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71 フェイの元へ


「ひゃっ!」


 突然聞こえた短い悲鳴に、オルフェウスは瞬時に反応した。

 上から降ってきたカノンを受け止めたのだ。


「ナイスキャッチ!ありがとう、フェイ!!」

「どういたしまして」

「転移魔法、練習しておいてよかった~」


実はジュールのSOSにより子爵領に向かっている途中でフェイと話した通り、カノンは転移魔法の練習をしていた。どこにでも自由に。とはいかないが、オルフェウス(フェイ)を行く先に指定した転移魔法だけは何とか出来るようになった。逆に言えば、まだオルフェウス(フェイ)以外を「行き先」に指定した転移魔法は成功していない。

そのため、きっとカノンは自分めがけて転移してくる。オルフェウスはそう信じて、いつカノンが転移してきても良いように、騎士に紛れて森に入っていたのだ。


「で、今日、一体何回魔法を使ったのか。実際には何回使えるのか、そろそろ僕に話してはもらえないかな?」


オルフェウスはカノンを下ろすと、そう言ってカノンに詰め寄る。カノンの背中が木に当たったところで、オルフェウスは片手をカノンが背にした木についた。

いわゆる壁ドンと言うヤツだが、カノンにはそれを堪能する余裕はなかった。


カノンは夢中で気付かなかったが子爵領に向かっていた時にも、無意識に魔法を十回以上使っていたらしいのだ。

だから火魔法で十回目の魔法を使ったことが分かっても、オルフェウスはそれに関しての心配はしていなかった。


カノンは、自分が行方不明になった経緯より先に魔法回数について尋ねてきたオルフェウスの、その寂しそうな表情を見て全てを白状することにした。学園で『オルフェウス』が使っている魔法属性がカノンの知らないものだったあの時の、やるせない気持ちを思い出したのだ。




「──なので、わたしが十回以上魔法を使って万が一クスノセさんが上司(多分いる)から叱られたらいけないと思って、魔法回数を十回に制限していました・・・」


クスノセさんがタップミスをしたとはいえ、結果騙した形になったので、カノンはなるべく魔法を使うのを控えていたのだ。カノンの特典が百回に設定された時点で叱られ案件なのかもしれないし、異世界でのことだからカノンが気にしなくともどうってことないのかもしれない。だからカノンのこの行為は完全なる自己満足だ。

だけど今ならクスノセさんがなぜ十回と言ったのがわかる。この力は異常だ。だから今後も忘れて際限なく使わないように魔法を使うときには数を数えるし、緊急事態以外では一日十回しか使わない。


「生まれ変わり──頭を打って思い出すって、本当にあるんだ・・・」


確かにこの世界の物語にもそういった設定のお話は存在するし、輪廻転生の考え方もある。

物語には溺れて死にかけたり、病気で死にかけたりという設定が多いなとは思っていたけど、死にかける(それ)くらいの衝撃を受けないと前世なんて思い出せないのだ。

何といってもカノンだってアンデッドと間違われた(=一回死んでしまったと思われた)くらいには傷を負ったのだから。


「いや、本当に失血と衝撃で死にかけたんだよ。あれのお陰で魔法を発現することが出来たけど、それでも転生課のことと好きだった本や物語の内容以外はあまり思い出せなかったし──


──これを話したのって、フェイだけだからね?」

「・・・うん」


取りあえず伯爵邸まで歩きながらオルフェウスにあらかた白状し、カノンは騎士の皆と合流した。




屋敷に帰ってすぐ、カノンはグリエール伯爵の元に案内され状況を聞かれた。未だカノンと一緒に行方不明になった騎士が見つかっていないからだ。

カノンは困ってしまった。ここまで転生課についての話をしていたため、オルフェウスにカノンが行方不明だった数時間にあったことを話していない。──つまり、情報共有と口裏合わせが行われていないのだ。


いつもなら説明はオルフェウスが上手くごまかしながら話してくれるのだが、今回はそう言うわけにはいかない・・・カノンは仕方なく自分であったことを話し始めた。


「最初、騎士さんに会ったのは夜の庭を散歩している時でした。気を付けるようにいわれて直ぐに別れました」

「騎士があの時間に庭に?変だな。学園生の指導とはいえ任務中の騎士は、翌日に備えて夜間の外出は制限されているはずだ」


聞くところによると彼は一月前に入隊したばかりらしい。強力な風魔法と品行方正で真面目、人好きのする性格、以前も貴族に仕えていたとのことでマナーも完璧ということから、今回学園生の実践訓練の指導係に抜擢されたのだという。

休んでいるはずの彼がなぜ庭にいたのか──十中八九、明日王都に戻るカノンに何とかもう一発魔法を使わせて連れ去るつもりだったのだろう。カノンは小動物を見つけたくらいで夜間に部屋を出るようなかわいらしい性格はしていないが、おそらく契約魔法を使ってカノンを外に誘導しようと思っていたはずだ。


「騎士さんと別れてしばらくすると、助けを呼ぶような声が聞こえたので声の聞こえる方に行きました。するとその騎士さんが大蛇に巻き付かれていて、もう飲み込まれる寸前だったのです」


実際は契約した大蛇に命令した演出だろうが、それを話したところで信じてもらえるとは思えない。

カノンの話を聞いていた人々が息をのんだ。


「人を呼びに行く暇はありませんでした。騎士さんには意識があるようでしたので、まず大蛇から騎士さんを解放しようと思い騎士さんに当たらないように大蛇の足元に向かって火の属性魔法を打ち込んだんです。

上手く命中したみたいで大蛇の拘束が弱まり騎士さんが解放されました。

そこで騎士さんに駆け寄ったところまでは覚えているのですが、その後何故か意識が遠退き、次に目覚めたときには知らないところにいました。


そして騎士さんは──」


(騎士さんは・・・実は誘拐犯の手先で、目が覚めたら彼が操作する馬車に乗せられていました。更に目の前に隣国の第二王子がいて隣国に連れ去られている最中でした、とは言えないよね・・・なんでわたしが馬鹿のせいでこんなに悩まないといけないのよ!!)


考えると腹が立ってくる。カノンがうつむいて拳を握りしめ怒りに震えていると、何を勘違いしたのかグリエール伯爵が静かな声で騎士の捜索を打ち切る指示を出した。

オルフェウスが気の毒そうな顔でカノンの肩に手を置き、周囲で話を聞いていた騎士さんたちも悲痛な表情をしている。


(え・・・)


捜索の打ち切りは全然構わないのだが、何故か人一人を社会的に抹殺してしまったような気分だ。


居たたまれない!

違うのだ!


ヤツは今、カノンの収納(インベントリ)の中にいる!



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