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68 蛇の魔獣


今日は到着したばかりなので、実践訓練は明日からになる。今日は夕方に担当騎士の紹介や訓練の流れの説明があるが、それ以外は自由行動ということになった。


「オルレアン辺境伯令息とフェ・・・ブローグ様はそっちの部屋で、わたしとミレイユ様がこっちの部屋だね」


割り当てられた部屋の前で男女に分かれる。これは訓練の一環なので公爵令嬢だろうが王族だろうが相部屋だ。

カノンは荷物を整理すると、庭でも見てこようと廊下に出た。すると、同じく男子部屋の扉が開き、ヴァンが出てきた。


「あ、オルレアン辺境伯令息も探検?」

「時間があるので庭でも見に行こうかと思って。他領での魔物討伐ははじめてなので、緊張して──」


共に歩き出したヴァンがそんなことを言った。

同じ辺境伯でもやり方などが違うのだろうか?カノンも集団での魔物討伐がはじめてであるが、そんなこと考えもしなかった。


「フェ・・・ブローグ様も一年生の時は別の場所に行ったからここははじめてだって言っていたし。経験があってもオルレアン辺境伯令息だって、ここでの訓練ははじめてなのだから、堂々と教えてもらえば良いだけだと思うな」


そんな話をしながら庭を歩く。


「あの、クライスラー子爵令嬢──」


足を止め、ヴァンが言いにくそうに切り出した。


「なに?」

「あの、僕のことはヴァンと呼んでいただけないでしょうか。オークス公爵令嬢を名前で呼ぶクライスラー子爵令嬢に家名を呼ばれるのは居心地が悪くて──・・・」


そう言われてみればそうかもしれない。カノンはそう思い快諾した。


「わかった。じゃあヴァンもカノンって呼んでね。

そう言えばヴァンの雷魔法、威力コントロールが完璧すぎてびっくりしたよ。凄いねぇ!あんなに使いこなせるなんて思ってなかったよ」


雷の複合魔法をカノンが教えたことは秘密であるため、こんなときでないと話せない。


「はい。お陰さまで夏季休暇に魔獣討伐で貢献できました!ありがとうございます!!」


ヴァンの顔はあの当時に比べ、スッキリとしていた。

そこで、カノンは以前から気になっていたことを聞くことにした。


「で?『ざまぁ』は出来たの?」

「えっと・・・『ざまぁ』が何かは分かりかねますけど、うちの家族関係は至って良好ですよ?」


──その後二人は庭を一回りして部屋に戻った。




ヴァンの心配は杞憂であったようで、一年生の訓練は騎士に見守られながら学園生同士で協力して魔獣を討伐するといったものだった。

討伐に慣れた三人は良いとしても、生粋の令嬢であるミレイユにはじめての討伐。ここで魔獣討伐に対するトラウマを与えるわけにはいかない。

しかも訓練で討伐した魔獣の素材は訓練を担当してくれた貴族が買い取ってくれ、その代金は学園生が自由に使って良いというのだ!──と、言うわけで、訓練内容説明後の作戦会議は『いかに安全に、素材を傷つけずに魔獣を討伐するか』が話し合われた。




「ミレイユ様!」


この時期の魔獣の動きは鈍い。とは言っても、全盛期に比べてマシという程度なので、討伐に慣れていない者からすれば普通に速い。

気配を消して行動し、魔獣を見つけたところでミレイユが土魔法で魔獣の足元に穴を空け(もしくは土壁を四方に立て)、動きを封じる。そしてカノンが水魔法でその穴を満たし、ヴァンが雷魔法を投下する。回復役であるオルフェウスが風魔法でお亡くなりになった魔獣を持ち上げ、ミレイユが土地を原状復帰させた。


