72 どうしたらいいですか?
オルフェウスがグリエール伯爵に「クライスラー子爵令嬢を休ませたいので」と言ってくれたため、挨拶をして部屋を出ることが出来た。
割り当てられた部屋に戻ると公爵家の私兵が扉の前に立っていた。
ミレイユがカノンを探しに行くと言ってきかなかったため、軟禁していたらしいのだ。
「ミレイユ様!ご心配おかけしました!!」
「カノン様!ご無事でしたのね。あなたが魔法に長けていると存じ上げておりましたけど、まだ学生だということは変わりませんわ。あまり無理をしないでちょうだい」
そこへカノンを探しに森に入ってくれていたヴァンと引率の教師も戻ってきて、カノンの無事を喜んでくれた。
詳細はオルフェウスの口から説明してくれるそうで、カノンはミレイユと一足先に休むことになった。
最終日に色々あった実践訓練はこうして終了し、一行は翌朝には王都に向かってグリエール伯爵領を出たのだった。
「フェイ。疲れているところ、本当にごめん」
疲れを癒すため、今日明日と学園は休みである。
ソラは朝一番で、冒険者ギルドにフェイを呼び出していた。
フェイも疲れていることは重々承知していたが、誰に相談するべきか判断がつかなかったのだ。
「いや、ボクはそんなに柔ではないし、ゆっくり休んだから大丈夫だよ。それに疲れているのはソラも一緒だろ。ボクを頼ってくれてうれしいよ。で、一体どうしたの?」
「それがその──」
「「「はあぁ・・・」」」
その場にいた数名の口から、大きなため息がこぼれた。
カノンは『ソラ』として『フェイ』と会い、グリエール伯爵領で昨晩起こった出来事を話した。
その結果、黒い笑みを浮かべたフェイにそのまま学園長の屋敷に連れていかれたのだ。
そこから先触れを出すこと一時間足らずで今、国王陛下と王太子のブライアン、王弟である学園長とオルフェウス、そしてソラという面子で王城の一室、豪華な応接室にいる。
さすがに国王陛下の御前だが、カノンが王宮に行くと目立つため、ソラの姿のままである。
「しかし、バーンスタイン王国の第二王子のあの異常な熱意がオルフェウスに対抗してのものだったとは・・・」
国王が遠い目をしている。おそらくあの留学前の書状のやり取りを思い出しているに違いない。
「しかも『自国に連れ帰れば問題ない』という訳の分からない理由で他国の令嬢を誘拐しようとするとは──」
訳が分からないと言わんばかりに国王陛下が何度目かのため息をついた。
あの執着、言葉の通じなさは最早娯楽として楽しめるものではない。流石のソラもキレそうだった。いや、最終的にはキレてしまったのだが・・・。
「そして、第二王子に雇われた男が元ファランドール王国の貴族だと名乗ったのだな」
「はい。風魔法と、隠していたようですが契約魔法の二属性だと言っていました」
「そうか・・・」
国王は神妙な面持ちで答えた。元、とはいえこの国出身の貴族。しかも二属性であれば、高位貴族の血筋だからだろう。
「第二王子の勝手をこれ以上許すことは出来ん。バーンスタイン王国には抗議文を送り、それなりの罰を求める。そして我が国の元貴族だと言うその男の身柄をこちらに渡すように要請することにする。この期に及んで知らぬ存ぜぬなどと抜かすのならば、友好条約を破棄してやる!」
国王陛下がそう口にしたところで、オルフェウスが手を上げた。
「陛下、それには及びません」
「なに?もう男を捕えていると申すのか?ならば容易い、口を割らせ、第二王子の関与を聞き出すのだ!」
「それにも、及ばないのです」
そう、カノンがフェイに相談したかったのがこれだ。
しかし、流石のオルフェウスも自分の手に余ると王弟殿下を通して先触れを出し、このような場が設けられたのだ。
「?」
国王は訳が分からないと言った顔でフェイを見ていたが、何かに気付いたブライアンがポツリと呟いた。
「まさか・・・漆黒の穴・・・」
そういえばブライアンには一度頼まれて漆黒の穴を見せていたなとカノンは思った。
「ブラックホール?なんだそれは」
国王の質問にブライアンが答える。王弟が楽しそうに笑みを浮かべており、カノンもオルフェウスも自身の言葉を否定しなかったため、肯定したと判断したのだ。
「・・・二人ともクライスラー子爵令嬢の収納魔法の中にいるということですよ」
「は?」
そう、カノンの相談は「インベントリの中にいるオベルトと騎士と馬と馬車はどうしたらいいですか?」だった。
「収納魔法とは、人間を入れることが出来る魔法だったか?」
「あ、それは何回か確認しているので大丈夫です」
カノンが答える。
「な、何回か・・・」
国王が、唖然とする。
元々知っていたオルフェウスと、街での話を聞いていたブライアン。先触れを出すにあたり前もって話を聞いていた学園長はその反応に苦笑している。
「なので、騎士の身柄はそちらで引き取ってもらえますよね?
アレは抗議文とともに乗ってきた馬車に乗せてバーンスタイン王国に送り返せば、あちらも言い逃れは出来ないでしょう」
カノンの後をオルフェウスが引き継ぐ。オベルトが「アレ」呼ばわりになっている・・・いや、出会った時からオルフェウスはオベルトの名をほとんど口にはしていない。
オベルトの執着がカノンでなく自分であることにオルフェウスは安心したが、これまでのことを考えると腹が立つことにはかわりない。しかも自分の対応のせいでカノンに不快な思いをさせてきたかと思うと、申し訳なくも情けない気持ちでいっぱいだ。
感情を表情や言動に出さないように教育はされているが、オルフェウスに感情がないわけではない。どうしてもオベルトに対する不快感が口をついて漏れ出てしまうのだ。
「これまでも王族や公爵家の後ろ楯のあるクライスラー子爵令嬢に散々迷惑を掛けていたのです。その極めつけが誘拐未遂だ。更にそもそもそのターゲットが王族である僕だったというではないですか。
これはアレを国内立ち入り禁止にする十分な理由になりうるでしょう」
──よろしくお願いいたしますね。伯父上。
オルフェウスは目茶苦茶怒っていた。




