74 オベルトの名案
「他国の令嬢の誘拐未遂・・・」
第二王子が行方不明だと大騒ぎになっていたバーンスタイン王国の王宮に、ファランドール王国の騎士一行がオベルトを連れ入国して来たと報せが入った。
その後到着した一行から、オベルトの身柄と共に受け取った抗議文に目を通した国王は、絶句した。
オベルトは隣国に密入国した上に、未遂とはいえ子爵令嬢の誘拐という罪を犯したのだ。
これまでも件の子爵令嬢の名はオベルトの口に上がっていたため、犯罪に手を染めるほど好いていたのかと思いきや、そのすべてがオルフェウス・ブローグ大公家令息に対する対抗意識であったらしく、事態を重く見たファランドール王国側は今後オベルトの入国を禁止すると知らせて来たのだ。
更にオベルトが出立前に国王やオルフェウスに向けて吐いた暴言を伝えられた国王は、今すぐ気絶したいと心から思った。
それなのに当のオベルトは反省する様子も見せず「兄上が『これ以上ファランドール王国の領土で問題を起こすな』と言ったんじゃないか。だから他のヤツを使ってカノンをこの国に連れてこようと思っただけだ」と、何が悪いのだという顔で言い返してきたのだ。
そのオベルトの言葉を聞いた時、フォスターは何もかも遅かったのだと痛感した。自分が外に助けを求めたのも、家族を取り戻したのも、既に遅かったのだと。
「オベルト、宮で大人しくしていろ!外出は禁止する」
国王にそう言われ大人しく部屋に戻ったオベルトだったが、最後に目にした光景──オルフェウスの横に立つソラの姿を思い出し、ファランドール王国に入国しなくともとれる手段はあるのではないかと模索した。
外に出られなくとも離宮内を動き回るのは自由だ。
ある日、庭を散策していたオベルトは休憩中の侍女が話をしているのを耳にした。
「え?とうとう彼からの指輪を受け取ったの?その気はないって言ってなかった?」
「そうだったんだけど、色々プレゼントをしてくれるってことは、それだけ私のことを想ってくれるってことでしょう?想うより想われる方が幸せって言うじゃない」
「でも『想い』をはかる方法なんて無いわよ」
「私にとっての『想い』をはかる目安がプレゼントってわけ。指輪を受け取ったからって今すぐ結婚するわけでもないし、様子を見てみるわ」
オベルトは何も言わずにその場を立ち去った。王族が使用人に声を掛けるなどあり得ないからだ。
“想うより、想われる方が幸せ”
“『想い』をはかる目安がプレゼント”
侍女の言っていた言葉が頭の中を回る。
オベルトは以前指輪をカノンにプレゼントして一蹴されているが、先ほどの侍女の話を鑑み、もしかしてプレゼントとは段階を踏んで少しずつ豪華にし、最終的に「指輪」に辿り着くものなのだと結論づけた。
「物は試しだ」
オベルトはそう言うと、侍従に商人を呼ぶよう伝えた。
「フェイ・・・」
季節は冬。王都はすっかり寒くなり時折雪が見られるようになった。
その日フェイがギルドに入ると、珍しく目に光のないソラが待ち構えていた。
「元気がないね、どうしたの?」
一体何が起こったのか。
フェイはソラの只ならぬ様子に、ギルドの空き部屋を一つ借りることにした。部屋に入って二人になったところで、ソラが無言で収納から小箱を三つ取り出した。
フェイは箱を手に取るが差出人の名は無い。だが──
「火属性の魔石のネックレス、火属性の魔石のイヤリング、火属性の魔石のブレスレット──・・・?」
「三日前から毎日寮に届くの・・・」
「・・・『アレ』、だろうね」
流石のフェイも言葉を失った。
カノン本人にあれだけ拒絶され、密入国や誘拐未遂という罪を犯し、王族でありながらファランドール王国への入国禁止という措置を取られてもなお、このような愚行を犯すとは・・・。
しかしオベルトは確かにオルフェウスに何かしらのダメージを与えたいと思っているのは確かだろうが、ここまでくるとオベルト自身が気付いていないだけで、心の奥底ではカノンを本気で望んでいるのではないかと思ってしまう。だからこそ、カノンであろうとソラであろうと常に(というわけではないが、オベルトが見ているところでは必然的にそうなっている)そばにいるフェイに嫉妬をしているのではないだろうか。
しかしカノンから幾度振られようと全く響いていないオベルトが、改めてカノンへの気持ちに気付いたとしても、この現状は全く変わらないだろう。
入国禁止程度の罰では意味がないということだ。
