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7 冒険者をする気はない?


「大丈夫みたいです。他の部屋を見て回りましょう」

「「「「・・・(大丈夫じゃない・・・)」」」」


階段の手すりと壁の一部は粉砕されていたが、床は無事だったため全ての部屋から盗品を回収することが出来た。

その後拘束された盗賊を引き連れ元の場所に戻って来たカノンらは、今発てば日が沈む前に王都に着けるだろうと、このまま王都に向かって出発することになった。

カレリアは拘束して放置していた盗賊たちに水を掛けて叩き起こすと、集落から連れて来た者たちと一緒に馬車に繋いだ。本当に盗賊たちを走らせる気らしい。

アッシャーが御者を務め、馬車が出発した。


驚くことに盗賊たちは誰一人転倒することなく馬車についてきていた。

繋がれている以上、馬車のスピードに合わせて走る必要がある。走るのを止めれば周囲を巻き込んで転倒し、馬車に引きずられることになるからだ。

幌馬車の後ろに繋がれ、汗水垂らして必死の形相で走る盗賊たちを見て、日頃から山中で活動している?だけあって体力があるんだなぁとカノンが感心していると、その様子を見ていたカレリアが、満足気に笑って言った。


「ふふっ。この拘束魔道具にはギリギリ走り続けられるだけの体力をキープするために、若干の回復魔法が付与されているのよ。便利でしょう?」

「え」


と、いうことはこの拘束魔道具は走らせることを前提に作られているということになる・・・。

ちなみに通常は意識を狩ったままその辺の木に縛り付けておき、準備を整えてから騎士団と共に回収に来るのだそうだ・・・。






「で、君のあり得ない魔法について話を聞かせてもらってもいいだろうか」


光、水、風、土、空間(収納)魔法・・・通常、魔法とは貴族の血を引くものに一から二属性『発現』し、魔力量の多さを含め、爵位や血の濃さに比例すると言われている。カノンの魔法ははっきりいってこの世界の常識から完全に逸脱していた。


(まぁ、そう聞かれても仕方がないんだけど、なんて説明するべきかな?)


カノンは悩んだ末、転生課のことは伏せて頭を打ったことがきっかけで魔法が発現したという事実だけを伝えた。


「それはさっきも聞いたが物理的な刺激で(頭を打って)魔法が発現した事例など聞いたことがない」


納得のいかない顔でエイシスがそう呟く。それはそうだろう。カノン自身も聞いたことがない。

カノンの『魂』がどれくらいの時を生きて来たのかは知る由もないが、おそらく前世の記憶を思い出したことで、精神が成熟したと判断?されたのではないかと思っている。


「しかも一日十回とはいえこの世界にあるどんな魔法でも使えるなんて──」


エイシスはまだ信じられないと言いたげだが、多属性魔法を放ったカノンを見ているため否定も出来ないようだった。


カノンが魔法とその制限を彼らに話したのは兄が信頼している冒険者であるということと、何かあった時に頼ろうと思ったからだ。


「エイシスは真面目くんだから気にしないでいいよ。改めて、僕はフランツ。槍使いだよ、よろしくね♪」


そこで、まだ納得がいかない様子のエイシスを押しのけてフランツがカノンに話しかけてきた。

フランツは柔らかな笑顔でそう言うと、興味深そうにカノンを見た。フランツは少し癖のある金髪を前髪は長めに、襟足を短めに切り揃えた男性だった。顔の角度によって前髪に隠れる美しい翠眼がとても魅惑的で恋愛ごとに疎いカノンにも「この人モテるんだろうなぁ」と分かる。


「エイシスは剣士で彼女は魔法師のカレリア、御者をしてくれているのが大盾使いのアッシャーだよ。 僕たちは四人で『暁の庇護者』というパーティーを組んでいるんだ」


フランツが改めてメンバーの簡単な紹介をしてくれた。ちなみにエイシスは濃い緑色の髪とヘーゼルグリーンの瞳を持つ正統派の美丈夫で、髪は長め。アッシャーは濃紺の髪に瞳。短髪で精悍な顔つきの大男だ。

改めてみると、えらく顔面偏差値の高い集団である。


「ねぇ。カノンちゃんは王立学園に入学するんでしょ?冒険者になる気はない?」

「フランツ!」


突然そんなことを言いだしたフランツをエイシスが咎めた。


「だって希少な魔法だよ。登録してもらっていたらいざという時に心強いじゃないか」

「だからと言って貴族令嬢に冒険者なんて──」

「普通じゃない?」


貴族家の三子以降は騎士や冒険者になる者が多いと聞く。その為魔法か剣技に優れていることが前提にはなるが、貴族令嬢が冒険者をすること自体は不自然ではない。

それにおそらく彼らも貴族だ。三人は武器と共に火力の強い魔法も使えるようだし、魔法師であるカレリアに至っては複数の属性を持っているようだ。それにカレリアは収集家(コレクター)と言うだけあり高価な魔道具を沢山持っている。高位貴族であるのならそれも頷けた。


「未成年だぞ。親の許可もないのに冒険者など問題外だ。万が一体に傷が残りでもしたら──」

「──残らないだろう?」


フランツがそう言って視線を動かし、それにつられたエイシスと共にカノンを見た。二人の視線が痛い。

盗賊の集落に井戸があったためきれいに洗い流されたカノンの頭には、血痕はおろか傷一つ残っていなかったからだ。



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