境伯領だと!?今更何の用事があると言うんだ」


フォスターは困惑した。前回の怒りが未だ収まっていないと言うのに、また辺境伯領で更に問題を起されるのは非常に困る。


「手の空いている隊を急ぎ辺境伯領に向かわせろ!首に縄をつけてでも連れ戻せ!」


その夜、一日遅れでオベルトを追い、騎士が出立した。

これ以上後手に回るわけにはいかない。第一王子は恥を忍んで『鳥』に手紙を持たせ、オベルトが辺境伯領に向かっている旨をヴォカリーゼ辺境伯に伝えることにした。






「まぁ、貸し切りだしお兄さんには沢山頂いたんで・・・特別ですよ」


その日の早朝、辺境伯領に入り護衛の冒険者と別れた後、そう言って長距離馬車の御者はオベルトを目的地の村に連れて行った。


「帰りも馬車を利用されるのであれば五日後ですからね」


御者が親切にそう告げたが、オベルトは「構わん、帰りは辺境伯に送らせる」と言って、笑いながら山の中に入って行ってしまった。


何の準備も無しに山に入って行ったオベルトに御者は一抹の不安を覚えたが、自分はただの御者。客を運ぶのが仕事だ。特にあんなどう見てもワケ有りの貴族の坊っちゃんに関わって下手に巻き込まれると命が危ないと、さっさと馬車をUターンさせた。




オベルトを降ろした長距離馬車はその後乗り合い馬車専用の馬車止めに到着した。

するとすぐに辺境伯の私兵に声をかけられた。


「すまない、聞きたいことがあるんだが、王都から貸し切りで少年を一人乗せなかったか?」


「は、はいっ。乗せましたけど・・・」


やっぱりあの坊主は訳アリだったんだ・・・!

御者が怯えた様子でそう答えると、騎士は御者を安心させるように言った.。


「大丈夫だ。彼に何があろうと君に被害は及ばない。アレを止めるなんて、一般人には無理だ」


御者にとっては金払いの良いただの貴族の坊っちゃんだったのに、酷い言われようだなと思ったが、取りあえず余計なことは言わずに聞かれたことだけに答えることにした。


「あの坊っちゃんならソロ村で下ろしましたよ。笑いながらドラゴンが住むと噂の山の中に入っていきましたけど──」






「おいっ!ドラゴン!!居るのは分かっているんだ!

この国の王子であるこの俺がわざわざ会いに来てやったんだぞっ!さっさと姿を現せ!この俺をいつまで歩かせるつもりだ!」


森に入って数時間。自業自得だが食べ物はおろか飲み物すら持ってこなかったオベルトは、不本意ながら川の水を飲むことになり、かなり腹を立てていた。


バーンスタイン王国のヴォカリーゼ辺境伯領の山中にはドラゴンが住み着いている。国民の間では物語のような扱いになっているが、ドラゴンが実在することを王族であるオベルトは知っている。

オベルトは冒険者になってまで魔獣の素材を収集するカノン(ソラ)のことだ、ドラゴンの素材であれば喜んで受け取るだろうと思ったのだ。


「おいっ!聞こえないのか!?早く姿を見せてこの俺に何か貴様の素材を寄こせ!!俺はこの国の王族だぞ!お前をこの山に住めなくさせることだって出来るんだ!!!!」


「ほぅ。威勢()()はいい小僧だと様子を見てやっていたが、我をこの山に住めなくすることが出来ると抜かすか。では 我はその前に貴様を(ほふ)ることにしよう」


そう言ってオベルトの前に姿を現したのは白い龍──いや、鱗に光が当たると虹のような色彩を放つ、とても大きく美しいドラゴンだった。


「やっと現れたか。この俺を散々待たせやがって!鱗だ。カノンに贈る宝飾品にするから五枚ほどあれば足るか?それで許してやる。さっさとお前の鱗を俺に寄こせ」


ドラゴンの言葉が聞こえなかったのか、オベルトはそう言ってドラゴンに向かって手を出した。

しかしドラゴンは動く気配がない。


「どうした!さっさとしろ!!」

「で、殿下っ!!」


そこに辺境伯の私兵と王都の騎士がやってきた。


「お前たち、良いところに来た!力ずくでいい、この龍から鱗をはぎ取ッ・・・!「申し訳ありませんっ!!」


やって来た騎士たちは、ものすごい勢いでオベルトを引き倒すと、オベルトの頭を地面にこすりつけた。そして両膝を付くと自分たちも同じように頭を下げた。


「今更だ。この山に足を踏み入れる前に止めていれば間に合っただろうが、もう遅い。しかもそれはこの国の王族だというではないか。この土地を治める一族はいつの間にこのような能無しになり果てたのだ。

この私に鱗を寄こせと宣ったぞ。寄こさねばこの山から追い出すらしい。

私はその前にこの者を屠ると口にした。我は一度口にしたことは成し遂げる。その者を差し出せ」


「も、申し訳ありません。この方があなた様に無礼を働いたことには違いありません。お気持ちも分かります。が、しかし、我らはこの方を差し出すことが出来ないのです」


その時、オベルトを睨みつけていたドラゴンが顔を上げた。知らせを受け急ぎ駆け付けたヴォカリーゼ辺境伯だった。


「白龍殿!」


辺境伯は龍の前に歩み出て膝をついた。そして押さえつけられたオベルトを殺意の籠った目で睨みつけた。

ドラゴンは、身体はもちろん声も大きく良く通る。山に入った時から辺境伯にはドラゴンの言葉は聞こえていた。

そのためオベルトがドラゴンに向かってどんな愚かな言葉を吐いたのかも重々承知していた。


「この者に罰を与えたいお気持ちはよくわかります。しかしこの者は一応とはいえ王族。我の一存では差し出すことは出来ませぬ」


一応とはなんだ、そうオベルトは言いたがったがオベルトを押さえつける騎士の力が強く、痛みで言葉を発することが出来なかった。


「わかった。五日待とう。我らならば数時(すうじ)で済むものも貴様ら人間は数日掛かると聞く。

我はこの山で静かに過ごし、お前たちの世界には干渉しない。また、お前たちはお前たちの領土で過ごし、()()()には干渉しない。これが(いにしえ)からの盟約だ。

それが今、その者によって破られた。五日で返答がなければ我は魔獣らと共に里に下ろう」



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