子爵が隣国の王族に苦情など無理だろう。そもそもオベルトのこの行為の原因はオルフェウスへの対抗心だ。
オルフェウスは品物を一旦預かり、この件に関する早期の解決を約束した。
フォスターは頭を抱えていた。
ファランドール王国の王弟の子息であるオルフェウスから闇夜に紛れ、秘密裏に従魔便が来たのだ。正式な手順を踏んでいては解決が遅くなるからということだったが、驚くことにその内容が「オベルトが執心し、誘拐未遂事件まで起こした令嬢の元に差出人不明で連日火属性の魔石のついたプレゼントが送られてくる。犯人がオベルトであるなら即刻止めさせてくれ」というものだったからだ。
半信半疑で、しかし急いで確認を取ったところ、オベルトが犯人であることが判明した。
オベルトが依頼した商人に直ちにプレゼントの送付を止めさせ、フォスターが自身の『鳥』でその旨を返信したところ、数日後にこれまで送られていたプレゼントが送り返されてきた。
そのすべてが火属性の魔石のアクセサリー・・・しかも送り主の分からないのだ(一目瞭然だが)。これを毎日受け取っていた令嬢はさぞかし気味の悪い思いをしたに違いない。
「な、なんでこれがここにあるんですか!?」
オベルトを呼び出し送り返されてきた品々を見せると、彼は驚いたようにそう言った。
「逆に何故送り返されないと思ったんだ」
「フェイの仕業だなっ!」
送り返されてきた理由も考えず、誰かのせいだと怒り狂うオベルト。
しかもフェイとは王弟子息のオルフェウスの愛称ではないか!この国でも隣国でも相手の許可なく名を呼ぶことは許されない。愛称なんて以ての外だ。
まさかオルフェウス自身から愛称を呼ぶ許可を得ているわけでは無いだろう。あちらの国で王族相手に散々不敬を働いたと聞いていたが、まさかここまでであったとは!
「許可なく愛称を呼ぶなど言語道断だぞ!オベルト!!」
フォスターはオベルトのあり得なさに呆れながらも、今回何故こんなことをするに至ったのかを尋ねた。
そこでオベルトが耳にしたという侍女の話と、特別聴講生として学園に通っていた時にも指輪を送り断られていたことを聞くに至ったのだ。
「クライスラー子爵令嬢からアクセサリーに興味がないと言われたのだろう?
そもそも前提として彼女の気持ちはひとかけらもお前に向いていない。そんな女性にこんなものを送っても気持ち悪がられるだけだ。受け取ってくれるはずがないだろう。しかも送り主の名もない等、令嬢にとっては恐怖でしかない。
オベルト、悪いことは言わない。クライスラー子爵令嬢のことは諦めろ」
そうはっきり告げる。
頭を垂れ、退出していくオベルトの背を見送る。
これまでも何度かやんわり同じ言葉を掛けたが、全く響かなかった。しかし流石に落ち込んでいるようだし、ここまではっきり言えば流石のオベルトもわかるだろう。とフォスターは思った。
しかしフォスターは少しも分かっていなかった。
これまで本人からも散々はっきり言われ、誘拐騒ぎまで起こし、国家単位で苦情を言われ、入国禁止の措置を取られたオベルトが、その程度のことで諦めることは無いのだということを。
オベルトは考えていた。フォスターはいつも諦めろとしか言わないが、あれだけの魔法を持つカノンが自分と結ばれればこの国も安泰、オベルトもフェイの鼻を明かすことが出来て一石二鳥だ。上手くさえいけば喜ぶに決まっているのだと信じて疑っていなかった。
「しかし、そうか『アクセサリーに興味がない令嬢』にアクセサリーを送っても不要だと言って送り返されるのか。あの侍女はアクセサリーが好きだったというわけか。
ではカノンが好きなものは何だろうか──」
今日は早めに休むからと人払いした自室でオベルトは考えた。
例の街ではケーキの店で会った。しかし、あの時はフェイがいたため『ケーキ』は既にフェイが散々送っていることだろう。
あとは、緑色の飲み物に白いものが浮かんだ何かを飲んでいたが、オベルトはあれが何かは分からないし、既にカノンが既に手にしているのだからインパクトが薄い。
あと分かるのはカノンがソラとして冒険者をしているということだが・・・確かダンジョンでは薬草を採取していたな──冒険者とは魔獣を倒して素材を集める仕事だとも言っていたか?
素材・・・
「そうだ!いい案がある!!」
オベルトは止められることがないようにと、離宮の秘密の通路を使い、夜に紛れて宮を出た。