本当ならそれぞれの力量で魔獣を倒すことは可能なのだが、今回はチーム戦ということでこの体制になった。

ミレイユは魔獣討伐がはじめてである上にカノンには回数制限がある。複合魔法で威力は増しているが、ヴァンの魔力が多い方ではないからだ。


「見事な連携です」


一連の流れを見ていた付き添いの騎士がそう言って近付いてきた。


「オルレアン辺境伯令息の雷魔法!噂には聞いていましたが素晴らしいですね。出来ればクライスラー子爵令嬢の氷魔法も拝見したいところです!」


やはり普段から戦いの場に身を置いているだけあり、騎士は皆複合魔法に興味があるようだった。


「しかし、クライスラー子爵令嬢は詠唱をしていなかったようでしたが・・・」


騎士の一人がカノンに尋ねた。


「はい、魔法科の先生に教わった手印魔法が興味深くて使えるように練習したんです!」


カノンは指で一、二、と『手印』を作りながらそう説明する。


「え?手印?あれが?」

「いや、本来手印魔法とはそういう簡便なものではないはずなのだが──」

「ですがその手印、まるで()()()()()()()()()()()ですね」


騎士たちの反応は困惑していたり興味津々だったりと様々であったが、取りあえず目的は果たしたため一旦伯爵邸へ帰還することになった。




訓練は順調に進み、いよいよ明日は王都に帰還するという日。

その日は何故か蛇の魔獣が多くみられた。サイズも大小おり、中には毒を持つものまでいた。

地を這ってくるので最初は予定通りチームで連携してまとめて補殺していたが、木の上から襲ってくる個体も多く、最終的には付き添いの騎士も討伐に参戦することになった。


「昨日までは蛇魔獣なんか一匹も出なかったのに、変だな」


オルフェウスは森の異変に眉をひそめた。

騎士の参戦もあって無事に訓練を終えたとき、カノンがオルフェウスのそばに来て声をかけた。


「九回も使っちゃったよ」

「これから伯爵邸に戻るし、今日は邸で大人しくしていれば大丈夫だろうけど──」

「けど?」


「・・・いや、カノンが大人しかった試しがないなぁと思って」


オルフェウスはその不安をカノンに悟られないよう、誤魔化すように茶化してみせた。

明日は王都に戻る。この異変は騎士たちが改めて調査するだろう。自分は訓練のことだけを考えればいいのだ──そう自分に言い聞かせるオルフェウスだったが、胸騒ぎが収まることはなかった。




その夜、カノンは最後に庭を散歩することにした。


「あれ?クライスラー子爵令嬢?お一人ですか?」


そこでカノンは訓練を担当してくれている騎士の一人と会った。


「はい。寮に戻ったら夜の散歩なんか出来ないので今のうちにと思って・・・」

「邸の敷地内ですから大丈夫でしょうけど気を付けてくださいね」

「はい。ありがとうございます」


そう言って騎士に手を振り別れる。

カノンは星いっぱいの夜空を眺めながらしばらく歩いていたが、ミレイユが心配するかなと、そろそろ戻ることにした。


「助けてくれっ!!」


その時、遠くから先ほどの騎士と思われる男性の声がした。

何事かと声を頼りにそちらに向かう、森ほどではないが木々が繁り視界の悪いところから「やめろっ」「クソッ」などの声が聞こえてくる。


「大丈夫ですか!?」


カノンが声をかけると、騎士が巨大な蛇に絡めとられているところだった。


「た、た・・・けて・・くれ・・・っ!」


騎士が力なくこちらに手を伸ばしてくる。


今日、カノンは魔法を九回使っている。

騎士に姿を見られたため選択肢は『カノン』の使える火、風、水のどれかの属性に限られる。確かこの騎士は昼間風の属性魔法を使っていたはずだ。意識はしっかりしてそうだしカノンの魔法で騎士を解放すれば、彼が蛇を討伐してくれるだろう。

安全かつ確実に騎士を解放するためには──カノンは瞬時にそう考えると指を広げ(十を示す手印で)、蛇が苦手だという火属性の魔法を蛇の足元を狙って放った。

蛇の拘束が緩み、騎士が解放された。


(あれ?)


この騎士は手が自由に使えて意識もしっかりしているのに何故自分で魔法を使わなかったんだろ──?


「大丈夫ですか!?」


疑問を感じながらも騎士に駆け寄った次の瞬間、カノンは意識を手放した。



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